日本は朝、ドイツは夜中。

時間で言えば8時と12時というところですが。


こんな時間に電話を掛けたら迷惑かなぁとか。

でもシュウのことだからきっと起きてるだろうなぁとか。

そうでもなかったら叩き起こすぐらいの勢いで。


そう思って受話器を持ち上げたけど、下ろした。


……私だったら普段こんな時間に電話を掛けられたら困るなぁ。

向こうだって休日の朝を妨害されたら嫌かもしれない。

特別な日以外、こんな時間に電話なんてありえないだろ。

そう思った。


だけど、今は特別なんだ!

再び受話器を握り直した。


時間のことは解決。時間のことは、解決しました。











  * +遠近符号恋愛+ *












受話器を持ち上げて、固まった。


冷静に考えて、私。
今日一日で、私自身はありえないほどにシュウが好きで
どれだけ離れててもいくら時が経っても忘れられなくて。そのことに気付いた。
も後押ししてくれて。こんな私を。

その応援に応えるためにも、私は向き合わなくちゃいけないと思った。
というか、好きなんだからそれを伝えよう!と思った。


でもそうだよ。
冷静に考えてよ。

確かに私はその事実に気付いた。
でも、向こうはどうなの?
そもそも事の始まりは、シュウの“分からなくなった”発言から。
そうでもなかったら、私はとなんか付き合わなかった。
傷付けることも…なかったかもしれない。
あったとしても浅かった、とか。



「…文句を言うためにもファイトよ、それプッシュ!……」



独り言で自分を駆り立ててみたけど。

…ダメだ。
やっぱり、怖い。
私、シュウに何か言われたら立ち直れない。


だけど、先送りにしたって…!

でも、ほとぼりが冷めるまで…。

ダメよの応援を無駄にするの!?

でもでも、シュウのことだから向こうから掛けてくるかもしれないし…。

いや、向こうがこっちの夜中に掛けてくるはずが無――





『プルルル』


「?!?!?」




瞬間、私は腰が抜けて口から心臓が飛び出す勢いで驚いた。


ナンバーディスプレイ確認。



本当に掛けてきた。





…… 一発勝負!







「もしもし、シュウ?おはようございますこんにちはこんばんは!
 こちら、でございまするれ!私はアナタが好きです!以上!!!」








ガチャン。

電話を切った。



……何をやっているんだ私。







掛け直そう。

いや、シュウのことだ。
向こうが掛け直しているに違いない。
国際電話高いのにねぇ。ご苦労様です。

そんなわけで私は待機。



『プルルル…』



来た。

今度は落ち着いて、受話器を持ち上げることが出来た。



「…もしもし」

「あ、か?」

「ゴメンナサイ。相当有り得ないほどにテンパってました…」


シュウは、良いんだよ、と笑った。
その笑い声を止めると、真面目な声に変えて。


「謝るのは…俺の方だ。この前は突然変な電話しちゃって…ごめんな」

「ううん」


ああ、シュウだ。
電話の向こうにシュウが居る。

シュウじゃん。
シュウだよ。
シュウですよ。


「どうしてたんだろな、ホント。分からない、なんて…何が分からないかも分からないのに」


苦笑い交じりの声。
ああ、向こうも同じこと感じてたんだね。

私だけじゃない。
お互い不安だったんだ。

不安な気持ちで一杯で、分かってることも分からなくなっちゃった。


「実は…その、とある人から……告白されて」

「えっ、シュウも?」



……はっ。

口が滑った…。


本当に、私は隠し事が出来ない人間らしい。

必死に隠したとしても、いずれバレるし。



「“も”って…もか?」

「いやぁあはは…」



でも…何たる偶然。それとも運命?

シュウは小さく溜息っぽく息を吐いてから、話を再開する。




「まあ…とにかく。俺なりに色々と考えたんだ」

うん。私も考えた。


「俺たち…こんなずっと離れてるけど、付き合ってていいのかとか」

私もそれ、不安だった。


「そういえば、どうやって付き合い始めたんだっけとか」

理由は、私たちの中だね。



「今までのこと、色々と思い返した」


私だけじゃない。

シュウだって、沢山たっくさん考えて、悩んでくれたんだ。



「それで、一つ伝えたいことがある」

「え、なに?」




シュウは、一瞬溜めを作ってから。






 「誰よりも何よりも、のことが好きだ」






そのなんとなく聞き覚えのあるセリフで、
私は今日の日付を思い出した。



「…おぉ、ホワイトデー!!」

「俺は忘れずに当日に思い出したぞ」

「ぐ……」


こんな皮肉を飛ばすことができるのも、
心から、本音を飛ばすことができるのも。


…ああ。

本当に自分はこの人のことが好きで、信頼してて、愛しくて。




「ねぇ、シュウ。空を見て」


シュウが歩く音がした。
子機を掴んだまま窓まで向かったのかもしれない。

私も外を見る。


「星空がね、とっても綺麗だよ。そっちは?」

「こっちは快晴だ。日が少し高くなってきた」

「ほら」


向こうの?マークが感じられた気がしたので、私は続けた。




 「繋がってるんだよ」





空は…高いけど。

でも、そうやって考えると、遠くはないでしょ?




向こうの笑顔が、見えた気がした。


だから私も、笑顔を零した。







遠距離恋愛?

それもまた有りじゃないですか。


好きと好きが重なって初めて力を発揮するように。

プラスとプラスの力は、より大きなプラスに変えていく。



問題なのは、本人たちの気持ちです。

それは遠くたって近くたって同じ。






















やっぱりハッピーそれが大稲。
たまにはこういう時期もあるさーって話。
一瞬の過ちだよ。許して。

思ってたより大作になってしまった。げふ。

私が大石を好きになって2年記念…かも。
ホワイトデーも兼ねてね。
二人が正式に出会うのは、もう少し後ですね。


2004/03/13