人は本当のことを言われると頭に来るというけれど。


それは、

紛れもない事実だと悟った。











  * 疲れてないよ。 *












妙なほどに苛付いていた。


普段ならそんなことないのに、制御できない。

そんな自分に余計に腹が立っていた。



テニス部の副部長に加えて、委員会の仕事も増えた。

慣れないことが重なって、ストレスが溜まる。



そんな時、誰が支えてくれる?



それは例えば親友だったり。

もしくは家族だったり。


恋人だったり。




答えは一つではない。

しかしその分、

その選択肢がまた負担となることがある。




この人には心配を掛けたくない。

それじゃあ、こっちの人に相談しようか。

そうすると、こっちの人に迷惑じゃないか。

それを言ったら、誰に相談なんかできるんだ。


思えば俺は相談は受ける側専門で、する側に回ったことがあまりない。

全くないといったらそれも嘘だけれど、少ない。

そんな俺が突然、「最近仕事が多すぎて困る」などと誰かに言ったら、

それは相談ではなく愚痴というものではないだろうか。


誰だって愚痴は零すものなのだろうけれど。

それでも、抱え込んでしまうという、損な性分。




正直に胸の内を打ち明けたい。


だけどそれは、怒りをぶつけることそのものに繋がってしまいそうで。




また、不満が募る。


こんな自分が嫌だ。



また、積もる。







助けてほしい。

素直にそう思った。


誰でもいいから。



手を差し伸べてくれるのは、


親友? 家族? それとも 恋人?









 「あ、シュウっ!」








ていの良いことに。



そこに現れたのは

小さな体をした、可愛い恋人。


小走りで俺の机に近付いてくる。

小さな安らぎをくれる、大切な、存在。



「まーだ仕事やってたんだ!私もう部活終わっちゃったよ?」

「そうか、早かったな」

「ち・が・う!シュウが遅いの。見て、もうとっくに6時!!」



時計を指差すと、凄い勢い捲し立ててきた。


そうか…もうそんな時間か。

気付かなかった。

都合3時間弱座りっぱなしで居たことになる。

道理で、気も滅入ってくるはずだ。



打ち明けてみようか。

ぶちまけてしまおうか。



たまには良いんじゃないか。

ちょっとした愚痴を零すくらい。

それで気が晴れるのだったら。


耐えて耐えて、爆発してしまうくらいだったら、

まだ小さなうちに、少しずつ処理してしまえばいい。





―――…実は、最近仕事があまりに多くてな。




――ん?別に無理はしてないぞ。俺だって愚痴を零したいときくらいあるさ。



――事務的な仕事ってのは、かえって部長より副部長の方が多かったりするんだ。



――手塚なんて、ズルイんだぞ。
   眉間に皺寄せて「グラウンド10周!」とか叫んでればそれでいいんだから。



――先生も先生だよな。今やってるこれは学級委員の仕事なんだけど、
   女子には甘くして俺の方ばかりに仕事を回すんだ。困ったもんだよ。




―――…そうだ。今日はこの仕事を終えたら帰るから、一緒に公園にでもいかないか?
    早く終わらせたいから、ちょっとだけ手伝ってもらえると助かるんだけど、いいかな。






頭の中で、そこまで会話が形成された。

これならただの愚痴として終わらず、且つ文句も言いたいだけ言える。


笑い話に紛れさせてしまえば、

向こうもそれほど心配しなくて済む。



だから、向こうが、気付いてしまう前に。


俺の方から言い出さなくちゃ、いけなかったのに――――…。










 「最近疲れてるでしょ」








ぽつりと一言。




虚をつかれた俺は、はっと顔を上げる。

そこには、いつに無く真剣な表情があった。




図星。


これほど痛く、且つ間抜けなものだとは思わなかった。

先ほどまで頭の中で構成されていた会話など、一気に吹っ飛んだ。


疲れてないよ、と。

俺は鼻に掛かった苦笑いを零す。



「本当に?」と訊かれたので、

「本当だよ」と返した。



嘘じゃないか。

だけど、そのように言われると、余計に、

「疲れています」なんて言い出せなくなってしまうもので。



向こうはそんなこと、気付いていない。

純粋に俺のことを心配してくれていて、気遣ってくれているのだ。


だから、寧ろ余計に。

それに素直に縋ることの出来ない自分自身に、苛立ってしまうんだ。


それとももしかすると、ちょっとだけ、

こっちの気も知らないで…という怒りも、交じっていたかもしれないが。





「手伝えることあったら、やるけど?」




ありがとう。

それだけ言えば、いいのに。



向こうは厚意で言ってくれているのに。

分かっているのに。


何だろう。



溜まりに溜まった。


募りに募った。



積もりに積もったものが、ついに。











 「大丈夫だって、言ってるだろう!」











…初めてだった。


に向けて、こんなに語調を強めて事を言い放ったのは。





しまった、と思う自分と、

その反面、どこかスカッとしている自分が居て。


そんな自分が、嫌だ。







余りに小さな声で。

それこそ、聞き取るのも困難なくらいな。


それほどに小さな声で謝ったは、教室から出て行った。





ごめん。




頭の中でリピートされたその言葉は、

の声では、構成されていなかった。







 ごめん。  ごめん。








視界の端を掠めていった、あの、顔。


今すぐにでも、泣き出しそうな。







机に目を落とす。

やりかけの中途半端な書類が、目に入った。

額に手を当てたまま、それは片手で集めて。

明日に回すことに決めて、机の中に無造作に放り込んだ。



嵐の前と後は静かだというが、

まさにその通りだと思った。


だけど、後の方が、

吹き荒れて飛ばされてしまったものがある分、

より一層静かだと思った。



両手で、顔を覆い隠した。








  ごめん…






















不二様の誕生日に何書いてるんだぁ我?(笑)
しかも日記では随分と偉そうなことを語っておきながら。

書きたければ書く。そういうこと。
書きたかったから書いた。思いつくがままに。
つまりは大稲が好きってことで(強制終了)

図星は痛いね。自分で言い出せれば逆に平気。


2004/02/29