* ぶっつけ本番 *
<好きな人が居ない時Ver.>
相手が結構良さそうな人だった場合:
→「とりあえず…友達から始めましょ」
どう見てもこれはダメでしょ…という場合:
→「ごめんなさい、今は誰と付き合うつもりもないの」
<好きな人が居る時Ver.>
→「悪いけど…他に好きな人がいるの」
よっし、完璧!
え?
これが何かって??
それは…もしも告白された時の対処法!
あ、そこ、笑ったわね?
しかも爆笑してくれればともかく、嘲笑い!
だけど…まあ、確かに笑い話よ。
だって、人生この方一度も使うチャンスに当たった(=告白された)ことがなかったから。
でも…なんていうの?
あれでしょ。もしもってことがあるでしょ。
そんなときには、もたつかずにサッと対処できる女になりたいわけ、私は。
分かる、この気持ち?
…確かに、マヌケだけどさ。
なぁーんてね。
私だってこんなことを毎日復唱しているわけじゃないのよ。
これは、5年くらい前に私が、幼い頃の私が、
少女漫画にハマっていた私が、ノートに書き綴ったもの。
『もしも自分が告白されたら…』なんて淡い期待を抱いて。
でも実際はそんなこと一度も起こらないわけで。
なのになんで思い出したんだろうね。
自分が告白されたら…なんて、図々しい。
過去の私はどうなってるのかしら。
だけど、確かにそのような事態に対面したら、
スマートに切り抜けたいわよね。笑っ。
(年はとっても性格や考えは変わらないってわけだ)
そう。私は気付いていなかった。
だけど、もしかしたらこれは、ちょっとした予知だったのかもしれない。
**
「……はぁ?」
下駄箱を開けた私は、思わず声を上げた。
な…なに、これはっ。
新種の嫌がらせ!?
「おはよー。なに固まってるの」
「あ、いや?別にどうってことなくってよ」
気付かれる前に。
そそくさと、小さなメモをポケットの中に入れた。
恐らく、呼び出しの手紙を思われるそれを。
「一緒に教室行こ」
「はいよ」
冷静に上履きを履き替えた。
爪先をコンコンと地面に当てて。
歩きながら、ポケットの中にちゃんと紙切れがあるか確かめた。
**
紙の存在を思い出したのは、昼休み直前の授業中。
今日は友人から手紙が巡ってこないので暇だなーとか考えてた。
じゃあ自分から誰かに書こうか、と。そこで思い出した。
ポケットの中。
少し皺がついて、体温で温まっていた簡素なメモ。
白いだけで半分に折られた紙切れ。
内容。
『今日の昼休みに校舎裏で待っています』
……呼び出しだ。
来た。
ついに来た。
来ましたよっ!?
も、もしかするとこれは告白ってやつだ…。
どうしよう。
どうしよう!?
いや、焦っちゃダメよ。
今朝からバッチリシミュレートされてるじゃない!
そうよ。なんのために5年前の私は
あんなセリフを作ったと思ってるのよ。
しかし…。
丁寧で中性的な文字。
必ずしも男子とは言えない。
否、女子は丸字かギャル字になること暫し。
でもペン字とか習ってたら!?
もしイジメだったらどうするよ!?カツアゲとか!
(ちょっと、昼休みに校舎裏に来いや。)
(ああん?これしか持ってねぇのか?もっとあるだろ)
…その場合はこうしよう。
→「とりあえず友達から理解を深めていきましょv」
…よし、イケル。
これで確実にウケは取れる。
その後はアドリブでなんとかなるでしょ。
よっしゃーどうとでも来い!!
考えているうちに授業は終わった。
「あれ、お弁当は?」
「ごめん、先に予約が入ってるから」
授業が終わって、私は颯爽と校舎裏へ向かった。
**
あれだけシミュレートした。
何があっても私は対処できる。
そう自信満面でその地を踏んだ。
イジメだろうがカツアゲだろうがどーんと向かって来い!
勿論、愛の告白でも宜しくてよ?
しかし、その場に居たのは。
……アラ?
ちょっと待て!!
「待ってたよ」
もうちょっと待ってください。
「来てくれてありがとう」
どう致しまして〜ってそうじゃない。
「突然だけど…」
突然過ぎて予定外です。
「君のことが好きだ」
あの、大石秀一郎クン?
「もし良かったら、俺と付き合って欲しい」
わたくし、心の準備も練習も、何もしていなくてよ?
固まる私。
口はぽかんと開けて。
動いているのは、瞼だけ。
ぱちぱちと瞬きを繰り返して。
「あ、ごめん!突然こんなことを言われても困るだけだよな…」
「そそそそそんなこと!」
はい確かに。
突然過ぎて焦りました。
思わずどもってしまいました。
だけど。
「えっと……こんな私で良ければ、喜んで」
一発逆転。
そうだよ、何やってるのよ過去の自分。
少女漫画の醍醐味を忘れているじゃない。
<好きな人に告白されたVer.>、考えてなかったじゃない。
サッと対処することは出来なかったけど。
上手く行ったので、よしとしますか!
…あ、そうだ。
もう一つ新しいバージョンを考えなきゃ。
<好きな人と付き合っているVer.>を、ネ。
調子に乗ってる主人公。
常に先を考えて行動しようとする。
だけど浅はかな考えも、暫し。
上手く行くだけ行っちゃったって感じね。
本当は好きになった理由とか必要なんだろね。
でも無理に入れると話の腰を折るし。これでいいんだ!
私はどちらかというと本番に強いタイプ。多分。
だけどアドリブばっか得意で、
練習でやったことがちゃんと発揮できてるんだか。(こら)
2004/02/24