それはある日の昼休み。


普段は滅多に無いことなんだから。

姿を見かけることだって、珍しいことなんだから。

とはいえ、わざわざ見に行くなんてこと、出来ないし。



だから…さ。





「「大石先輩、サインくださ〜い!!」」





思わず、叫びたくなる気持ちも、分かって?











  * 大石先輩は皆のモノです。 *












「あ、それ美味しそう!」

「おお、上手いよ。食う?」

「ホント、林!?ありがとーv」


クラスの男子が所持していたチョコマフィンを手に入れた。


思い切り背伸びして抱き付いて。

向こうは「やめろ」と一言いって引き剥がした。



うぁ。またやってしまった。



、またやってる」

「分かってるよー。直そうとしてるんだけど…」




この癖、早く直したい…。

嬉しいことがあるとすぐ抱き付きたくなるの。

ウズウズしてついつい…ガバッと。


誰にでも抱き付くお陰で、
“尻軽”だとか“男好き”だとか言われる始末。

向こうではこれが普通だったのに。

この地ではそれが通用しない様子。




アメリカでついたこの“抱き付き癖”が取れない限り私は、

まともな恋すら出来ないのではと溜息を吐いた。




本命は一人だけ。


もしその人を独り占めできるなら

他の人になんて見向きもしないのに。






「荒井、池田ー」



クラスの男子を呼ぶ誰かの声。

なんだ、普段余り聞かない……


…ワオ!!




クラス中、みんなが目配せをする。

机から紙やらペンやらを掴むと、バタバタと廊下に駆け出していく。


とか実況中継してるけど、私も同じく。





「そうか、じゃあいい。悪かったな」



用事を終えたらしいその人が去ろうと振り返った、その瞬間。












 「「大石先輩、サインくださ〜い!!」」










黄色い声が、廊下に微妙に響いた。






「…え?ぇあ、あ…ちょっと!」



戸惑う様子も余所に。

皆はノートやら色紙やらを突きつける。
(しかし色紙って…事前から準備してたのか?謎だ)

なにやら横で叫びつつ荒井が頭掻き毟ってたけど、知らん。



……わぁ。

大石先輩だよ?

あの大石先輩ですよ?


・・・・・・。




大石先輩だぁー!!!




「おおいしせんぱいぃ〜!」


「ん、わぁ!」








抱き付き癖発生。










「珍しいですね〜、2年の階にくるなんて」


「え、あの…ちょっと…」



戸惑う大石先輩。

顔が微妙に赤い。

やー、こんな表情もするのね!

大好き〜vvv



私の好きな人。

世界で一番…いんや、自分の次ぐらいに好きな人。

本命なんデス。

例え、向こうには大切な人がいたとしても、私の好きな人なこの人。


だから…こっちは向いてくれなくていい。

近くにきてくれれば、思いっきりしがみ付くから!!




「大石先輩カッコイイ〜…」


「えっと、その…」




困った様子の大石先輩の声を遮ったのは。









「ちょーっと待ったぁ!!」








遥か遠くに立つ一人の女子より。







階段の方から聞こえたその声に、皆が一斉に振り向いた。


そこに居たのは、3年の先輩。

私と同じ文芸部に所在してます。ちなみに部長。

趣味はピアノで特技は英会話だそうで。私と同じく帰国子女。


そんでもって、大石先輩の、カノジョ。



先輩!」



大勢が戯れているといえど、そこに居る集団では
文芸部の人(というか先輩を知っている人)は私だけだった様子。

一人声を上げた私に対し、皆は先輩に怯えて一斉にその輪から一歩下がった。


大石先輩の前に、一人だけ残る私。



あはは、これはマズイ状況かな?




先輩は、ツカツカと歩み寄ってきて。



「…独り占めしないこと」


「あ〜〜」




べりんと体から剥がされて、手を引っ張られて。

私は大石先輩から引き離された。(おぉ!)

折角素敵なポジションを取れたところだったのに…。
(というか占領してたかも)(そうかそれがミステイクか)



先輩は、一声。




「秀一郎はみんなのものだもん。ね?」


「ま、まあ……」




引き攣った苦笑いだったとはいえ、大石先輩はそう答えた。


みんなのもの。

…そんなこと言えるんだ。


余裕の表れなのか、耐えているのか、どちらにしろ。



感心する私を余所に、その言葉に喜んだ皆はまた大石先輩を囲む。

私は腕が先輩に掴まれたままで動けませんが。



サインをせがまれる大石先輩。


3m離れて見守る先輩。



…ふむぅ。



「凄いですね、先輩」

「何が?」

「だって……」



――あの状況で“ワタシのモノ”じゃなくて“ミンナのモノ”なんて。



「……私ならそんな割り切って考えられません」

「まあ…これも務めっていうか義務っていうか」



溜息混じりに、先輩はそう言った。



「独り占めすることなんて、やっぱり出来ないじゃん?」

「そう…ですか」



彼女なのにね。

それだけでは独占する権利はないってことですか?


だけど本当は、そうしたいんじゃないかな。



私が先輩の立場だったらきっと、

走ってきたと思ったら即行で首に抱き付いて、

「秀一郎は私のものなのー!!」とでも言ってしまうに違いない。


なんて自己中なんでしょう。




だけど……。


これが、“コイゴコロ”というものなのでしょう。





「問題は、私の気持ちなんかじゃなくて…秀一郎の気持ちだもん」




そう呟いた先輩の横顔。


…綺麗だった、ナ。




「恋心って、難しいものですね」



ぽそりと呟いた。

先輩はこっちを見ると、ツカツカと歩み寄ってきて。



「……あいたっ!」

「アンタがそんなこと語るなんて10年早いわよ」



思いっきりデコピンされた。


先輩に小突かれた額を、手で押さえる。(結構痛かった…)

そして、考える。



先輩も本当は、辛いんだろうな。ちょっとだけ。

独り占めしたい気持ちを、押し込めて。


でもさ、私たちが知らない大石先輩を、知ってるんだろうな。


やっぱり羨ましいな。




「ところで…先輩」

「ん?」



うな垂れていた首、持ち上げると。


それと同時に私は、口の端も、持ち上げた。





「“みんなのもの”ってことは私も含まれるんですよね?」






戸惑った様子の先輩を余所に。


私は「お・お・い・し・せ・ん・ぱ〜〜い!!」と叫びながら、

そこに群れている女子の大群に突っ込んだ。



あまりの勢いに避けていく皆。

私はそのまま、首に巻き付いた。




「ちょっと、どきなさい!」

「そうそう!大石先輩困ってるわよ」

「へーんだ。そんなの本人に訊いてみなきゃ分からないじゃない!」


不平不満をぶつけてくるみんなにアッカンベーしながら答えた。

すると、横から苦しそうな声が。



「ごめん…降りて、くれるかな…」

「ギャ、ごめんなさいっ!!」



慌てて巻き付いていた腕を放す私。

みんなは「ほらー」などと言ってくる。(シャラップ!)

更に先輩は眼光をぶつけてくるし。


はいはい分かってますって。

みんな平等に、ね?




「ウィー ラーブ 秀一郎〜!!」




ワザと砕けた発音で、思いっきり叫んだ。


すると先輩は、



 "But, I love him the most."



とネイティブそのものの発音で言い、

さっき私がしていたみたいに(だけどもっと自然に)首に巻き付いて、

顔を見合すと無言の了承で肩を並べて歩いて行った。






「はー、素敵よねー…」



横で感嘆の息を吐くクラスメイトたちを余所に私は。



やっぱり最後はこうなるんじゃん!とか思いつつも。

明らかな見せ付けだ〜!と心の中で文句を言いつつも。


お似合いだなー。と、遠ざかっていく背中を見ていた。





二人はあんなにお似合いなのに。

それでも独り占めは許されないのかな。



はっきり大石先輩が拒否すれば先輩も救われるのかな。

だけどそうなると私たちが寂しいな。



…とりあえず、今はこのままでいいや。







  大石先輩はみんなのものです、ってことで…締め!






















大石作品250越えを記念して。(ビバ☆)
いやぁ。大石ハーレム!総受だよ!!両手に花!!!(笑)
あの、あれね?アニメでやったやつ…。

しかしへんだな。大石メインだけど微妙に荒井先輩夢にするつもりが。
全く絡まらなかったじゃん。笑。
いいや。荒井先輩の部分は切り取って別のドリームにしてやる。

きっとこの主人公の大石に対する思いは、
憧れの延長上であって本当の恋愛ではないのだと思う。
そういう意味でも先輩のことを尊敬してるのでは。
でも、好きであるという気持ちは変わらないっ!てなわけ。

欲求丸出し。主人公の叫び声がウザイです。笑。
(つまり私はいつも回りにウザがられてるんだろうなぁと反省すべき)


2004/02/19