* その一瞬にKiss *
やってきた。
一年に一度…いや、四年に一度の、一瞬が。
「あと5分だよ…」
「うん、分かってる」
普通、人の誕生日っていうのは365分の1の割合でやってくるもの。
だけど、周助の場合は、違う。
“365×3に加えてもう一つ366”分の1の割合でしか、やってこない。
そんな貴重な日が、丁度休みの日であったことに感謝。
「一緒に迎えようね」
「だから今こうしてるんでしょうが」
ピッタリと背中に張り付くと、周助は微笑を零した声が聞こえた。
「、ちょっと角度合わせるからそこ座って」
「オッケ」
ちょこんと私はベッドに座った。
中心より、少し左に寄って。
右側には周助が座るから。
「できた」と言うと、周助は一旦私の横に座った。
そして時計を一瞥すると、「あと3分か…」と呟いた。
正面から私たちを捕らえているカメラ。
一度視線を合わせてみた。
そして、また視界を周助に戻す。
「ね、なんで周助は写真を撮り始めたの?」
聞くからに、結構前から続いている趣味らしいから。
ちょっと気になって、訊いてみた。
周助は少し悩んだような表情を見せて。
またこっちを向き直ると、笑顔で言った。
「時を止めることができるから…かな」
「?」
時を止める?カメラで??
意味が分からなかった私は首を傾げた。
言葉が悪かったかな、と周助は苦笑して。
「人って言うのは…時が経つにつれて変わっていってしまう。
だけど、写真っていうのはその“一瞬”を残しておくことができる」
一瞬……。
その一言が胸に応えて、私は周助の横顔から目を離せなかった。
「一瞬の表情と、こころの動き。それを残しておきたくて…かな」
…なんだろ。
なんだか、泣きたくなった。
一瞬。
それはもう二度と訪れることの無い時。
いくら一年に一度だの四年に一度だの騒いだって。
同じ瞬間が無二であるということは、どれも同じ。
ときには速く感じられたり、時にはゆっくりに感じられたり。
それでも、確実に時は遠くへ過ぎ去っていくんだ。
「あ、そろそろだ」
時計を見上げた周助は立ち上がった。
もう一度レンズの中を覗き込む。
私は時計の中で一番長い針を見ながら、秒読みを始めた。
「13…12…11…10!」
周助はスイッチを押した。
そして、私の隣に腰を下ろした。
体を寄せる。
ずっと先に、この瞬間一緒に居たことを残せるように。
心の中のカウントが、3に至った時。
「」
「い?」
微笑ませたままの表情だったためヘンな声が出た。
あと2秒しかないのに、周助はこっちを向いてる気がする。
ちらりと横を見ようと思ったけど1秒しかないや。
あ、ついに…0。
『チュッ』
「!?」
フラッシュが部屋中を明るく飾った瞬間。
その一瞬に、私の頬に触れたものはなんだったか。
「周助、今…!」
「僕の誕生日記念」
嬉しそうに微笑んだ。
私は頬が赤くなるのを感じた。
それもこれも、掛け替えの無い一瞬。
誕生日を迎えた、その瞬間。
その一瞬に…Kiss!
実は某カメラの宣伝広告に影響を受けて書いたものです。
なんのカメラかはきっとバレバレでしょうね。(笑)
あまりに強く心を打たれ、読んだ時涙してしまいました。
その時のドリームにしたいな…と。
時の流れは不思議だなーと思いつつ。
一瞬を大切にしたいなーと思いつつ。
そんな感じで書かせていただきました。
とにかく不二様ハピバ!ってわけで。
「乙女の願い」様に捧げさせていただきました。
2004/02/17