『 本日(2月14日)の放課後、

  学校の裏の○×公園のブランコで待っています 』



それだけのメモ。


手紙と呼ぶには値しない、

ただ、二つ折りにされただけの紙。



これは呼び出しだけ。

本番は、その場で会ってから。











  * その場所で遇えたら *












差出人も書いていない、この呼び出し書。
だって、名前を見て逃げられたら困るし。
(そしたらそもそも会ったとしても結果は同じかもしれないけど…一応。)

それから…ちょっとしたミステリーとエンターテイメントのため!


我ながらナイスアイディア!(…かな?)
とりあえず、これを靴箱の中に入れておくのです。
そうすれば作戦は完ぺき……?


「わっ!」


突然の突風。
私も捕らえて風巻(しま)いていく。

スカートと髪を押さえて、風が止むのを待った私。
漸く落ち着いたようなので目を開いたら…?



 「 あ 」



手の中に、例の手紙(っぽいもの)がないことに気付いた。


「え?えっ!?どこいった??」

辺りをきょろきょろと見回す。

「…あ〜!!」

宙を舞っている紙切れを発見。


「待って〜!」


追っ掛けて走る。
しかし私は、いつもと同じ道を辿っていることに気付いた。
つまり、通学路。

追いかけたまま最後の角を曲がって。


「…おや?」


そこは学校の敷地内だった。
しかも紙は行方不明。
行き交う人は多々。


どこに落ちた!?

きょろきょろと足元を見回す。
でも紙は見当たらない。


っ」
「わっ!」

後ろから声を掛けてきたのは、クラスメイトのである。

「何してんの?」
「な、なーんもしてないでございます」
「…?」

一瞬疑問を持ったようだったけど、
「じゃあ教室行こー」と促された。

ちらちらと後ろを振り返りながら、私は校舎内へ。





  **




「ねー、何やってるのー?」
「ちょっとした落し物!」
「…こんなところに?」

は首を傾げていた。

ここは西門周辺。
茂みの中からゴミ箱の裏まで。

「…何を落としたの」
「果たし状」

は余計に首を傾げていた。

「そろそろチャイム鳴るよー」
「…ん、そうだね」


結局私は休み時間ごとに探しに来たけど、
見つからなかった。





  **





いつの間にやらホームルーム。
これを終えたら帰宅ですよ。

あーあ。
こんなことなら名前書いておけば良かった。
親切な人が見つけたら届けてくれたかもしれない。
いや、そんなの恥さらしだわ!
私があんな失態をしただなんてバレ……ん?


待てよ。
拾った人は誰のものか分からない。
まさかそれが自分宛だと思う人は居ないだろうし、
指定の時間に場所に来るはずはないだろう。
だったら逆に問題ないじゃない?

なんであの紙に執着してたんだ。
新しく作り直して下駄箱に入れておけば…!




気付いた私は、即行で手紙を書き始めた。
昨晩書いたものと同じ。
たった2行の、呼び出し文。


礼をして、私はダッシュで教室を飛び出した。
階段も一段飛ばして降りて、下駄箱へ…!



「……遅かったぁー」


そう。
うちのクラスの先生はホームルームがいつも
他のクラスに比べて長いんだ。今日も同じ。
もう、彼の靴箱の中には上履きしか入っていなかった。

あーあ。バカすぎる、私…。

ゆっくりと、とぼとぼと、足取り重く、歩き始めた。






とぼとぼ。トボトボ。

まさか空を見上げたって、降ってくるわけ無いのに。
そもそも今更戻ってきても、困るのに。
嫌味なほどに青い空見て、歩いた。


だけどなんだか名残惜しくて。
というか、気付いたらそっちに歩いていたんだけど。
少しだけ回り道をして公園の横を通った、ら。

…あれ?


……いる。




居るよ!

例のブランコの横に人が!




しかし、どうしてあの人が!?






いや、ちょっと待てよ。

学校の裏なんて絶好の呼び出し場だし、
私が書いたものを読んできたとも限らない。

でもでも…。



私はブランコへ、その場へ、歩み寄った。


声をかけようとする前。

「あ、もしかしてこれ書いたのキミ?」

即行で私に気付いた彼は、二つ折りにされた紙を開いて、笑顔で。



…って、は?

何で本当に持ってるの!?



「実はさぁ」


語り始める。

物事の一部始終を。


「歩いてたら、外から紙が降ってきてさ」


「そしたら、何やらお呼び出しの手紙っぽいんだけど、名前が書いて無いじゃん」



「で、誰が書いたのかなーと思ってやってきたワケ」




……本当ですか。


それは、なんという偶然。

それともこれは運が良いというのですか?



だって、まさか。

手紙が届けたかった本人の下へ辿り着くなんて。



「運命的だと思わない?」


更にこの人は、こんなことを言う。



「これも何かの縁。どうせだから、付き合ってみない?」




なに、その誰でもいいみたいな口振りは…。

でも私は思わず…大笑いしてしまった。


「元々、そのつもりだったよ」

「へ?」


不思議そうな顔をする彼に。



「実はそれ、元々キミに渡す予定だったんだよ、千石くん」



前を見ると、口をぽかんと開けて固まってた。

すると、私と同じように笑って、
「オレってラッキー?」と呟いた。


ううん。
寧ろラッキーは、私の方かも、なんて。


未だ手の中に掴まれている紙を見て、思った。




 手紙と呼ぶには値しない、

 ただ、二つ折りにされただけの紙。



 それは呼び出しだけ。

 本番は、その場で会ってから。




これが本番。





 「ハッピーバレンタイン!私はアナタが好きです!」





クッキーの包みを渡した。


中には4つの、ハート型チョコ。




アナタに届けっ!










   Herzlichen Glückwunsch!






















アンケートらしいアンケートは取らなかったんですが、
どうも意見を集めたところ千石君が人気でした。
そういえば彼の作品少ないよね?我が家。

千石ってあんな感じに軽い奴だと思います。
主人公さんはこれから本気にしてやってくださるのだと。(笑み)

最後の一文はドイツ語ですさ。
「心よりアナタに幸運があらんことを」みたいな?
それからね、4つのハート型のチョコの意味はね、
4つのハートってのは合わせると四つ葉のクローバーっぽいなって。

てか、『はっぴぃ・すたぁと』に非常に被ったね。苦笑。


2004/02/13