義理チョコに紛れて作った、一つの本命チョコレート。



届け、あの人に。




沢山の想いを乗せて。











  * 義理語り本命チョコ *












「えー、今日はバレンタインデーですねー。
 勿論誰も不要物など持ってきていませんよねー?」


ゆらゆらと揺れながら担任がわざとらしく喋る。

何言ってるのよ。
今日渡さずしていつ渡せって言うの!


「そういうものは、放課後その人の家まで行ってこっそりと渡すことー」


知ったことですか。
大体、持ってこられるチョコの大半は義理チョコなんだから。
そこまでして頑張って渡そうとする人は居ませんよ。

「それではここまで」

学級委員が号令を掛けて、全員解散。
朝のショートホームルーム終了、っと。

さぁて、いつ渡しに行こうかな…。


ー!」


そっちもホームルームが終わったらしく、
隣の教室からやってきたらしい親友のが廊下から手を振った。

「おはよ、。どうしたの、そんな焦っちゃって」

私は軽い駆け足で近くへ寄る。
はものすごく意気込んだ感じに喋る。

「ねー、これは噂なんだけどさ、今日持ち物検査あるらしいよ!」
「えっ!」

ウソー!?とクラスメイトが数人寄ってきた。
噂だから分からないけど、とは言った。

「マズくない?マズイでしょ!」

慌しく喋る
私は冷静に考えていた。

どこなら隠せる。掃除用具入れ…いや、他の人に見られる。
机の奥底に…いや、全部出せと言われたら終わり。
待てよ?体育着の袋の中に入れてしまえば教師には気付かれまい…。
よし、この作戦で行こう。

漸く作戦が決定した時、私はに腕を引かれた。
教室内では持ってきたチョコたちをいかにして隠そうか女子たちが騒いでいる。

廊下に引っ張り出されて、私は眉を顰める。


「何よ。もう隠す方法なら決定したわよ?」
「違う!違うのっ!!」


耳元で、こしょりと。



「……はっ!?」



そこには、突然大声を出して注目を浴びる私と、
ひたすらにコクコクと頷いているが居た。



…なんですって。


ぬゎんですってぇ!?




チョコレート、体育着、ロッカー、腹痛欠席、掃除用具入れ、不要物。


全ての言葉が一瞬にして頭を巡ったけど。




「ハライタで欠せっ…ムガ」

「ちょっと、バレるバレる!」


テンパる私の口をが急いで塞いだ。

…マジで?
ギャグにあらず、マジ?



なんてことですか。

C組在住桜井雅也、私の想い人。


バレンタインデーに腹痛を起こして欠席するようなマヌケなやつだったらしい。



「何よ!それじゃあ没収されるかもしれないというリスクを冒してまで
 本命チョコレートを持ってきた私は何?」
「だから言ってるんだよっっ」


その時丁度、チャイムが鳴った。


「…それじゃあ、また……」
「うん、後でね…」


ひらひらとハンカチでも振りかざさん勢いで、私たちは別れた。







どうしたものか。
バレンタイン当日に欠席、クソ…。

“そこら中の知り合いの男子全員に配る義理チョコに紛れて
 「あ、これあげるよ」と本命を渡してしまおう作戦”が通用しない!
(作戦の内容?もう分かったでしょ。)


『そういうものは、放課後その人の家まで行ってこっそりと渡すことー』


さっきの担任の一言が、頭の中を巡った。
しかも語尾を延ばしたその口調で。くそ。クソ。

だけど、本当にそういう展開になりかねないぞ…?


いんや、駄目だダメだっ!!
飽く迄も本命とは悟られてはいけないのだ…。
つか、悟られてもいいんだけど、あからさまだと恥ずいじゃん!
「アイツもしかしてオレのこと…?」程度がいいんだよ!
わざわざ放課後チョコなんて私に行ったら本命モロバレだよ!
外すと痛い!イタイイタイっ!!


「…さん、さん!」
「はぇっ!?」

ガバッと立ち上がると、そこには担任の姿。

「困りますねー、朝からそんなでは」

アハハ、とクラス中から笑いが巻き起こる。
よりによってこいつの授業か…クソ。

私が“気を付け”をしたところで、学級委員が号令を掛けた。


鞄の中身をがさごそと漁りながら、ぼーっと考える。
一時間目から数学か、数学だ。
っていうかこのチョコレートどもどうしよう…。
義理の方は予定通り配るけどさ。
本命、ホンメイ…。
とりあえず体育着入れに隠さなくては…。
それとも開き直って没収されてみますー?笑。



折角、心を込めて作ったのに。

届いてくれないのかな?






   **







ドタバタとしてるうちに放課後。

義理チョコ類は、休み時間中に全て配り終えました。
変わりに紙袋には頂いたものが詰まっております。
(女子同士での交換も最早常識であります。)

とも話したけど、特に何も良い作戦は思いつかなかった…。


とほほ。
本命チョコ…虚しいけどお父さんにでもあげますか。
(虚しいけど。スッゴイ虚しいけ・ど!)

その時。



「ねぇ、アンタでしょ?」


掛けられた声に振り返る。
そこにいたのは、隣のクラスの男子。

「あ、イブイブじゃんっ!」

そう。そこに居ましたのは、
小学校が同じでした伊武深司。

「…まだその呼び方してるわけ。はっきりいってもうアンタぐらいなんだよね
 その呼び方するの…別に構わないけどさ。恥ずかしくないのかな?
 っていうか正直こっちから見て凄く恥ずかしい人だよ、キミ」
「……で、いかがな用事でございましょう」

ぼやかれてしまい、少々げそっとして私は問い掛ける。
すると、すっと紙を数枚渡された。

右上の端には、2−C桜井と書いてあった。


「…何これ」
「家、近いんでしょ、渡しといて。今日桜井休みだったんだ」

同じテニス部だからって言う理由で渡されたんだけどさー。
部活が同じでも向こうが学校休んでたら関係ないっていうか。
まあ確かに方面としては同じなんだけどさ。
小学校の地区では正反対だったぐらいだし別に家近くないんだよね。
全く教師はその辺も考えずに渡すんだから…。
作戦?そうか、作戦だな。フフ……。


…とのことです。(長いよ)

一通り話を聞き終えて、私は紙とイブイ…伊武の顔を見比べた。


「とにかく、これを渡せばいいわけね?」
「そーゆーコト。なに、面倒くさいって?俺を恨まないでよ。
 元々渡してきたのはうちの担任なんだからさ…。
 っていうかね…キミに渡したらって助言したのはキミの親友なんだよ。
 だから、俺は恨まれる筋合いないよ。じゃ、俺部活だから」


言うだけ言って、去った。
…やっぱりアイツは謎だ。

しかし…助言したのは私の親友ですと?


「……め」


サンキュゥ。

小声で呟いて、私は駆け足で通学路を下り始めた。









いつもと同じ帰り道。

いつもと同じ通り道。


だけど違うことは、自分の家を通り越すということ。



桜井家は、私の家から7軒ほど越したところ。
同じ通り沿いにある。


何度も訪れたそこ。
いつもと少し違う感情で、インターホンを押した。

といっても、私はプリント届けに来ただけなんだから!
別に、チョコレートなんて、チョコ…本命……。


そーゆーものは、放課後その人の家まで行って、こっそりと渡すこと。


自分の口調でその言葉が浮かんできてしまって、
やっぱりそうなるのかなーと溜息を吐きたくなった私でした。


『はい』

くぐもって出てきたのはおばさんの声。

「あ、あのですけど…」
『あらちゃん、いらっしゃい』

用件を訊かれることもなく、扉が開けられた。
もうお馴染みですから…私がここに来るのは。

「お久しぶりね」
「そうですね。今日は…えっと、プリント届けに来ました」
「わざわざご苦労さま」

メインの目的はそれじゃねぇよ!と頭の中で突っ込んでみた。
(違うのかよ←ツッコミ返し)

「雅也…大丈夫なんですか?腹痛…」
「えぇ。大したことないわ。今はぐっすり寝てる」

なんか悪いものでも食べたに違いないわ。
あの子すぐつまみ食いするんだから…。
と話すおばさんの言葉、私は半分聞き流してた。

そうか…寝てるのか。
じゃあ、会えないかな。
やっぱりこれは、渡せないのかな…。

「ところで…凄い荷物ね、大丈夫?」

声を掛けられて、私ははっと顔を上げた。
凄い荷物…これのことか。

「はい。今日は学校でみんなでお菓子の交換とかして…」
「そっか、今日バレンタインデーだものね」

はっきりと出されたその言葉に、心臓がどきんとなる。
どうしよう、そういう流れですか?

……そういう流れにもっていけ!!


「そうだ、これ…いくつか義理チョコあまったんです」


いかにも今思いついた風を装ってみる。
必要もないのに、ギリなんて言葉付け加えちゃったりして。
わざとらしいとはいえ、これが心理の働きなんです。

鞄の中から、ラッピングされた一つのハート型のチョコ。

あら、という顔をおばさんがした。
なんとなーく気恥ずかしい思いもあったけど。


「…折角だから、雅也に渡してもらえますか?」


顔、赤いかも。
気付かれないように、首に巻いたマフラーに顔を埋めた。

おばさんはにこりと微笑んだ。



「手作り?」

「はい。友達と交換したのの残りで…」


本日の休み時間には、一口サイズの丸いチョコをばら撒いていた私です。



「まあ、上手ね。きっと喜ぶわ」

「あ、だけどお腹痛いのに大丈夫ですかね?」


私の手作りチョコで悪化なんてしませんように。シャレになりません。



「大丈夫。きっと夕方になるころには「腹減った」とか言ってるわ、あの子」

「…そうですか」


優しいな、おばさん。



「それじゃあ、私帰りますので」

「本当にありがとうねちゃん。また来てね」



軽く会釈して、家を出た。


門を過ぎるまでは、真顔で歩いて。




曲がった瞬間、突然笑顔。







「ハッピーバレンタインズデー!!」








思いっきり叫ぶと、疾走30秒。


家に向かってダッシュした。








 沢山の想いを乗せて。



 届け、あの人に。




 義理チョコに紛れて作った、一つの本命チョコレート。






















不動峰は土曜日に学校がないことに途中で気付いて焦った。
はっ、別にこれは2004年じゃねぇんだよ!(開き直り)
というわけで、何曜日でもいいです。ハイ。

不動峰はMy設定が爆発しまくりですね。
伊武桜井は同じクラス。同じ小学校希望。
そしてやっぱり主人公は幼馴染かご近所なんだよなぁ…。
ちなみに、翌日桜井君は、
「お前のチョコのお陰で腹痛悪化したし」とかいいながら
元気に笑顔で登校してきたりするんです。照れ隠しさ。

かなり実話交じり。けけけっ。でも本当は本当に義理チョコでした。笑。


2004/02/07