クラスの女子が騒いでた。
だから話に紛れてみた。


そうしたら、こんなものの存在を知った。











  * 僕らの真ん中バースデー *












「真ん中バースデー?」

「そっ」



不思議そうな顔をして訊いてくる大石に、オレは短く返事をした。


真ん中バースデー。
要するに、2人の人の誕生日を結ぶ、最も近い日。
例えば1月1日生まれの人と1月3日生まれの人の真ん中バースデーは、
1月2日になるってワケ。

なーんて自慢げに語るオレも、
この情報はついさっき女子から得たばっかのものなんだけど。


「ねーぇ、なんかお祝いしよ、お祝いしよ〜!」
「そんなこと突然言われても…いつなんだ?」

首に巻き付いたオレの腕を払いながら、
大石はちょっとだけ迷惑そうに訊いてきた。

そんな様子の大石も軽く受け流し、オレは満面の笑みで答えた。



 「バレンタインデーの前日!」






  **







気付けばその日。2月13日ですよ。

鞄をよいこらせと背負うと(ジジくさい?)、
オレはさっさと帰ろうとしたけど。
横で話されている内容がなーんとなく気になって、足を止めた。

クラスの女子は、チョコを渡す渡さないだの騒いでた。
本命だとか義理だとか。
手作りだとかブランド物だとか、スーパーの安売り品だとか。(ん?)


「菊丸くーん、今年の目標は?」


去年も同じクラスだった女子の一人が、こっちを向くと訊いてきた。
「何が?」と誤魔化そうとも思ったけど、
立っている位置的にオレがその会話を聞いていたことは歴然としてるし、
実際何の話をしているか分かってしまったので、答えた。


「そうだにゃー。去年より多く貰いたいかも」
「それじゃ、私の分予約ね」
「あ、私も私もっ!」


話しているのは、勿論チョコレートのこと。
(いや、チョコじゃなくても構わないけど、とにかくプレゼント)

昨年オレが、「今年は何個だったー!去年より減ったー!」
とか騒いでいたのを憶えていたんだと思う。

そう。去年は減ってたんだ!
一昨年は3年生の先輩から沢山貰ったからな…。
後輩としてはやっぱり先輩には渡しにくいものなのかな。
でも、あれだ!全体では減ってても本命っぽいのは増えた!


とーにかく。
今年はいくつもらえるかなー?
なんて贅沢なことを考えつつオレは教室を後にした。



バレンタインの前に、今日は真ん中バースデーなんだから。








「おーいしっ」


ぴょこんと2組の教室に顔だけ覗かせた。
居た。窓から2列目一番前。

「ん、ちょっと待って。今終わるから」

大石はとんとんと紙の束を纏めると、
その中から一枚だけを選び出してなにやら書き始めた。

…忙しいなぁ、大石は。でも、頑張って働いてる姿ってカッコイイや。

そんなことを考えながら、オレは
教室の中に顔だけを入れた体勢を保ってニコニコしていた。
通りすがりの女子に、「明日学校休まないでねー!」とか言われた。
ほいほーい、と返事をしといたけど。


もう一度紙をとんとんと揃えて、大石は立ち上がった。


「それじゃあ、帰ろうか」

「うん!」



なんでだろね。
明日はバレンタインっていう、全国共通のビッグイベントだっていうのに。

どちらかというと、これから大石と一緒に居られるってことの方が、
オレにとっては大きなことに感じられたんだ。








「あー見て、チョコ大売出し!」


街を歩いていると、どこもかしこもチョコレートが売っている。
普段はやっていないような、路上販売っぽいこともしてる。

そうだよねぇ。明日だもんねぇ。

なんとなくホクホクとした気持ちを胸にオレは篭めていた。
別に、そんなに期待してるわけじゃ…!
……ちょっとしてるケド。

「バレンタイン…そうか。もうそんな時期なんだな」
「大石、もう明日だよ?」

呑気に喋る大石に、オレは思わず眉を顰めた。

大石は意識したりしないのかな…。
チョコ貰えるかなー?とか。
オレなんか意識しまくりなのに。(ごめんなさい正直してます)

大石は言う。


「悪いけど、チョコは全部お断りだから」

「……は?」


な、なんだコイツはっ!?

オレはそう叫ばざるを得なかった。
だけどあまりの驚愕に、言葉は口から出ることすらせず、
ただただオレの頭の中だけで木霊した。

な、ななななんだコイツは?
どうしてそんなに気取ってるの?


「お、大石…それってつまり…女の子たちの努力を踏みにじる気かっ!?」


気付けばオレは大石に指差して叫んでいた。

だって、そうじゃない?
女の子たちはさ、頑張ってチョコを手作りしてくるかもしれない。
沢山の種類の中から好みのタイプを考えて買ってきてくれるかもしれない。
渡すときだって、凄く勇気が要るに決まってる。

それをムゲにするとわっ!!


「大石は悪魔だっ!悪魔!アクマー!!」
「…オチツケ」

「あ」


気付けば注目を浴びまくっていたオレたち。
ばつが悪そうに少し顔を赤くした大石に
頭に手を乗せられて、オレは正気に戻った。


「で…でもさ。断るってそれは良くないんじゃないの?」


今度は小声で。
オレはこっそりと大石に問い掛けた。

大石は、きょとんとした顔をして。後にちょっと眉を潜めて。


「じゃあ、英二はいいのか?俺が女の子たちからチョコ貰っても」


…盲点だった。
そうか、そうだよな。

冷静に考えれ、オレっ!!
今まで自分のことで浮かれまくってたけど、
そうだよな。大石がチョコを貰うんだよ?
「貰ってください」とか言われて「有り難う」とか言っちゃうんだよう!?

目からウロコ。


「だ、だだだ断固ハンターイ!」

「そういうと思った」


大石はくすくすと笑った。
だけど急に、真面目な顔になって。


「本当はさ、俺も女の子たちの気持ちを無下にしたくなんてないさ。
 だけど…どうせ応えることの出来ないものだから…」

「…そっか。そうだね」


オレは大いに納得してしまった。
目先のことだけじゃなくて、大石はちゃんと先のことまで考えてるんだ。

偉いなぁ。
オレはそうはなれないなぁ。

そう思いながら空を見上げた。


だけど、オレはこう言うんだ。



「じゃあ、オレもチョコ貰うのやめよっ!」

「えっ?」



思わず固まる大石。
一歩分多く進んでしまったオレは振り返って、「何さ」と言った。


「そこまで驚くことかー?」


さっき大石の発言でオレは今以上に驚いてたけど、さておき。

大石は、いや…と焦った表情を和らげて。


「この間まで今年の目標は何個だー、とか騒いでたから…」

「いーのっ。気が変わった!」


ふん、と仰け反るオレ。
大石はくすりと笑って。


「それじゃあ、頑張れよ」
「おぅ、見てろよっ」


妙に自信満々なオレ。
だって、受け取らなきゃいいんだもん。
普段貰えない人が貰うと誓うより簡単なことだと思う。
(って、オレ今凄く失礼なこと考えてる?)


「英二、俺こっちに寄りたいお店があるんだけど…」
「あ、そうなの。分かった〜」


バイバイ、と手を振って。
大石も笑顔で応えて軽く右手を持ち上げて。


今日もいい日でした、とか思いながら足取り軽く歩いてた。

…と。



 「あ」



そういえば、今日って真ん中バースデーで何かお祝いするんじゃなかったっけ?

普通にバイバイとか言っちゃったし!



振り返ったけど、もう大石の姿は見えなかった。



「…ま、いっか」



呟くと、オレはまた正面向いて歩き始めた。





今日は、良い日だった。


お互いの気持ちを確かめることが出来た、

とっても素敵な真ん中バースデーだった。


特別お祝いらしいことはしなかったけど。

だけど、オレは満足だ。









翌日のオレは、大変だった。
誰よりも早く(それこそ大石に負けないくらい)学校に着いて
下駄箱に『チョコ禁止』の張り紙を貼ると、
自分の教室に駆け上がって席に着いた。

しかし、机の中には既に1つ入っていた。
さては昨日の放課後に入れたな…やられた。


さぁて、これはどうしようかなー。
思いつつ、オレはふらふらと廊下に出た。



まだ、学校に全然人は居ない。
学校一登校が早いとされる大石も居ないんだもの。それも頷ける。

と思ってたら、丁度廊下のとぉーくの方に大石が見えた。


「大石ぃー!!」


ぴょんぴょんと跳ねながらオレは手を振った。

そうして走り寄ると…。



「…大石クン?」

「ん、なんだい」



…口調がなんだかわざとらしい。


てか、なんだよっ!?




「今後ろにチョコの包み隠したろー!?」

「…バレてたか」


大石は苦笑いして背中から2つの包みを見せた。


「しかも2つかよ!!」

「ポストに一つと…もう一人は通学路に張られて…」


有無を言う間も与えず、
「返事はどうでもいいので貰ってください!」とのことだそうで。
更に、即行で走って逃げられたと。
お人よしの大石は、勿論それを投げ返すなんてことはできない。
(いや、オレも投げたりなんて出来ないけど)

だけど、すぐに追いかければ追いついただろうのに。
大石はそうしなかったんだね。


「いや、いざ受け取っちゃったら…」


ぽりぽりと頬を掻きながら。表情崩して。


「応える応えないは別にして、突き放すのは良くないかなと…」



がっくし。

大石の言葉にオレは首をうな垂れた。


いいんだけどね…。
オレ、大石のそんなところが好きなんだからさ…。




そんな複雑な思いで一杯の、真ん中バースデーにバレンタイン。








 祝!結局、オレは昨年より多くのチョコを頂くことが出来ました。完。






















ギャグ交じりにほのぼのとドタバタ。
なんだかよく分からない話だ…。

結局、貰っちゃったよ菊ちゃん!(笑)
「約束したのにー!」ってことになったので受け取り、
一つ受け取ったら「ずるいー!」ってことになり。
女の子たちのパワーには勝てなかったと。
ま、お互い様なのでなんともいえぬわけ。

真ん中BDとVDを合わせて。


2004/02/07