* お空の向こうの君 *












――今日は何度もカレンダーを確認した。

早すぎて恥を掻くこともなければ、
遅すぎてやましさを感じることもない。


ところで。
今日はあの日ということは、
私たちが出会ってもうすぐ一年半。

確か、記憶が正しければ去年の今日、
私は君とダブルス記念のパーティーをしたから。


!」


名前を呼ばれて振り返ってみれば。

居た。やっぱり君が居た。
私は笑顔を見せる。


こんなやりとりが、もう一年半も続いているのか。
私があの地を離れて、一年半も過ぎ去ったのか。



「何してたんだ?」

「べーつに何もっ」



空を見てただけ。
そこに浮かぶ白い雲を見てただけ。
それが流れていくのを見てただけ。

それに繋げられた遠い地のことを思い出してただけ。



「また、前の町のことでも考えてたんじゃねぇの」




…大当たり。

参ったな、裕太には全部バレちゃう。


だけど、コイツは肝心なところで鈍感だ。



「大方、初恋の相手ってとこだろ」

「ウルサイ」



否定しねーんだ、と笑う裕太。
私は笑いながら怒った素振りを見せる。

こんな態度とるから、いけないのかな。
本当は本心ぶちまけて、泣いちゃった方がいいのかな。
だけど私、君を困らせることなんてしたくないし。


「ね、何で分かったの?」
「ん?」

「…引っ越し前の町のこと、思い出してたコト」



そう。私は一年と半年前、引っ越しをしたんだ。

私と裕太の出会いは、そこだった。
裕太はスポーツ関係のことだったとかで理由は違うけど、
とにかく私たちは、聖ルドルフに編入した。

それ以来の付き合いだ。

いつもしかめっ面してる裕太だったけど。
一緒の時期に編入ということで運命感じてみたりとか。
何かと仲良くしてもらった。

今では、いい関係デス。
最近では笑顔もよく見せてくれる。


ほら、今もふっと笑ったよ。


そんな裕太は、

「空、見てたから」

と言った。



「…空?」

「うん、ソラ」



意外な返事に、私は眉を潜める。

だけど直後に気付いた。
前の町の…“あの人”のことを思い出すとき、
私はいつも空を見ていた。さっきのように。

無意識だったんだけどな。
本人ですら分かってないことに裕太は気付く。


でも…そうだったんだ。
私、空を見てたんだ。

そんなところを凝らしたって、あの人は見えてこないのに。
それどころか、涙が溢れてくるのに。
だけど涙を押し止めるためには、上を見上げるしかない。
やっぱり私は空を見る。


「…そいつのこと、まだ忘れられねーんだ?」

「うん。一生忘れない」


大袈裟な言い方すんなよ、と裕太は笑い交じりに言ったけど。

ううん。大袈裟なんかじゃないよ。
だって、もう絶対会えないんだから。
あの人はココには居ないんだから。
心の中に留めておくしか、ないんだ。


私は15年ほど慣れ親しんだ町を離れて。
色々なモノと、さよならした。


とはいえ本当のサヨナラは、そのひと月後だった。


あの人は、私にもこの世にも、全て、別れを告げ。
だからといって、言葉は何も残していかなかった。


あの人は、この空で繋がった、遠くのあの町に居た。

今は、この空の向こう、ずっと遠くのどこかに居る。


きっと。



ゆっくりと首を持ち上げると、青い空が見えた。

この空はどこまで続いてる?
私とあの人を、繋いでいてくれマスカ?


答えは、見つからないけど。



「…大丈夫。今は裕太が一番だから」



横でなんとなく心配そうな表情をしてる裕太に、言ってやった。


「『大丈夫』って…べ、別にオレはそんな心配…」

「はいはい」


照れた感じに否定する裕太。
くすぐったくて、私は笑ってしまった。

ばつが悪そうに、裕太は鼻の頭を引っ掻いた。


そんな様子を見て、私は微笑を苦笑に変える。



今は裕太が一番。
この言葉に偽りはない。

だけど、いつまでも私の心の奥に潜んでいるのは、あの人なのだと。


「帰ってくるの待ってるからって言ったくせに…」

「は、なんか言ったか?」

「いやいや」


誤魔化しの言葉と同時、私は裕太の手を掴んだ。
ちょっと焦った感じの表情が好き。

やっぱり、今は裕太が一番だよ。



「裕太、今日なんの日だ」



問い掛けると、裕太はきょとんとした。
だけどすぐに思いついたのか、笑みを零した。


「オレの誕生日?」

「うん。それからもう一個」


あの地に帰ったって、あの人は居ないと。
実感はイマイチ湧いていないのが現状だけれど。

いつでも辛さを押し込めてきたのは、君だから。



 「オレたちが付き合い始めた日」



笑顔見合わせて、また笑った。



思い出すね。
君の誕生日だからといって開いたパーティー。
ついでに編入半年記念も祝って。


来年も、このように祝いたいねと。

来年も、一緒に居たいねと。



はっきりとした告白の言葉はなかったけれど、

ゆっくりと差し出された手を握って、

気付けば私たちは恋人同士だった。


一昨年の今頃私は、あの人と一緒に誕生日を祝うつもりだったのにナ。



時が流れるって、不思議だね。

私はこの、大地を踏みしめていることに、感謝する。




 大好きだから。

   ハッピーバースデー。


     来年は、一緒に祝えるのかな……?






















オフ友人の誕生日にプレゼントとして書いたものです。
元はオリジだったのに、ドリームに修正してしまう頑張りっぷり。
世の中そんなもんだよな!(笑顔)

現実交じりだけどかなり抽象化。
どこまで本気かはご想像にお任せ。

ちょっと裕太を可愛い感じにしてみた。
(本当のところ、オリキャラを修正したものだからで/終了)
何だろ。裕太ってドリーム書きやすいな。最近多いぞ?
とにかくハピバー。


2004/02/05