* “ルートビア” *












「じゃーん」



そんな声と一緒に、目の前に差し出した。

リョーマは一瞬焦点が合わなかったみたいで、
パチパチと瞬きをしながら首を後ろに引いた。


私が差し出したのは、一つの缶。



「…何これ」

「えー、知らないの!?」



思わず文句をたらす私。

だって、それというのは…


ルートビア。


一部では不味いことで“超”有名。

そんな禁断の飲み物デス。


少なくとも、アメリカに在住していたのなら誰でも知っている…はず。



リョーマは溜息を吐くと答える。



「別にそれが何かぐらい知ってる。なんで持ってるのか訊いてんの」

「あ、そっか。んっとね、偶然見かけて懐かしかったから買った」



リョーマは呆れた顔をしてた。


すみませんね。

どうせ衝動買いの激しいヤツですよーぅだ。



「これ見てるとさ、思い出さない?」

「何を」

「ほら…リョーマが試験合格した時の打ち上げ」



あれは、別れを告げられた約2週間後。

一時的に日本へ行ったリョーマは、またすぐに帰国してきた。

私立の学校の合格をお土産に連れて。


「これで、乾杯したよね」

「そうだっけ?」


まーた、憶えてるくせにそういうこと言う。

私は肘で小突いてやった。


確か、あの時は。

打ち上げしよー、と盛り上がる私に、

じゃあこれ、とリョーマはその缶を差し出してきた。


何、ビール?と問う私に、

大丈夫。子どもが飲むものだから、とリョーマは答えた。


それだから安心して飲んだのに…。



「あまりの不味さに吐き出しちゃったし…」

「そういえばそうだったね」

「あー、そういうことはしっかりと憶えてるし!」



そう。あれは禁断の飲み物。


私に言わせるなら、“超”マズイ!!





「……懐かしいね」





思わず呟いた。

リョーマは、無言だったけど微笑を浮かべた。



あれから、何年経つ?

あの頃私たちは、まだ日本でいう小学6年生。

中学校生活のほとんどは、別の場所で過ごして。



「丁度、4年前の今頃だ」


「そんじゃ、乾杯」



感傷に浸っている私をほぼ無視して、
さっさと缶を開けて飲み始めるリョーマ。


ロマンの欠片もない。


私も、缶、開けた。

振られてしまっていたのか、泡が少し吹き出た。


その泡を救い上げるようにして、缶に唇当てて。


少しだけ、口内に流し入れた。





「……激マズ」





あまりの不味さに、思わず涙が零れそうになった。



リョーマ、笑顔だった。





だけど「意外とイケるかも」。

意地張って、全部一気に飲み干した。


炭酸と冷たさがキンとする。



雪を背景に。

なにやってんだろ、私たち。




懐かしいね。


あの時と、同じ。























『No.061 地図を広げて』『近い未来を予想した図。』
『No.6 よろしくね』(WEB拍手)よりずっと続いてます。
この設定、好きかも知れない…。
というか、思い出綴るのに便利な設定。(インターナショナル)

リョーマってどうやって青学に入ることになったんだろ…。
スポーツの選抜は有?一度日本に戻って帰国子女枠で試験受けた?
それとも南次郎とスミレちゃんのコネ!?
わかんね。この小説では2つめの設定でやらせていただいた。

「あのマズさが美味い」 ルートビアは、そんな感じ。
私に言わせれば、普通に美味しいんですけどね。(味覚不二並)


てか、これじゃあリョーマ高1じゃん。うわー。
普通に中1のノリで書いちゃったよ。まぁいいか。(適当)


2004/01/29