* 午後五時丁度の天気雪 *
まず第一に、今日は腕時計をはめるのを忘れてたんだ。
その時点で大きな失敗だった。
街にも時計はどこにもないし。
現在何時であるのかすら分からない。
なんとなくぶらりと立ち寄った店。
美味しそうなものやら、可愛いものやら。
色々と見ているうちに、時間が随分と過ぎ去っていた。
それでも、時計がない世界では、
その時間というのがどれほどの長さだったのかは分からない。
お店から出てみると、そこは。
「……あら」
粉雪舞う銀世界だった。
そこで漸く私は、随分と膨大な時間をそこで費やしていたことに気付いた。
失敗。また失敗。
今日は失敗が多すぎる。
まず時計を忘れた時点で失敗だったのに、
それによってまた別の失敗を巻き起こした。馬鹿らしい。
傘も差さずに歩き出した。
雪は、それなりに大降りであったのに。
なんでだろ。
体に付いて温まってしまえば、雨と同じでビシャビシャになる。
そんなこと分かりきっているのに。
雪って、軽いから。
なんとなく、そのまま歩いてしまう。
楽しんでいるのかもしれない。
雪その物自体を。
だけどやっぱり、失敗だったな。
雪は嫌いじゃないけど、寒いのは嫌い。
今日はいいことありませんでした。マル。
「あれ、さん?」
「――――」
呼ばれた声に振り返る。
そこに居たのは、不二周助だ。
「何してるの、こんなところで」
「それはこっちのセリフ。僕は家が近いだけ」
ああ…そうですか。
何故か溜息を吐いてしまった。
久しぶりに喋る声も、
胸からつかえたように出てくる息も、両方同じ。
白い煙となって、舞い上がる。
不二のライトブラウンの髪とダークブラウンのコートが、
その中で綺麗なコントラストを磨いている。
「ちょっと買い物してただけ」
「そう」
ふっと笑った。
…イマイチ掴めない、ヤツ。
別に嫌いでは、ないけど。
「ところで、今何時」
時計忘れちゃってさ、とか余分な説明は加えなかったけど。
無言で袖を捲る不二。
コートから覗いた白い肌がなんとも羨ましく。
「5時丁度」
「あら、そんな時間」
学校が終わったのが4時15分前。
ここまで歩いてくる時間を考慮しても、1時間近くお店にいたことになる。
「それじゃあ、また明日」
寒いし。
雪は勢いを弱める気配はないし。
私は颯爽とその場を去ろうとした。
しかし不二は、私の手を掴んだ。
「折角だから、喋りながら歩かない?」
私、なんで断らなかったんだろう。
その時握った手が、とても冷たかったからかもしれない。
手が冷たい人は心が温かいとか、そんなの別に信じてないけど。
なんとなく。なんとなくなんだ。
二人肩を並べて。
喋りながら歩く速度は、遅い。
やっぱり失敗だったのかなとも思うけど。
「さん、見て」
「ん?」
指差された先。
「青い空」
私たちの上空には、少し重めの白い雲。
心なしか灰掛かっている。
遠くに見えるのは、青い空。
雲が切れた先。真っ青。
「天気雨ってよく言うけどさ」
「これは天気雪…ってところ?」
響きはなんだか悪いけれど。
天気雪。
情景を浮かべれば、美しいことこの上なし。
「それじゃあ、私家ここだから」
「そう。じゃあまた明日」
手を振ると、不二は元来た道を戻っていった。
…何がしたかったんだろう、本当に。
家に上がって、コートをハンガーに掛けて。
デジタルの時計は、5と11を表示していた。
あれからたったの11分しか経ってなかったのか。
なんだか、時の流れというのを非常に不思議に思った瞬間。
台所へ向かった私は、ココアを入れるべくお湯を沸かすことに決めた。
あのときに偶然握った手の冷たさを思い返しながら。
背景には、午後五時丁度の天気雪。
イメージ重視で言ったら文章が支離滅裂。ぺー。
ちょっとだけ実話。どこまでとは言わんけど。
なんで不二かというと、指細そうだし冷たそうだから。
なんとなく、白いし。
さあて。主人公さんは、今日はいいことありませんでした、
で全てをくくれますかね?ふふ。果たして失敗だったんですかね。ふふ。
(と、意味不明なコメントを残して去る/ホントにな)
ラブ少ねー。
2004/01/28