* 流転生来 *












私の愛する人は 五つという若さで生涯を終えた。







「ん、もうちょっと…」




私の言葉に、後ろで英二は溜息を吐いた。

呆れているのか、さすがに退屈してきたのか。


何しろ、ここにはもう、2時間近く居ることになる。

したことといえば、お線香に火をつけたことぐらいなのに。






立ち上る煙を眺めて。

それもいつしか消え薄れて。


今はただ、ぼーっとしているだけ。

墓石にかかれた名前を、なんとなく目に入れて。





「…もうそろそろやめにしたら」





――――…。





英二の言葉。


心が過敏に反応して、頭が痛くなる。




だって、今の言葉。



そろそろ帰ろう、とも取れるけど、もう一つ。






「もう帰ってこないんだよ」






ウルサイ。



その通りだよ。図星。

言い返せない。






「ここに通ったって、どうしようもならない」





英二の言うとおり。


私がいくらここに通ったって。

どれほど揺れる煙を見つめたって。

幾筋もの涙を流したって。


何も変わりはしないんだ。




それでも、離れることなんて、出来ない。






「私が…世界で一番愛した人なんだ、周助は」







もう、他の人を愛することなんて無理。


忘れることなんて、ムリ。




涙に濡れる私に、英二は近付いてきて。



「どうしてそんなことが言えるの?」と。






…だって。



―――――……アレ?







「あの時、オレたちは5歳だったんだよ」




…その通りだ。





「本当に、“愛した”とかそんな感情あったの?」







そう訊かれると、分からない。


ただ分かるのは、周助は私にとって初恋の相手であったということ。




だけど、5歳の頃の恋なんて、そんな“愛”なんていう深い言葉なの?






「オレ、思うんだけどさ」



「………」




「今もしアイツが生きてたとしても、は別に好きで居なかったと思う」






頭痛が、激しく。




分からないけど、痛い。








「なんでそんなこと、言えるの…」



「だって…そんな感じがするんだもん。居なくなることで、想いが強まったんじゃないかって」








ポツポツ。



ああ、雨が降ってきた。




そろそろ帰らなきゃ。







でもね。








「私には分かるよ」


「…何が」





すっと立ち上がって。






「もし今も周助が生きてたら、テニスやってるよ。そんで、英二より上手いよ」


「…そう」






「クラスは私たちと一緒。席は英二の隣かな」





英二は微妙な顔をした。


それでも続ける。






「成績もいいし、女子にも人気。もちろん英二よりね」


「…全部オレと比べるのかよ」



「うん。それからね…」






間を置いて。








 「私と付き合ってる」










強く言い切る。


英二は苦笑した。






「そこまで言い切られると、そんな気がしてくる」


「でしょ」





本当はどうだったかなんて、私にも分からないけど。





それでも、強く想うんだ。













  「私もう、周助以外の人を愛せない」















英二は目を大きく開いて、後に苦い顔に変えた。




「誰とも結婚しないつもり?」


「そんなの分からない」





「もっといい相手が近くに居るかもよ」


「そんなの知らない」





英二は溜息を吐いた。



私は呟く。







「きっと、運命の相手だったんだ」








全て、私の思い込みに過ぎないのかもしれないけれど。


現実ではありえないことだとしても。







「…お似合いだよ、お前ら」




肩に手を乗せられた。


私は踵を翻す。




雨の中、歩き出す。


全身濡れて、歩いていく。






英二は、斜め後ろを歩いてついてきた。









『もっといい相手が近くに居るかもよ』








…そうだね、英二。


でもごめん。






私はもう、周助以外愛せないと思う。








 輪廻がそう告げるんだ。






















なんだこの暗い話は…。(ブルブル)
突然フレーズが浮かびまして。(始めの一行)
辻褄が合うように話を書いてたらこんな感じに…。

『哀傷葬歌』にそっくりな話になってしまったよ。
なんか、キャラが元々死んでる話多いっスよ、汗。

題名は2文字ずつ読むが宣し。(3つの言葉ができるはず…)
真ん中の言葉が全ての種明かしのつもりなんだけど…分かるかしら?


2004/01/13