* サンタが街にやってくる? *












「もうすぐクリスマスだねー」
「そうだな」

そこを行くのは、出来たてピチピチのカップル。
思わずおててつないで登下校でもしていそうな二人だが、
そんなことはないらしい。


こういっちゃなんですが、彼女の方――は、
“超”が付くほどの天然らしい。
自覚がないのも困り者。

しかし、横を歩く大石秀一郎は、どうもそんなところが好きらしい。
(きっとそれが男心というやつなのさ)


ところで、二人の間にはクリスマスのことが話題として立ったわけだが。

「クリスマスといえばな、今年はうちの妹がな、
 何の影響を受けたんだか南極の氷が欲しいとか言い出してな」
「へー。面白いね!」

明るく受け答えするであった。
が、大石はう〜ん、と眉を潜めていた。

「確かに発想は面白いんだけどな…。親の苦労を思うと胃が痛いよ」

大方、普通の氷をそれらしく見せるとか何かするんだろうけど、と大石は苦笑。
その隣で、はきょとん、と首を倒した。
何かが疑問である様子。

「何でご両親が苦労するの?」
「え、だって…」

言い掛けて、大石は固まった。


まさか。

自分たちはもう中学3年、さすがに…。
いや、でもこの子のことだから…。
しかし、15ともなれば根拠があるにせよないにせよ、
そのような存在には疑いをかける頃では…。


 でもこの子のことだ!


大石が結論に達した時。



「だって、クリスマスプレゼントはサンタさんが持ってくるものでしょ?」


予想は的中した様子。
(さすが大石秀一郎、長年彼氏やってないぜ!/※1ヶ月未満)


とにかく、これだけは新事実。
は未だにサンタクロースの存在を信じているらしい。

「(か、かわいい…)」
「私はねー、今年はお星様が欲しいの」

惚けている大石だったが、の一言に硬直した。

「…なんだって」
「だから、プレゼントにはお星様をお願いしたの。ね、素敵でしょ?」
「そ、そうだな……」

答えつつも、実は冷汗を流している大石であった。

楽しみー、とルンルンの
横で気付かれぬように胃を抱えていた。


するとが問い掛けた。

「じゃあさ、秀ちゃんは何をお願いするの?」
「え、俺?」

聞き返した大石には無言で頷く。
大石は困った表情で空を見上げたが、
結局は真実を伝えた。

「俺はサンタクロース信じてないから」
「えー」

ブーイングが出てたじろぐ大石だったが、次でもっとたじろぐことに。

「サンタはね、信じてる…人の、とこっ…にしか……」
「…!?」

アンビリーバブルなことに。


は突然泣き出した。

「どうした、
「あ、あのね…」

さっきの発言はまずったかな、と焦る大石。
は涙を拭くと話を始めた。

「去年、クリスマスの一週間くらい前にね、お母さんが
 『あなたもうサンタなんて信じてないわよね』って言ってね、
 私が答える前に行っちゃったの。そしたらね、
 その年…サンタ来なかった」

一度は止まりかけた涙だったが、
またポロポロと零れる。

「サンタさん、勘違いしちゃったのかも…」
「………」

小さな手を涙で濡らす彼女を見て、
大石は居た堪れなくなった。

優しい声で言う。

…大丈夫だ。信じてる人のところには、必ずサンタやってくる」
「ホント…に?」
「ああ。きっと去年は忙しかったんだ」
「そっか…な」
「そうさ」

大石の話術で、は見事丸め込まれた。
(というか、何でも信じやすいだけだが)

にこりと笑って、は言った。


「楽しみ、クリスマス!」


大石は微笑み返した。
果たして自分のしたことが正しいことなのか、
分からなかったが。



  **



時は流れて、クリスマス。
日本でいうクリスマスのイメージというのは
イブ(前夜)が先行しがちだが、ここでいうのは当日、25日のことである。

イブには家族でパーティーをすることになっていて、
お互い会うことが出来なかった。
そこで、25日の夜に会うことにした。


「秀ちゃん!」
「お、。早かったな」

待ち合わせ場所にやってきた恋人に、
大石は壁に凭れていた体を起こした。
は無邪気に笑う。

「今日楽しみにしちゃってね、一時間前に家出ちゃった」
「それは凄いな」
「えへへ。でも秀ちゃんには勝てなかった」

はにかんで笑う
大石は微笑する。
(何しろ自分は一時間前には着いていたなんて…)


「それじゃあ行こうか」
「うん」

足を並べて二人は歩き出した。


ところで。
大石は一つ気がかりだった。

この前いい加減なことを言ってしまった自分であったが、
その後どうなったのだろう、と。
冷静になってから、あのようなことは言うべきではなかったのでは、と思った。
保証も出来ないのに、無責任なことは言わぬべきだった、と。

その話題を切り出そうか悩んでいると、
の方から口を開いた。

「今日の朝ね」
「うん」

一瞬ドキッとした大石だったが、
平常を装って受け答えた。

は俯き加減で話す。

「早起きして家中しらべたけどさ」
「……」

唇を突き出して。


「プレゼントらしいものはどこにもなかった」


大石は言葉を返すことが出来なかった。
やはり、あのようなことは言うものではなかった、と。

罪意識で黙り込んだ大石。
は大石の顔を覗き込んだ。



「ねぇ秀ちゃん」


少し間を置いて。


「サンタクロースって、ホントにいるのかな」



大石は言葉に詰まる。
は、寂しそうに首を前に倒した。

無言のまま時がすぎ、
二人は会話もなしに歩く。
10分もしないうちに、目的地に着いた。
最も、それはずっと長い時間に感じられていたが。


「ほら…、着いたよ」
「―――」

疲れたような表情を持ち上げただった…が。

目の前にあったものを視界に入れた瞬間、目が輝いた。

それは、視線の先が実際に光っていたからなのか、
心を映し出していたからなのか。


「お星様だっ!」

「え?」


突然走り出す
大石はそれを一歩後ろから追った。

と、今度は途端に立ち止まる。
わ、と大石はぶつかりそうになるのを
の肩を押さえて回避した。

「どうしたんだ、突然…」
「ほら!」

は嬉しそうに遥か上空を指差す。
大石は首を持上げた。

自分が居るのは、とあることで有名な広場。
そのとあることというのは、大きなクリスマスツリーとそのイルミネーション。
今自分が立っているのは、そのツリーの眼前。
視線を持上げれば、勿論目に入るのは、ツリー。

数々のモニュメントを乗せて。


「凄ーいキラキラ!お星様ってこれのことかもー」

元気にはしゃぐ
大石は、そうか、と気付いた。

この光っているイルミネーションたちを、
“お星様”と形容したのか、と。


「きっとこれだ。プレゼント」


満足そうに言う
大石はその横顔を見て、溜息混じりの優しい笑みを零した。

はその視線に気付いたからか何なのか、
そっちに視線を向けた。
目が合うと、くすぐったように笑って、大石の手を取った。

「プレゼント、半分こね」
「…そうだな」

大石はの手を強く握り返すと、ツリーを見上げた。
も同じようにする。


二人で同じ視界を、できるだけ多く目に収めておこうと。


そうして、二人同じ方を見ていたはずなのに。



「…あ、流れ星!!」

「え?」


大石は瞬きを二度繰り返した。
(無駄だとは分かっていたが)


「…どこ」
「あそこ!ど真ん中をスーっと」

大石には憶えがなかった。
首をかくんと傾げた。

「見えなかったな…」
「えー、あんな分かりやすかったのに」

ぶぅ、と口を尖らす
大石はそれを見て少し考えて、微笑んだ。


「きっと、信じてるからだよ」

「え?」


不思議そうな顔をするに対して。


「だって、サンタは信じてる人のところだけに来る」

「―――」

「…だろ?」


大石の言葉に、は嬉しそうに笑った。

目の端には真珠の球のような滴を置いて。





  Do you believe in Santa Claus?

  Anyway, he is coming to town...!






















メリークリスマスー!というわけで執筆。
皆さんはサンタクロース信じてます?うふふ。
書きながら私はサンタにまつわる色々な話を思い出しましたわ。

主人公が天然すぎ…てか幼い?まあいいや。
大石が思わず惚けてるよぅ。あっはっは。可愛いなぁ。

とにかくメリクリー!ってなわけで。


2003/12/24