温厚篤実。
純情可憐。
清廉潔白。
天真爛漫。
頭脳明晰。
才色兼備。
立てば芍薬
座れば牡丹
歩く姿は百合の花。
沢山の通り名を持つ私ですが。
一人だけ、勝てない人が居ます。
* Schneewittchen *
「というわけで、文化祭の劇は白雪姫に決定。
配役は黒板の通り。何か意見は?」
手は上がらない。
代わりに拍手。
よし。今日も平和に学級会終了、っと。
学級委員も楽じゃないね。
しかし…。
「(主役かよ…)」
黒板に書かれた投票。
結果。
白雪姫… 24票、どうもありがとう。
そして…。
「(王子かよ…)」
その横に書かれた名前。
王子。
不二周助 31票、おめでとう。
文字通り白馬に乗った王子様になれますよ、君。
オプションで白タイツ付き。
(しかし、白雪姫にも不二周助が2票入っているのが気になるぞ)
やだなぁ、主役なんて。
緊張しちゃうじゃんよ。
しかし…やるからにはマジだぜ!
よし、頑張るぞっ。
「さん」
来た。
にこっと微笑まれる。
「頑張ろうね」
「モチロンですとも」
精一杯皮肉の篭った笑みを与えた。
文化祭は、二ヵ月後。
**
「これは…なんと美しい娘だろう」
「………」
ただいま練習中。
しかし、娘ってなんだ娘って。
年いくつだよ、王子…。
というか台本書いたやつ…。
ああ…次はあのシーン。
顔が、近付いてきた。
『…チュッ』
「あら、私……」
「カット!、そこ起き上がるの早い!」
駄目押しが。
意気込んでますね、我が友人よ
さすが実行委員長。
そして素敵な台本を有り難うよ。
「難しいな…」
「まあ、まだ本番までひと月あるんだし」
…飄々と言ってくれますね、不二クン。
人がこんなドキドキしてるとも知らずに…。
いくらキスする“フリ”だからとはいえ。
「(好きな人の顔を10cmほどの間近で見て正常で居られるもんですか…)」
、15歳。
成績優秀。運動神経抜群。人望厚し。
ただ一つだけ、苦手なものが。
こんな私も花の季節。
青い春真っ盛りです。
好きな人にだけには、勝てない。
不二周助だけには。
「じゃあもう一回ね」
この練習は私にとって天国のような、地獄のような。
今はただ、この鼓動が気付かれぬように、
平静を装って演技を続けるだけです。
**
そんな日々もついに過ぎ、本番当日。
思えば短かったな。この二ヶ月。
…あっという間だった。
二人でこんなことするのも今日で最後かな。
また、普通のクラスメイトに戻るんだ。
……どうしよう。
私、昔以上に好きになってる、不二のこと。
終わっちゃうの、寂しい、な。
そう言う意味でも、私はこの人に勝てない。
クラスでトップの成績を取ったって。
陸上の地区大会で優勝したって。
恋という夢だけは、かなわない。
「さん」
「…不二」
振り返ると、そこに居ました、王子様。
制服ではなく、煌びやかに輝く衣装に身を包んでいる。
こんな姿を見るのも、最後かな。
横に立つと、一言。
「頑張ろうね」
微笑みながら。
小さく頷いた私は、その段階では気付いていない。
その微笑みの意味に。
『次は3年6組による劇、白雪姫です』
拍手が鳴り響いて、数人が舞台へ出た。
私は袖から、自分の出番が来るのを待った。
**
「これは…なんと美しい娘だろう」
「………」
今まで、誰も目立つような大きなトチリはしていない。
上手くいってます、今のところ。
もう物語もクライマックス。
これは劇も大成功ってところかな!
いやいや、まだ気を抜くのは早い。
大詰めはこれからなんだから…。
いい、。落ち着くのよ。
不二の顔が近付いてきて、キスするフリをするから。
そうしたら、ゆっくり起き上がるのよ。そう。何度も練習した通り。
好き。好きだよ不二、王子様。
貴方からの口付けは、私を目覚めさせる。
現実へ引き戻すその鍵は、全て貴方が握ってる。
貴方が好き。 貴方が好きです。
…あら、不二くん。
ちょっと顔が近すぎるんじゃなくて?
本番だからって気合入れすぎよ。
そこまで近づけなくたって観客席からはどうせ分からないんだから。
音さえ立ててくれれば私は起き上がるから。あの、分かってます?
…ハロー?
『チュッ』
「っ!?」
ガバッと起き上がってから、気付いた。
し ま っ た 。
あまりに早く起き上がってしまった。
セリフも言い忘れたよ。
凄い剣幕で不二のこと睨んでる予感すらするし。
てか顔赤くないですか、私?
…とか、そういう問題じゃないよ。
しまった、てか、
や ら れ た 。
「な…な……!」
「おお、これは!美しい上に元気の良い娘だ」
パクパクと口を動かす私。
台本にはないような台詞を、
あたかも存在するかのように演技を続ける不二。
周りの小人たちも戸惑い気味。
「し、白雪姫が目を覚ましたぞー…」
「バンザーイ!バンザーイ…」
私は呆然としたまま不二に手を取られ、
馬役である人々に担がれて、舞台袖へ。
ナレーターが出てきて、劇は終了。
その後、白雪姫と王子は幸せに暮らしましたとさ、だそうです。
**
「不〜二ぃ〜……」
「やあさん。大成功だったね。主役お疲れさま!」
何事もなかったかのような颯爽とした笑顔で言ってくる不二。
私は凄い勢いで色々とまくし立てた。
「お疲れ様じゃないのよ!なんなのよアナタさっきの……?」
もとい、まくし立てようとした、でした。
実行されずに終わりました。
つんつん、と突付かれて。
後ろに居ましたのは、クラスの皆様。
ああ、出るぞ。実行委員長様の叫びっ!
「“なんなのよ”は、アンタの方でしょー!!!」
3年6組、学級崩壊。
私はその後、散々お説教を喰らいました。
起き上がるのが早いだの、
演技になってなかっただの。
台詞間違えてるだの、
形相が恐ろしいことになってただの。
お陰で回りのタイミングは狂うし、悲惨だったそうな。
私は何度も、「だって不二が…」と言い訳しそうになったけれども、
その後に続く言葉を言えそうにないので、素直に一人でお説教を受けた。
言えるもんですか。
だって不二が、
本当にキスしたから
だなんて。
言えるもんですが。
しかし、そのラストのシーンが逆に
「本物の白雪姫よりリアルっぽくて良かった」
「思わず笑いそうになるほど迫真の演技だった」というコメントを頂き。
(ごめんなさい演技じゃありません素でした)
…何故か最優秀賞を頂いてしまった。
今度は皆に褒められる。一体何なんだか…。
だけど物語のオチは、そこじゃないんです。
**
「……ぁっ、周助」
「…綺麗だよ」
その後、白雪姫と王子は幸せに暮らしましたとさ、だそうですが。
今日も“白雪姫と王子”は、
幸せに暮らしているわけです。
「あ、もう……やっ!」
「いいよ、イって…」
「周助……っ!」
口付けによって目覚めさせられたその日だけじゃない。
白雪姫と王子は、いつまでも幸せに暮らしたのです。
いうならその口付けは、序曲に過ぎず。
その後の誓いといっても過言ではないけれど、
決してクライマックスではなかったわけです。
後もずっと続く、幸せ。
白雪姫と、王子は、今日も…幸せに―――……。
**
『…チュッ』
「……あら、私…」
半分夢の世界の中で、唇に何かが触れて。
目を開けたらそこに居た、王子様。
くすりと微笑を零して。
「目が覚めたかな?お姫様」
私は、微笑みを返して、起き上がる。
そして自分から、口付けを更に求めた。
好き。好きだよ周助、王子様。
貴方からの口付けは、私を目覚めさせる。
現実へ引き戻すその鍵は、全て貴方が握ってる。
貴方が好き。 貴方が好きです。
それは今日も変わらない。
裏々24242HITということで。
主人公は不二以外に敵なしで、温まる感じの小説、でした。
リクに応えられてるか謎。汗。ま、大丈夫でしょう。(適当)
有り勝ちネタに挑戦だ☆
ふふ、劇で実際にチューしちゃうなんて、
100万回は使われたネタだろ…。(含み笑い)
それを敢えて裏々と絡める辺りが根性。
っていうか白雪姫ってまずありがちだよね…笑。
題名は反抗して(?)ドイツ語です。元はドイツだもんねー。
それではでは。唐諷さまに捧ぐ。リク有り難う御座いましたv
2003/12/11