* 365分の1のキセキ *












すっかり日が短くなって、
まだ夕方の5時だというのに太陽の位置は低い。
これからの時期、外が薄暗くなるにしたがって
部活の時間も短くなってくる。
暗いとボールが見辛いから、だそうだ。

また練習時間が減る。
更には雪が降ることもある。
冷えるということは体にも良くない。

だから、冬はあまり好かない。



そんなことを思っていた日の部活。
5時になる少し前、休憩に入った。
いつも通り合間時間を縫っての自主トレでもしようと思った時――。


「海堂!」

「――」


呼ばれる必要のない者に、呼ばれてしまった気がする。

「何だキサマ」
「うぉ、なんだその言い方!冷てーな、冷てーよ」
「…さっさと用件を言え」

あ、そうだそうだ。
と桃城は思い出した風な様子だった。

何だコイツは…ふざけているのか。
さっさと居なくなって欲しい。
そうでもしなくては、練習の邪魔だ。

「ないなら話掛けんな」
「いや、ある!あります薫サマ!」
「その呼び方はやめろ!」

ギン、と眼を飛ばしてやった。
しかし余り応えてない様子。

全く…これだから、コイツは困る。
振り回されたくないと思えば思うほど、
どつぼに嵌っていく自分が惨めでならない。


「まあ、怒るなよ。とりあえず…」
「?」

眉を顰めた、その時。


「…!?な、なんだキサマ!離せ!!」
「良いから走れ!時間がねぇんだって!!」


突然掴まれた腕。
そのまま、引っ張られるがままに走る破目を食らった。

意味が分からない。
コイツは時々意味不明だ。
それが今やってきた。


「その汚ぇ手を離せ!」
「離したら逃げるだろ、お前」
「どこにどうして連れて行こうとしているかに寄る!」


言い終わると、桃城は手を離した。
ちゃんと言ったことが通じたのか?とも思ったが違うらしい。
どうやらここが目的地であるようだ。


「ほら、見ろよ。もうすぐだぜ」


指差したのは、時計。
学校の外壁真ん中に掛かっている、大きな時計だ。

「もうすぐ…なんなんだよ」
「え、お前分かってねぇの?あれに決まってるだろ!」

全てをテメェの常識で決め付けるな…。
大体、お前の話は“アレ”とか“アノ”とかが多すぎる。

頭の中で不満を並べていると、桃城は言った。


「12月3日!4時56分だよ」


・・・・・・。

やっぱりコイツ、アホだ。


「そんなことで…」
「あ、ほら、なった!」

ジャージの裾を掴まれた。
それは払ってやったけど、一応時計は見上げた。

普段だったら“5時”で片付けられてそうなその時間。
今日はしっかりと分針にも注目した。

しかし暫くしてから、またコイツに振り回されている自分に気付いた。


「それだけのために呼んだのかよ…」
「なっ!それだけってなんだよ!一年に一度、いや、一分だけなんだぜ!?」

7秒はもう過ぎちまっただろなー、とか何とか呟いていた。

俺は溜息を吐く。


「どうせだったら菊丸先輩でも呼んでおけば喜んだんじゃねぇの」
「なんだその言い方。失礼だぞ」

…確かに。
すんません、先輩。

と折角謝ったにも関わらず、
桃城の意図していたことは違うことだったらしい。



「オレだってちゃんと考えたよ!その上で、お前を呼んだんだ」



そうかよ。
失礼ってのは、いかにも自分が何も考えて居ないような言い方をされたからで。

つまり。
俺を呼んだことには、意味があったわけだ。



一年にたった一分間の、その時を一緒に過ごしたいと。



秒針がない学校の時計では、あとどれくらいその時が続くのか分からない。

それによってそわ付かされるのも癪だし、
だからといってそれが過ぎ去るのを呑気に待っているのもまた癪。

息を深く吐いた。


「…それだけか。俺は行くぜ」
「おー、悪かったな」


桃城は、特に引き止めようともしない。

「……フン」

まだ時計を見上げてるそいつをその場に残し、
俺は元来た道の反対方向へ走り始めた。
一周走って戻ることには、休憩が丁度終わる頃だろう。

オレンジ色の陽光を斜め前から受けながら俺は走り出した。
だんだん赤みを増していく太陽を見て、
きっと、もう一分間などとっくに過ぎ去ったのだろうな、と思いながら。






















素直になれないお年頃代表、海堂薫。14歳乙女独身。(ぇ
真っ直ぐぶつけてるけど薫ちゃんには伝わりにくく、
一生懸命頑張っちゃってます、桃城武。14歳貞操独身。(ぁ

桃海人気なんですよねぇー我が家。
なんでだろ?ありがたいことですけど。
予想以上の桃海パワーに愕然とするのみ!ファイト!
微妙に海桃風味に見えるのは、両想いになりきれてない薫ちゃん視点だから。

さり気なく(?)姐御に捧ぐ。


2003/12/01