* ビターチョコレート *












『好きです。付き合ってください』


何度も聞き覚えのあるこのセリフ。
今日もまた、体育館の陰で聞かされる。

その度に、俺もまた同じセリフを返す。


「どこが好きなんだ?」と。



何故だろう。
こんな印象がある。

どこが好きなのか訊いて、
全て、と答えるのは、逆に気持ちが伝わってこない。
こんなところが好き、といってもらえた方が嬉しい。

告白する側にもそんな意識はあるのだろうか。
今までに受けた告白、理由を訊くと、
「優しいところ」「頼りがいが有る」「親身になってくれるところ」…など。
中には「顔です!一目惚れしました!」なんて潔いものもあったな…。
(勿論、丁重にお断りさせていただいたけど)


しかし、この子は。


「全てです!」


…ここまで自信満面に答えられたのも、初めてかもしれない。



全て。
その“全て”というのは、どこからどこまでを範囲としているのだろう。
そもそも、俺の全てを知っているのか…有り得ない。
それなのに、軽々しく口にする言葉じゃない気がする。

今回も、丁重にお断りかな…と思ったけど。
あまりに自信有りげな態度が気になって、
もう一度訊き返してみた。


「全てって…例えば?」


これは、ちょっとした興味。
例えどんな返事が返ってこようと、俺は断るつもりでいた。
正直、元々誰とも付き合うつもりはなかったし。
それでも、人は話してみないと分からないから。
とりあえず呼び出し先には出てきてみたわけだ。

だけど、やっぱり、全て、という言葉は。

…いまいち、好きになれない。
だからその“全て”を訊き返してみたんだ。


「例えば…なんて言われても困ります」
「…そうか」

そもそも、理由なんてないのかもしれない。
今回も、そうだった。
告白してきたとしても、どこかいい加減な部分がある。
そういう人も少なくはなかった。

そろそろ話も切り上げ時かな、と思ったとき。


「だって、大石くんの全てが好きっていうか…大石くんが好きなんです」
「―――」
「長所とか、短所とか、そういうのじゃなくて…好きなの」


少々興奮状態にあるのか、
身振り手振り説明するものの、最終的には同じ言葉だった。

理由が無いのに、好きなんて。
それって、その人が好きなのではなく、
その人は私の好きな人だ、という思い込みに過ぎないのだろうか。

何だかんだいって、俺も興味がある。
また問い掛けてみた。
少々皮肉交じりな、棘の有る言葉だったのだけれど。


「理由がないのに、好きなのか?」
「そもそも必要なんですか、理由なんて」
「……え?」

ここまでも自信満面に言い返されると、
こっちの自信がなくなってくる。

人を好きになるのに、理由。
そう言われてみると……。

必要、なのか?


「カッコイイから好きとか、優しいから好きとか、そういうのじゃなくて…」


また手をわたわたと動かして落ち着かない様子で。
一生懸命の気持ちが、伝わってくる。


「全てが好きに感じられるから……スキ」



上手く説明できないや、と苦笑を零した。

しかし、そうか。全てが好きに感じられるから、スキ。
そういう考え方もあるな。


「もう一度改めまして、私は大石くんのこと、好きです。付き合ってください!」


頭を深々と下げられて。
共にお辞儀をした二つに分けられた髪。

俺は思わず、破顔した。


「君…名前は?」
「えと、、デス……」

そうか…か。
呟くと、向こうは戸惑い気味の表情。


にっと笑顔を見せた。


「これから宜しくな」
「! うんっ」


よどみのない笑顔を見せられた。
この真っ直ぐな感情は、どこから来ているのだろう。


全てが好きに感じられるから、スキ。
正直、俺にはまだそれがどのような感情なのだか分からない。

でも…二人一緒に居れば、見つけられる気がした。


「…おいおい、どうした」
「ごめんっ!私、嬉しくて……!」


興奮のし過ぎか、ついに泣き出していた。
俺は苦笑いを零して、頭に手を乗せた。

微かに温かい感情。




それはまるで、甘味の中に隠れるほろ苦さのように。




一つの答えを目指して進む道を、

二人で歩んでいくのも、悪くない。






















主人公、頑張っちゃったね。(笑)
きっと緊張すればするほど底力が出るタイプ。
勿論『苺ポッキー』の続編。
ビタチョコはメンズポッキーのイメージ。

大石がなんだか微妙なキャラになってしまったような。
ま、いいや。(いいのかよ…)

私に言わせれば、好きだから大石夢を書くんじゃなくて、
浮かぶもの全て大石、誰でもいいのに書いてるといつの間にか大石。
やっぱり大石が好きなんだなぁと思う。そんな話。


2003/11/25