* 苺ポッキー *












「私、どうして大石くんのこと好きなんだろ」


ふと口にした疑問。
ちゃんは横で笑った。

「そりゃこっちが訊きたいよ」
「う……」

考えれば考えるほど、深みにはまるこの疑問。
果たして、答えなんかがあるのかどうか。

悩みこむ私に、ちゃんが一言。

「じゃあ質問です。…どこが好きなの?」
「だからそれが疑問なんだって…」


特別な切っ掛けが無かった恋なのだから。
好きな理由は、その人自体のどこかにあるはず。
だけどそれが分からないのです。

美形だなぁとは思うけど。
例えば手塚君の方が、その辺では定評がある。

テニスも上手でカッコイイけど。
パートナーの菊丸君の方が、プレイに華があって目を引く。

頭もいいけど。
それだったら通称人間ロボットの乾君の方が…。


「いつまで悩みこんでんの」
「あいちゃっ」

ちゃんに頭を軽く叩かれた。

「好きな人のいいところすら分からないの?アナタ」


そ、そうだよね!
良い所を考えててこんなに悩みこんだら失礼だよね!


…あれ?

好きな所=良い所、なの?


頭の中に小さな疑問が生まれた時。
ちゃんは茶化すような口振りで言ってきた。

「私は不二周助君をお勧めするよ。優しい笑顔、最高だね〜」
「えー、でも…」

思わず言い返す。
でも何?という顔でちゃんが覗き込んでくる。

「確かに不二君は、かっこいいけど、競争率高いし…」
「なに、競争率低いから大石狙ってんの」
「そ、そういう意味じゃなくて!!」

焦って否定。
大体、大石君だってそこまで競争率低いわけじゃないし。
後輩になんか、凄い人気だし。
(同学年では少ないのかなぁ?う〜ん…)

とにかく。
何かが違うんだよ。

「カッコイイ=好きとは、単純にくくれない気がする」
「お、いいこというね

茶化さないでよ、というとちゃんは笑った。

「確かに、カッコイイと好きが同じことだったら、地味な大石は…」
「じ、地味じゃないもんっ!」

バン、と机を叩いて立ち上がっていた。
ちゃんは、「冗談だって、押さえて押さえて…」と言ってまた笑った。

「ま、そういうことでしょ」
「へ?」
「長所とかさ、短所とかそんなの気にしてらんないってか」

机の上からぴょんと飛び降りて。
私の持ってたポッキーを一本摘んで。



「理屈じゃないんだよ、人を好きになるのってさ」



ね?、と。
訊き返されたので、微笑を返した。


そっか。
そういうことなんだ。


“理由”なんて、元々必要なかったんだ。


「ありがと…ちゃん」
「いやー、なんていうの?私ってばなかなかの語り手だから」

そんなことを言うもんだから、私は思わず笑ってしまった。



その時食べた苺ポッキー、いつもより甘かった。





















きっとそういうことなのさ、人を好きになるのって。
「なんで好きなの?」と訊かれて「全て」と答えるのは
反則とされてますが、私的にはそれが模範解答。
嫌な部分も、嫌と感じられないんだから、好き。
それとも、嫌と感じられないほど、かな?

題名を「理屈じゃない」にしようと思ったけど、
あまりに乾なのでやめました。(笑)


2003/11/24