普段は制服の学校だから。

休日に私服で人に出会ったりすると、
いつもと違う感じがして新鮮です。


しかし、どうして。



何でこんなやる気の無い日に限って、

人に出会ってしまうものなのでしょう。




しかも、私の一番会いたくなかった人―――…。











  * private detector *












普段出かけるときは、それなりにオシャレする。

スカート穿いて、ヒールの高いオシャレなサンダル履いて。
アクセなんかもつけちゃったりして、
時にはお化粧もしちゃったり。



しかし、今日はどうだろう。

黒に白い線が入っただけのジャージに無地の白Tシャツ。
何の変哲もない薄っぺらいビーチサンダル。
勿論アクセなんて何もつけてないし、
それどころか髪の毛も碌に梳かしてない。


なんていうか、 悲 惨 。



なんでそんな格好なのかというと、
てっきり誰にも会わないと思ったからです。


休日の朝。
家から徒歩2分ほどのコンビニに向かってまいったのです。

家が近くの人がまず少ないのに、
こんなところでまさか学校の知り合いに会うなんて。



 心 の 隅 に も こ れ っ ぽ っ ち も 思 っ て い な か っ た 。



しかし……居るものは居るのだ。
どうあがこうと居るのだ。

忍足侑士♂(14)が至近距離にっ!!



家近かったの…?
ああ、知らなかった…チェックが足りてない。

これでも私の好きな人なのに。


チェックが足りてない!
データにない…私のデータにないのよ!!

まさか、こんなところで会うなんて…。


 油断。


だから負けんだよ、バーカ。

もう一人の自分がそう言ってきた。
(負けるって誰にだか分からないけど…)
(自分?そう、いつでもライバルは自分自身)



ただいまの状況をご説明しよう。
某雑誌の早売りを朝もはよから立ち読みしにやってきた私。
買えよっていう話ですね、ハイ。

その通り。
買えばよかった…!
立ち読みなんてするからこんな運命になるんだ…。


 すぐ隣で、忍足侑士くんが何かの雑誌を読んでいます。


私の存在には…気付いてるのかな?
きっと気付いてない。
同じクラスで結構喋ったりする顔見知りだから、
気付いたら声を掛けてくると思う…多分。

全く…どうしてくれよう。
立ち読みに集中できもしないよ…!

仕方ない。
立ち読みは出直しということにする。
(買うという選択肢はないんですかアナタ)
(すみません財布を持ってきていないんです)

そーっと、気付かれる前に退散しよう。
不自然に動くとバレる。
何事もないかのようにさっと本を戻して
爽やかに歩き去ればいいのよ!


しゃがむ。
本を元の位置に戻す。成功。

後は離れていくだけ。
じりじり。ジリジリ……。(必殺・忍法すり足の術!)
(※こういうのが不自然な動きということに気付いていない)


離れた。よし。
間隔は1メートルといったところ。
後は後ろを通り過ぎて店を出るだけだ。

しかし、忍足ってどんな雑誌読むんだろ…。
エロ本だったりすると面白いな。
ちょっと気になっちゃったりして。

横目で、ちらーり……。


『パタン』


げっ。

本を閉じた忍足は、それを掴んだままレジへ…。
くるりと振り向いた瞬間。


 「「あ」」


ついに目が合ってしまった。



うっわ!やっだぁ!!
こんな凄まじい格好をしてるというのに!

せめて何か反応をしてくれ!
「なんちゅう格好や」と突っ込んでくれるとか!
「おはよう、奇遇やな」と流してくれるとか!!


忍足はというと。
微か、かなーり微かですが…頬を染めた。

…は?
どうした。
まさか私の私服姿に魅了され……100%ありえないので安心しよう。

なんだ?
こっちまでドキドキしちゃうよ!
どうしたの、教えて忍足くん!!


「……見たか?」
「へ?」


いつの間にか掴んでいた雑誌を背中に隠している忍足。
私はぱちくりと瞬きを繰り返した。

「ちょっと待ってろ」というと忍足へレジへ向かった。
その隙に逃げようか、とも思ったが信用性が疑われるのでやめた。
代金を支払うと買った本はレジ袋に入れてもらい、忍足はやってきた。

「話がある」
「……?」




  **




そのまま、私たちはコンビニのすぐ近くの公園までやってきた。


私にベンチに座るように促すと、
忍足は自分も横に座った。

なんだこの展開…緊張するじゃんよ。


「忍足…話って?」
「…分かってるやろ」


分からないから訊いたんですけど…。
それとも、もしかして私の期待している話ですか!?

「えっと、つまり…」
「それ以上は言うな!」

ストップのサインを出された。
忍足、顔が赤い。照れてます。
やっぱり、これって、その……!

両肩を掴まれた。いやん、大胆v


、お願いがあるんやけど…」



  俺と付き合ってくれ!



勇ましい声でのそんな言葉が、私の頭の中で響いていた。


しかし。



「今日見たことは全て秘密にしてくれへんか、頼むわ…」

「……はぁ?」


妙なほど気の弱そうなその言葉。
私は思わず間抜けな声を返してしまった。

え、えっと……。

「今日、見たことって…」
「しらばっくれるなや。見たやろ?」

忍足は先ほど買ったものが入った袋を持ち上げた。
さっき、雑誌買ってたね、うん。
それが何か…。

ああそうか、エロ本か。
でも、寧ろ健全な中学生ならそれくらい普通……アレ?


目が合った瞬間衝撃で全てすっとんでいたけれど。
私、本の内容…覗いたよね。

そうだ、あれはきっと……。



 某有名アニメ雑誌。



もしかして、忍足って。
俗に言う、お、オタ……。

「あの、忍足…」
「言うな!それ以上は言うな!!」

……こんな焦った忍足なんて初めて見た。
普段はクールでクラフティなイメージなのに…。

「このことが世間に知れたら、俺のイメージが崩れるやんか」

……確かに。
それは一理ある、かもしれない。

ちょっとシックな感じで人気を集めてる忍足が、
家に帰れば等身大ポップに囲まれていたり、
壁どころか天井にまでギャルゲーとかのポスターが貼ってあったりなどしたら…!
(随分話が飛躍している気がするぞ)(まあ可能性としてね)


でも、私は嬉しかったカモ。
なんていうか、新たな一面が見れたって感じで。



「ねぇ、忍足」
「なんや…口止め料は払わんで」

…ああそうですか。
まあ、それは別にいいけど。
(私もバラすつもりなんてさらさらないし)
(ところで気になってるんだけど忍足くんって貧乏なのかなぁ…)
(向日が「侑士は絶対何も奢ってくれない!ただ飯食うくせに」って言ってたな…)
(も、もしやグッズなどに手を出すあまり…)
(いや、勝手な想像は失礼だ。この辺で止めておこう)

心の底からの気持ち。


「ちょっとビックリは、したけど…それでも私は忍足のこと、好きだよ?」


私だって、まあ。
結構同人とかやほひの世界とかご理解があるわけでして。
(実はさっき読んでた雑誌にお目当ての元ネタがあるわけよ)
(元ネタなんていったら作者様に失礼よ、私!)


忍足を見た。
固まってた。


と。
ちょっと待て。

私今さり気に爆弾発言しませんでした…!?
した!絶対した!
テンパってて気付かなかったけど、した!


 勢い有り余って告白しちゃったよ!!



どうしようどうしよう、キャー!
わー、行き成りすぎだよね、ごめんなさいっ!(心の中で)

へ、返事は……。


…」


下向き加減。
睫毛がなんだか長く見える。
俯いた表情は、この表現もどうかと思うけど綺麗。

うわ、何、緊張するじゃんよ!
忍足の、言葉は……?



「ならもっと早くカムしとけば良かったわ。理解者がいて安心したで」



……は?

あ、ああ。
そうか、そうですか……ハハ。


ストレートに受け取られてしまったようだ。
全然、そう言う意味の“好き”とは取られていない。

それでいいんだけどね。
元々私もそのつもりで言ったんだし。(半分交じってたけど)
はは、ははははは……。


「それにしても、…」
「?」


軽く笑うと、忍足は言ってきた。



「随分洒落っ気の無い格好やな。いつもこうなんかいな」

「!!!」



最後の最後で、それですか…。
ちゃんと否定しておいたけど。
(そうだよ、そういえば私って逃げようとしてたんじゃん!)
(やられた…なんて狡猾なんだ、忍足侑士)

なんというか、踏んだり蹴ったりな一日でした。


「それじゃあまた学校な」
「うん」


とりあえず、そんな波乱万丈な密会(?)は終わった。
まず強く思ったのは、これからは例えちょっとした距離でも
人と顔を合わせられる程度のオシャレはしよう、と…。



最後の最後に忍足が小さく呟いた、

「あんなやけど私服も普段とはまた違って萌えやな…」

という言葉の意味を考えながら、私は帰路へつくのだった。




  この恋、叶うと思いますか?






















あはは。結構面白かった。(笑顔)
忍足オタクネタ。ついでに貧乏。多分我が家では初。

本当は忍足はこの辺には住んでないんだけど、
わざわざそれを買うために遠くのコンビニに通っていた(笑)
というエピソードを組み込もうかとも思ったのですが、
オタクなるもの堂々と買えなきゃなぁ…と思ったのでやめた。

随分乙女チックに始まったのにね。(笑)
実は、こうなるなんて私も思ってなかった…。
元ネタは、やる気の無い服装の時に限って学校の知り合いに会うからだったり。

最後の質問の答えは、各自で考えてください。(配点:5点)


2003/11/22