私には昔から考えていた少女漫画的設定があって。



中学校になったら、素敵な彼氏を作るの。

一緒に登下校したり、週末にはデートしたり。


ファーストキスは、夕日が沈みかけの公園。

沈黙して見詰め合った数秒後、向こうが自分の頬に手を掛けて。

そっと目を閉じた時、口が重なる。

離した後は、視線を合わせて微笑をするの。

恥ずかしさで染まった頬も、夕日の赤に紛れる。


その後は手を繋いで帰るの。

そして二人は、いつまでも幸せ……。




と思ってたのに。



現実って、 ハ カ  ナ  イ   。











  * 秋日中物語 *












秋の夕日に照る山紅葉。

そんな、秋も深まり…というよりかは冬に近付いている、今日この頃。
実際、今は全然夕日なんかじゃないし。
紅葉なんて別に無いし。
葉っぱのない木が並んだ、変哲もない公園のベンチです。

テスト2週間前ということで、
そろそろ勉強にも力を入れ始めようか、と思った矢先。

彼氏である千石清純に連れ出され、ここに居る。

そしてその当人は、というと…。
「飲み物買ってくる!」と20分ほど前に笑顔を見せたっきり行方不詳。


まさか迷子…いやいや。
自販が売り切れで遠くまで向かった…妥当なところか。
途中で知り合いにあった…ありえなくはない。


とにかく、早く帰ってこーい!!


心の中で叫んだ。
しかし、当人に届くわけでもなく。

「……」

開き直って、私は背凭れに体重を預けた。

空を見上げる。
青い空の中を雲が流れていく。

そっと目を閉じた。
暇だ、と思って口笛の練習を始めた。

実は口笛、吹けない。
最近練習中です。
吹いても吹いても空気の通り抜ける音しか出ない。

才能ないなあ。
というか、早く帰って来ーい……。

思ったとき。



『…チュっ』


「むぐ?うわぁあ!!」



唇が何かに触れた。
それが何かと認識する前、私は目の前の物体に鉄拳を食らわした。


い、今のは…ち、チッス!?
というか、普通に…キス?キスされた!!

そういえばこの辺露出狂が多いって言ってたし!
痴漢が出たって変じゃない!
こんなうら若き乙女が一人で居るなんて無用心だった!

清純のアホ!アンタのせいだ!!


……って。


「お前かよ!」
「なんだよ、冷たいなぁ…」

殴り飛ばした頬、清純は擦ってイテテ、と言った。
私は呆然とするだけだった。


とりあえず変態じゃなかった…。
でも、突然奪われた!
人生一度のファーストキスを!!

「と…突然何するのよ!」
「だって、目を閉じて口突き出してるから誘ってるのかと…」
「違うわよ!!」

怒鳴り散らす。
ああ、涙が出そう。

涙、が……。

「……アレ?」

なんだ、これ?
変だ、私。あれれ?

本当に…涙が……。


「清純の、ばかぁ…」
「そこまで言わなくても…て、うわっ!泣かせちゃったよオレ!」

清純はわたわたとしていた。
どうしていいのか分からず右往左往と。

ごめん。
違うよ、悲しくて泣いたんじゃないよ。

清純だって分かった途端に、なんか安心しちゃって……。


ついに泣きじゃくり始める私。
そんな私の頬に、何か温かいものが触れた。

「……?」

それは、ホットココアの缶だった。


申し訳なさそうに話し始める清純。

「ごめん…。オレさ、飲み物買いに出たはいいけど財布ないことに気付いて」

…なるほど。
清純の鞄は私と一緒にこの公園のベンチに置いてきぼりだった。

「それで、誰か買いに来るのを待ってたんだ」

…コイツまさか、カツアゲとかしてないでしょね…。
と思いきや。

「知ってる?ラッキーチャンスのついてる自販。
 タイミングよくボタン押すとさ、もう一個もらえるやつ」

はい、知ってますとも。
ボタンがピコピコ光ってて、押したところと光が重なるともう一缶出る、あれ。

もしかして…。

「なんていうの?オレの動体視力とラッキーからすれば簡単っていうか。
 飲み物買う人にボタンだけ押させてもらって、もう一缶の方をもらってきた」

……恐るべし、千石清純。
一発で当たりを出したことっていうより、その図太さが。


「心配させて、ゴメン」


今までに見せたことの無いような、表情。
どきっとしてしまって、私は逆に平常を装うのが大変だった。

「別にいいよ、もう気にしてない」
「本当?」

声は出さずに、頷いて肯定の意を示した。
清純も笑った。いつもの笑顔。


「好きだよね、ホットココア」


差し出された缶。
受け取って、私も笑った。

ココア、大好き。
…温かい。心も体も温まる。
ほのかに香るミルクの甘い香りも好き。

二口ほど飲んで、気付く。

「って何許してるよ自分!!」
「へ?」

横で「よかったよかった、めでたしめでたし」とか言ってる清純。
良くないよ…まだ目出度く完結なんてしてないよ!

「遅くなったことじゃなくて、突然…キスしたことに怒ってたの私は!!」

突然立ち上がった私。
ベンチに座ったままの清純を、見下げる形になる。

わなわなと振るえる私に対し、清純は不敵な笑み。
そっちも同じく立ち上がる。
身長差、約10センチ。
今度は私が見下げられる形になる。


「宣言すればいいってわけだよね?」


にっと笑った。
私は顔を背けて、「バカ」と言った。
それは照れ隠しだって、きっと清純も分かったはず。


「それじゃあ、改めましてこれがファーストキスです」


そう言うと、清純は私の頬に手を添えた。
そっと目を閉じたその数秒後、口が重ねられた。
さっき飲んだココアなんかよりも、高い温度で、甘かった。

離した後は、視線を合わせて微笑をした。
恥ずかしさで染まった頬は、紅葉のないこの公園に赤を添えるため。

「帰ろっか」

清純が私の手を引いた。
鞄は二人分清純が持ってくれた。

私の左手には、ココア。

コクコクとそれを飲んでいる間、
清純は横で口笛を吹いていた。




漫画のようには上手くはいかないけれど。


これが、私たちなりの恋愛物語。










――そんな夢物語には、続きがある。


「そういえば今日、オレの誕生日なんだよね」
「えっ!?そういうことは早く言ってよ」
「まあまあ」

切羽詰る私を宥めると、また不敵な笑みを浮かべて、一言。


「プレゼントはさっきのでってことにしとくから」


パチっとウィンクをされて。
やっぱりこの人は、普通じゃない。
そう思った私でありました。


とりあえず、


 『ハッピーバースデー』


その言葉だけは、しっかりと伝えた。





そして二人は、いつまでも幸せ……?






















本編で誕生日と絡みを入れるつもりが、しくったなこりゃ。
あとで取ってつけたような形になってしまった。
(というか実際問題そうなんですよね/自白)

千石。意外と書きやすかった。ちゃんとなってるかは別問題ですが。
女たらしですが、一人に決めたらそりゃラブラブだと思う。
だけどやっぱり、彼女は突っ張ると思うな。笑。
絶対デートの度に「あの子可愛いなー…(ほわわ〜ん)」とかなってるもん。

とにかく、きよたんお誕生日おめでとう!


2003/11/21