あの頃を思い出す。


好きな人の言葉、態度一つ一つで、

鼓動高鳴らせていたあの頃。




なんだか最近の私たちには、


“トキメキ”が足りていない気がする。











  * Re: set! *












それは、休み時間に入って数秒後のこと。


、なんか元気なーい」


上から声が降り注ぐ。
私は首を仰向けに倒した。

一瞬焦点が合わない至近距離。英二だった。


ゆっくりと顔を低位置に戻す。


「そーお?私はいつも通りだけど」

トントン、と教科書の底を揃えながら。
ノートを取るのに使った(+手紙を書くのに使った)ペンを筆箱に仕舞う。

んんー……と、如何にも不機嫌そうな声が背後から聞こえる。
だけど気にも留めず、次の授業はなんだったか、などを確認していた。

理科の資料集はロッカーの中だー、と
何事も無かったかのように席から立ち上がりそっちに向かおうとする私。

英二はついに動いた。


「今日の、元気がないっていうか…イジワル!」


クラス中の視線がこっちに集まってきた。
ひそひそ、と噂話をする時のくぐもり声が聞こえてくる。
まるで私を悪者扱いするかのような視線まで向かってくる。

あっちゃー…。
こういう展開かよ。


英二のアホ。



「英二、ちょっと来て」


ロッカーへ向かっていた足を翻して教室の外へ向かう。
ずんずんと如何にも不機嫌そうな足取りの私に、
ドアで固まっていた女子がわざとらしく道を空けた。
ごめんにゃ、とその子らに一言添えると英二が続いてきた。

これじゃあ完璧私が悪者じゃん…。
承知の上だけどさ。


廊下中の視線を浴びせられながら、屋上への階段を上った。





  **





「今日の私がどのようにいつもと違うのか説明してよ!」


英二がパタンと屋上と階段を繋ぐ扉を閉めた瞬間、喧嘩腰。
罵声をぶつける私に、英二は肩をすぼめた。

授業間の短い休み時間に屋上に来る者は少ない。今日は皆無だ。
思いっきり叫べます。

英二は人差し指同士を合わせると、
ぶつぶつと呟くように上目遣いで訴えてくる。


「だって…なんか素っ気無いっていうか…ピリピリしてるし」


アンタがそうさせてるのよ!
なんて言った日には余計英二は小声になるかな。
そんなことをしたら聞き取れなくなってしまう。
自分を落ち着けることにした。

ふぅ、と深く溜息。
英二はそれだけでビクッと肩を震わした。

…私、そんなに怖い?


「ねぇ英二、私たちさ…付き合い始めて一ヶ月ぐらい経つけど」
「うん……」

前髪を斜め後ろに掻き揚げた。
その手をパタンと下ろして。


「なんかさ……足りなくない?」


ちら、と英二を見た、けど。

見えます…見えますよ
アナタの周りにたっくさん浮かんでいるハテナマークが!

そうですよね。
私の主語が抜けた文章が間違ってるんですよね、はい。
英語のテストだったら確実に罰点をつけられます。主語必須。


「足りてないよ、トキメキが!」


拳を入れて叫んだ瞬間。
遥か下方から聞こえるチャイムが虚しく響いた。

話はそこで切り上げられ、
そのまま校舎内に向かった私たちだけれど。
最終的には、私が英二を追い越す形で教室に進入した。

私たち二人の間を取り巻く(というか私から発せられる?)険悪な空気を
察した者は、そう少なくない。


資料集をロッカーから取り出すのを
忘れていたことに気付き立ち上がったその瞬間、
妙にひやっとした空気で皆の話し声が一瞬止んだ。

教室の後ろのロッカーまで向かうと
しゃがんで資料集を探す自分が随分と間抜けに思えた。

私から二列挟んで隣に位置する英二は、
首をすくめて小さくなっていた。


…全く。
前途多難です。





  **





授業中。
別クラスの親友へ手紙を書いてるとき。

隣の席の桑原にトントンと肩を叩かれた。
見向くと、そこには小さく折り畳んだ紙切れ。
桑原は親指だけ立てたげんこつを横に倒した。

ああ。英二からか。

納得すると、私はそれを受け取った。

その紙を開いた。
内容は、凄く簡単なもの。


『トキメキって、どういうこと?』


あまりにも安易で、溜息が出そうになった。
(というか実際出ていた。自覚していないだけ)

返事を書くか、と思ってメモ帳を取り出しかけたけど、
阿保らしすぎてその気も萎えたので、止めた。
休み時間に実際話せばいいや、と思って。


しかし10分後。
またもや桑原に肩を叩かれた。
勿論、出所は同じ。

いつも悪いね、と桑原に小さく謝礼を述べ。
再び受け取った手紙。
またもやノートの切れ端。全くコイツは…。
(授業をちゃんと受けれ)(あ、私もか)

そして内容。


『どうして返事くれないの』


催促だった。

あー、はいはい。
書きますよ。書きますってば。

カチカチカチとシャーペン連射。
ああ、芯が無い。ペンで良いか。間違えたら毛虫だ。


結局取り出したメモ帳に比較的長めの手紙を書いた。
いや、決して長くは無いんだけれど。英二のと比較して。

内容はこんな感じ。

『最近の私たちにトキメキが足りないって言うのはね、
 なんていうか、付き合い始めた頃ほどのドキドキ感が無いっていうか。
 何かが違うんだよね。はっきりとわかんないケド…。』

紙は適当に四つ折りにした。
また人に間を通してもらうのは気が引ける。
英二は壁際だ。投げやすい。
元バスケ部(所詮小学校のクラブ活動程度ですが)舐めるな!

バスケのゴールと同じ要領よ。
壁をバックボードのつもりで当てて跳ね返せばいい。ほれ。
よっしゃ、ナイスシュート!

気付いた英二はこっちを向いた。
目が合うと、凄く嬉しそうな顔でVサインをしてきた。
私もピースを返…したら負けだ!
ただ平手をそっちに向けて、下ろした。


5分ほど経って。
私の前を白い物体が通り過ぎて横に落ちた。
出本を振り向くと…英二が手を合わせて“ごめんにゃ”のポーズをしてた。

お前か!

このノーコン!ヘタクソ!と、
口パクで送ってやった。
それが伝わったかは分からないけど、英二は手を合わせっぱなしだった。

ヤレヤレ、と床に落ちた手紙を拾…おうとしたら届かなかったので、
わざとシャーペンを落として立ち上がると同時に拾った。
(予備工作だ。教師に何故立ち上がったか聞かれても伏線があれば問題なし)


内容。

『付き合い始める前の方が楽しかったってこと?』

またもや簡単且つ簡潔な質問。
全てアナタの手紙は質問ですね、菊丸クン。
あ、そういう態度を取ってる私の所為もあるか。(100%そうである)


天井を見上げる。
くるりとペンを回す。
英二の書いた手紙の下にちょこっと書き足して、投げた。

今度も上手く乗りました。(ノーコン英二と違って)
(まあ、壁があるのはやりやすいけどさ)

英二が丁度紙を開いた時に、先生が
「これにて授業を終わります」と言った。

直後、英二は「えぇ!?」などと叫ぶものだから、
クラス中の視線が一斉にそこに向かった。
英二がなんらかの反応を示すだろうと分かっていた私も、
あまりの声の大きさに驚かずには居られなかった。


「…どうした菊丸、授業に終わって欲しくないのか」
「え?いやいや、そんなまさか!どーんどん終わってください」

あはは、と明るい笑いが巻き起こり、
先生は学級委員に号令を促した。


礼をした刹那(寧ろ礼をし終わる前から動いてただろ、コイツ)、
英二は私の机の前に飛び込んできた。

まあ、そりゃあ驚くかもしれないけどさ。


、さっきのどういうことだよ!?」
「どうって…そのまんま」

かなり焦った口振りの英二。
相当手紙のことが応えているらしい。

手紙の内容はこんな感じ。
抜粋。


『付き合い始める前の方が楽しかったってこと?
   ↓
 そうかもね。私たちって付き合うべきじゃなかったのかも。
 なんなら、いっそのこと別れてみようか。』


…うん。
確かに突然こんな返信がやってきたら、誰でも驚くでしょうね。
相当図太い神経の持ち主で無い限り。
(例えば私とか)(アイタっ)


「本気の本気!?冗談でしょ?」
「結構本気と書いてマジ」

話しながら、鞄をがさごそと漁る。
英二は周りも気にせずに、大声で叫ぶ。

「えー!?が居なくなったらオレ生きていけない!!」
「じゃあ死んで御覧なさいよ。さて、お昼だ〜」

さらりと返事をする。
お弁当を掴むと、私は友人の教室へ向かった。
ぽつんと残された英二のことは、知らない。





私はね、あの頃のことが懐かしいの。
あの頃に戻りたいの。

陰から見てることしか出来なくて。
ちょっと会話を出来た日には舞い上がって、
靴を左右反対に履いちゃうぐらい純粋に恋をしていた頃。


最近の私たちには、トキメキが足りていなかったんだって。





  **




「えー!?菊丸くんと別れ…むぎゅ」
「声が大きいよ、のドアホウ!」

フォークを片手のまま叫び散らす
私は急いでその口を塞いだ。

全く…周りを気にしない奴が多すぎる。


「ゴメン…つい…」
「分かれば宜しい」

箸でぐさっとウィンナーをぶっ刺して、口に運んだ。
行儀悪いですね、ハイ。充分承知してます。

「しかし…勿体無いことするね、も。
 何人の菊丸くんファンに恨まれるか…」

いや、別れたんだから喜ぶか、
等とは平和に考えてる。
そっちに観点を置くんですか。

「…理由とかは聞きたくないの?」
「あ、聞きたい聞きたい」

はフォークを下ろすと両手を組み合わせた。

さすが。
三度の飯より噂話が好きな女。

で、理由……。

「…やっぱ止めた」
「え、どうして?」
「止めたものはヤメタ!」
「何それ、ケチ〜…」

ぶぅ、とは口を突き出した。
だけどそれ以上追求しようとはせず、
しぶしぶとお弁当の残りを食べ始めた。

だって…冷静に考えたら、言えますか?
「トキメキが無くなったので別れました」…言えるか。
でも、なんか…なんつうか…ああもう!

「英二のパーボ!」
「…何語?」
「韓国語!」
「へー、って色々と面白い言葉知ってるよね」

…何語か分かったところで意味が分からなきゃ
どうにもならないと思いますがさん。
まあいいや。それがこの子のいいところでもある。

パボ、まあ要するに英二の"バカ"と言ってるわけです。
ご丁寧に二重引用符。ダブルクオート。


あーあ。
溜息出ちゃうよ、全く。

「…はさ、今好きな人居る?」
「えっ!?」

…素直に頬まで染めてくれちゃって。
私も前はこうだったかな。

付き合い始めてから、変わっちゃったな。

「居るんだね。誰?人の話は聞くくせに自分のことは話さないよね。ずるいぞ」
「ごめん…ずっと言おうと思ってたんだけど」

照れたときに頬を掻く癖。
可愛いな、は。純粋で良いな。

耳貸して、というので私は横を向いて顔を寄せた。
ちょっと躊躇った様子もあったけど、
は聞き取るのがギリギリほどの小声で言ってきた。

「あのね、のクラスに居る…」
「不二?ああ、悪いことは言わない、やめときな。
 競争率が高いどころかアイツの本性は…」
「違うよ!」

あら?そう。
折角今から不二周助くんの知られざる秘密を暴こうと思ったのに。
(私が何故知ってるかって?まあまあ)

ぷうっと膨らました頬をふしゅーとしぼますと、
は小声で言った。

「…桑原くん」
「……桑原直哉?」
「しー!声が大きいよ!!」

先ほどアナタが英二について叫んだ5分の1くらいの音声のつもりでしたが…。
とまあ、皮肉はどうでもいい。

…へえ。
そうだったんだ。
まあ、悪くないよね、桑原。
私も実は結構いい奴だな、と思ってたんだ。
勿論友達としてだけど。

「どんなところが?」
「えー?なんていうのかな…かっこいいと思う」
「うん。敢えてランク付けするなら中の上くらいだよね」
「もう、ったら!!」

そういうこと言わないでよ、という。
確かに今のは軽率だった。
ごめんごめん、と謝った。

まだ話し足りないのか、は続ける。


「去年同じクラスだったんだけどね」


ああ……なんだろ。


「寝不足で貧血気味だったとき…気付いて先生に伝えてくれたこととか」


これが、恋する乙女ってやつなのかな。


「意外と掃除真面目にやるところとかさ」


…眩しいよ。


「はっきりとした理由は上げられないけど……スキ」



これだ。
最近の私はこれを失っていたんだ。
純粋に恋をしてる人って、きらきら輝いてるように見える。
私はきっと、“純粋さ”をなくしてしまった。

足りていなかったのは、トキメキじゃなかったんだ。


「それでね」
「?」

いつもは聞き手のが、今日はよく喋る。
漸く打ち明けることが出来て、話したいことが沢山あるんだろう。


「好きになった一番の切っ掛けは…遠巻きから見た笑顔なの」
「遠巻きぃ?それまたどうして」
「なんかね」

何かを思い出すように、斜め上を見上げながらは喋る。

「委員会の仕事で水やりしてるとき…部活終えて歩いてる桑原くんが見えて」

その時はまだ特別好きってわけじゃなかったんだけどね、
は補足した。結構気になっていたのも事実らしいが。

「30メートルくらい、離れてたんだと思うんだけど。
 何故かその人の顔だけ、目に飛び込むように映った。聞こえた笑い声に…ドキドキした」

視線を机に戻すと、は最後の言葉を言った。


「それからは、ずっと、スキ」


私は、圧倒されてしまった。
ずっと話に聞き入っていて、お弁当を半分も食べていない自分に気付いた。
もう昼休みは3分の2ほどが過ぎているのに。

、光ってるよ。
眩しい。私には煌いているようにしか見えない。

凄い。恋のパワーってこんなに凄かったんだ。


…なんか、カッコイイ…っていうか、カワイイ」
「えー、やだな!ったら」

照れた様子ではお弁当のサンドイッチにぱく付いた。
白っぽい肌にピンク色をした頬が、私には羨ましかった。


それから先は話題も逸れて、
英二についても桑原についても話さなかったけれど、
私の頭の中には、その二人の幻影がぼーっと映っていた。


休み時間が終わる3分前ぐらい。
私は夢見心地で天井を見上げたままに言った。

ー…」
「ん?」
「上手くいくといいね…応援してるよ」
「え、あの人のこと?そんな、別にそこまで…」

手を横に振るだったけれど、私は一言
「待ってるだけじゃ何も変わらないよ」と伝えた。

は、嬉しそうに笑った。決心ついたかな。




私も、変えなきゃいけないんだ。









午後の二時間の授業は、
選択科目と体育だった。
いずれも、英二とは係わり合いにならない。
それが良かったのか悪かったのか、私には分からない。
とりあえず、問題が先送りにされたのは確かだ。




放課後。
英二は明らかに元気が無かった。
肩を落としていて、顔に縦線入ってる感じ。

私の横を通る時も、反応もせず、素通り。

英二は悪くない。
私が勝手に突っ張って、
トキメキが足りないだの意味不明なことを言い出し、
英二のことを突き放したんだ。

自分が多大なる間違いを犯していたことに、
私は今更になって気付いたのだ。


自分が変わらなきゃいけない。
のに、その時に謝れなかったこと。
私は凄く後悔した。

掃除が終わってから漸く、仲直りしようと決めた。
凄く自分勝手なことしてるけど。
でも、今の私、今朝の私とは、違うよ?
元の鞘に収まるんじゃない。
また新しい、付き合いをしてもらうんだ。


初めに戻した気持ちで。







英二はとりあえず部活には向かった様子だった。
私は、それが終わるのを待つことにした。
だからといってテニスコートに行くのは気まずい。
時間が来るまで教室に居ることにする。



その間、色々なことを考えた。


初めて英二を好きになったのはいつだった、とか。

正直なところ、よく憶えてないんだけど。
とりあえず、3年に進級するころにはもう好きだった。

テニス部をこっそり見に行ってはプレイの一つ一つにときめき。
クラス内では言動の一つ一つにときめき。
笑顔にときめき。

今日は眠そうだった。寝不足かな?とか。
あ、髪切ったみたい。訊いてみようかな?とか。

どんな些細なことでも、全てがトキメキへと変わってた。



まさか両想いだなんて思ってなくて、告白された時は思いっきり頬を抓ったな。

痛ぁ!と騒ぐ私に、古典的〜!と嬉しそうに笑った英二の顔、憶えてる。
ばつが悪くて、私は「うるさい!」なんて怒っちゃったけど。

だけどその後、二人で声を合わせて笑ったね。


それからは、少しずつ二人の間が近くなって。
英二のファンに呼び出し食らったけど、逆に返り討ちに合わせてやったり。
(3対1までは範囲です。4人以上だと相手の力量によりますが)
二人で居られる時間は、とても幸せだった。


だけどいつからだろ。
それが普通になってしまったのは。

つい最近だ。
全てを当たり前として取るようになってしまったのは。


初めはどんな些細なことでも良かった。
付き合い始めて一緒に居ることが幸せに変わった。
その幸せにも、免疫がついてしまった近頃の私。



英二は悪くない。
英二は何も変わっていないもの。

変わってしまったのは、私の気持ちの方なんだ。




「あっ」


窓の外。
歩いていくテニス部員が数名見えた。
もう部活終わっちゃったのか。

どうしよう、今から下に行けば英二に会えるかな。
でももし、擦れ違いになっちゃったら…。


うろたえている間に、英二は出てきてしまった。
見える。遥か遠くに。

横に居るのは誰?分からない。知らない。見えない。
だけどあそこに居るのは、英二だ。



誰と話してるのかは分からないけど、
にゃははっ、といつも通りに笑っているのが見えた。

なんだ。
私なしじゃ生きていけないとか言って、普通に元気じゃん。


だけど…なんだろ、この気持ち。

もしかして、英二なしじゃ生きていけないの、
私の方かもしれない………。




『好きになった一番の切っ掛けは…遠巻きから見た笑顔なの』



ああ、

そういうことだったのね。

今ならよく分かるよ。


『何故かその人の顔だけ、目に飛び込むように映った。聞こえた笑い声に…ドキドキした』



そうだよ。

初心を思い出せ。

全てのことにドキドキしていたあの頃に。





私は、今――――




『それからは、ずっと、スキ』




  r e s e t .







「……っエイジ!」

「へにゃ、っ?」


届いた。
あんな遠くなのに……。

届いたよ。私の声。


「どうしたの、…まだ教室に居るなんて」
「英二…!」


なんだろ。
英二の顔を見るだけで、ダメだ。

涙が出るよ。



「英二、私……英二が好き!大好き!!」



あんなに自分勝手してゴメンね。
だけどね、これは紛れも無い事実。

お願い。
届いて…!




 「バーカ」




一瞬、時が止まったかのように思えた。

だって、その瞬間だけは涙が止まって、
直後にはまた、さっきの2倍ぐらいの量が出始めたから。


私がいけなかったんだ。
あんな自分勝手なことしたから。

もう、戻せな…………。





「分かりきったこと、言うなーーー!!!」


「――――」




え?

いま、なんて―――……。






認識した時、それまでより更に2倍の量の涙が出た。
全部で4倍。涙が足りません。
窓から顔を出して、咽び泣いていた。


ありがとう。

ごめんね。

ありがとう。


その言葉を、心の中で何回も繰り返していた。




「こーらっ」


ぽん、と頭を叩かれた。
振り返る。


「泣きたいときは、この胸の中で泣きなさい」


命令口調にそう言うと、英二は胸を仰け反らせた。
私はそこに、思い切り飛び込んだ。





付き合い始めて、一ヶ月。

エラーが発生いたしました。
初期設定に戻していただきます。


これからはまた、新しいトキメキ。






  -- Reset!






















恐ろしく長くなった…。
さらりと書くつもりが、こんなにみっちり…。げほっ。

ついに桑原くん出しちゃったよ…。(ふらふら)
3年6組8番、何気にテニス部員な桑原直哉君、夜露死苦!

母が言った「片想いの頃が一番幸せよ」という言葉が印象的でした。(笑)
その後もそれはそれで楽しいけどね、とのこと。
何事も、初心は忘れたくありませんな。

英二ダーイスキ。
その気持ちが少しでも伝わればな、と思います。


2003/11/20