* きっと忘れない *












 いい思い出を作りたかったから。

 たったそれだけ。

 軽い気持ちだったのに。


 物語があまりにも出来すぎていて、

 俺は夢じゃないかと疑ってしまったほど。


 それは、日頃の行いが良い俺へのカミサマからの見返りかもしれない。



 でもそれ以上に、アイツ自身の優しさだったんだと今なら思える。









―――時は3時間前。

授業も終えて、掃除でガタガタとしてる中。


「神尾ー!」

「ん、じゃん」


同じクラスでずっとやってきたわけだし、
話も合って、結構仲良かったから。
別に妙な組み合わせでもない。

寧ろ、俺が今のクラスで一番仲良い奴を訊かれたら、神尾って答える。
それほど仲は良い。
ただ、伊武と神尾が仲良すぎるだけだ。

神尾にとって、伊武は親友、俺は良き友人ってとこだ。
(ほらアイツ、伊武のことは名前で呼ぶくせに俺は名字だし)
(と、名字に関しては俺も同じか)

まあ、それはそれで構わないし。
別に神尾の取り合い合戦なんて考えたこともねぇ。
(どうせ勝ち目ないし←考えてんじゃん)


でも、今日だけは。


まっ、自分に対するプレゼントってやつだ。
シケたもんだけど。(と、これは失礼か)

「あんさ、これからカラオケ行かね?」
「カラオケ?」

神尾は黒板に書いた日付を確認すると、首を横に振った。

「ワリ。今日部活があるからぁ〜っと!?」
「はァ?」

遺憾の声を上げようとした瞬間に言葉を伸ばすものだから、
俺は間の抜けた声を出してしまった。

「な、なんだよ…」
「……」

突然黙り込んだ神尾は、伊武の元へ走り寄った。

「深司、オレ今日急用で部活休みな!」
「はいはい、CDの新譜が出るからサボリね…橘さんに伝えとく」
「違ぇっての!」

相変わらず天然で漫才を繰り広げる二人。
(神尾が振り回されてるだけにしか見えないけど)
(というか実際そうなのかもしれない)


「さ、行こうぜ」
「いいのか?テニス部」

訊くと、神尾はにっと笑った。


「たまには息抜きしなきゃダメだろ」


あのテニス大好きで部活に燃えてる神尾が…珍しい。
でも、そういうことは誰にだってあるよな。

俺は笑い返した。


そのまま俺たちは、制服姿のまま駅へ直行した。





 その時はただ純粋に思っていたんだ。

 なんだかんだいって俺たちは仲良いし。

 たまには部活だってサボりたいときぐらいあるだろうし。


 とにかく神尾とぱーっと騒げるってのが嬉しかった。







「さて、歌うぞ!」
「どんどん歌え。神尾は歌上手いから聴いてて気持ちいいし」
「よっしゃー!リズムに乗るぜ!!」

部活でも体育でもなんでもその台詞だな。
思わず俺は笑ってしまった。


神尾と一緒に居ると楽しかった。

それからの2時間も、歌って爽快、聴いて痛快、喋って愉快。
とにかく楽しかった。


神尾の歌声は好きだ。
聴いててスカッとする。
胸に突き抜けてくる。

その時の感情をどう言葉に表していいんだか、俺には分からない。



そして盛り上がりは絶好調!ってな時になると、
決まって掛かってくる店員からの電話。

『あと5分です』
「はい、分かりましたー。…神尾、あと5分」
「え、マジ?」

ノリノリで歌っていた神尾は、突然再生停止のボタンを押した。

「神尾?まだ止めなくても余裕で歌い終われたのに…」
「いや、最後にどうしても歌いたいものが…」

悪いけど、他の曲全部キャンセルな、というと、
神尾は割り込みで何かの曲を入れた。



「―――」


その時の神尾の表情、なんて言えばいいんだろ。
普段はあまり見せないような優しい。
でも少し申し訳なさそうな。

カッコイイってよりはキレイだった。


「オレ、今日全然…気付いてなくてごめんな」
「え、何が……」

白を切ろうとした、けど。
勿論俺にだって何のことかはよく分かっていた。

だけどそれを神尾が分かってるなんて、分かってなかった。



漸く、曲が始まった。

ディスプレイに表示された文字、見て。
俺は思わず声を上げた。

「うそ、神尾って尾崎なんて歌うんだ!実は俺も結構好きで――…」


そして固まった。


そう。実は俺も結構好きだから、尾崎。

イントロだけで分かる。
どんな歌詞で、どんなメロディーで、サビがどのように入ってくるか。
全部分かってる。



すっとマイクを持ち上げると、神尾は歌い始めた。


神尾の歌声は好きだ。
聴いててスカッとする。
胸に突き抜けてくる。


だけど、この歌に関しては、違った。

いつもとは違うんだ。
突き抜けて行きやしない。


胸にぐっと留まった。


情けないけど、俺は涙を堪えるので必死だった。



間奏の部分で目が合った、時。

神尾は微笑むと言ってきた。





「誕生日おめでと、





だから俺も返した。






「サンキュー…アキラ」





指定の時間を一分過ぎるまで、歌声は響き続けていた。



有り難う、アリガトウ。


今日は俺の、最高の思い出。






 “ 生まれてきた喜びに 君が包まれるように

   今日という日を祝うよ Happy Birthday to You ”






















『きっと忘れない HAPPY BIRTHDAY 』

作詞/作曲:尾崎豊(Y. Ozaki)





 

催促されるがままに書いてみた。
まあ、時期的に丁度いいかなと。

歌詞、どうしても入れたかったので入れました。(強情)
それに当たり著作権とか色々調べてみました。
これは引用の範囲に当たると判断して使わせておきました。

歌詞の前にもう一行入れたかったんだけどね。敢えて書かず。
目じゃなくて心で読み取ってください。頑張れば分かるはず。
(反転したって分かりませんよ)(でもどこかに堂々と書いてある)

とにかくお誕生日おめでとうございまふ。姐御に捧ぐ。


2003/11/19