* フユザクラ *
「桜といったら春」
「うん」
木枯らしが吹く中。
他愛もない会話。
「秋桜はコスモス」
「ふんふん」
…その口振りは、初めて知ったってとこか?
まあ、いいけど。
「じゃあ、冬桜は?」
「へ?」
マヌケな声を出すと、英二は笑った。
「冬に花は咲きません!」
「…普通に咲きます」
自信満面でしたが。
その鼻、へし折ったり。
葉のない枝だけの木を見上げてから。
「英二、来て」
「?」
くるりと踵を返した。
コートを翻す。
ついて来てね、という合図。
「いいとこ連れてってあげる」
**
郊外の川縁を歩く私たち二人。
必要以上にきょろきょろとしている英二。
「ねぇ、こんなところに何があるわけ?」
「まあ黙ってついてきてよ」
私の声で大人しくなると、無言で横を歩いた。
吐く息が白い。
もうすっかり冬。
木々は纏いを無くしてなんだか寒そう。
マフラーを巻いた私はそう思った。
だけど―――。
「ほら、英二見て!」
「んにゃ?」
指差された方向を振り返る英二。
私もその視界に、止めてくれていたかな?
背中越しに咲き乱れた、フユザクラ。
「え…?あれ、桜?」
「うん。冬桜」
「うそぉ、冬に桜なんて咲くの!?」
「だから冬桜なんだって」
英二は一通りの質問を終えると、
随分と感心した様子でその木に見入っていた。
「はぇー……」
「どう、感動した?」
「うん。すっごい感動した!」
白い息弾ませながら、英二は言う。
私は笑顔を返した。
再び英二は口を開く。
「それにさ…今日」
「ん?」
こっちの様子を窺うようにして。
「知っててやってくれたんでしょ?」
覗き込んでくる大きな瞳。
私はそこから視線を逸らすと、
「なんのこと」と答えた。素っ気無く。
だけど自然と、笑顔だったのかな。
英二には気付かれちゃったみたい。
寒さで少し赤い鼻、照れ隠しに擦ると、
「サンキュー」と言った。
思わず「どう致しまして」と返しちゃった私も、
大層お人好しだなぁ、と思う。
本当はね、思って無かったよ。
君の誕生日に、桜なんかが見られるなんて。
ずっと思ってなかったんだよ。
紅葉に紛れて咲くこの桜を、私は誇りに思う。
突発でござり。
某新聞の某花コーナー(…)に冬桜なんて乗ってたものだから。
「……(センサー感知中)…ピーン☆ネタだ!」ってことで。
どうも、そういう種類らしいですね。冬に咲く。
日本ならではの美しさだよね、きっと。
英二誕生日記念だぜ。
書いてるときはカウントダウンがスタートした程度ですがね。
2003/11/19