最近、気になる人が居ます。


年下なんだけど、頼りになって。

と思ったら、突然ずっこけるような人。


でもそれは、周りを盛り上げるためなんだって私は知ってる。



周りの笑顔を大切にする人なんです。











  * 笑顔+私=貴方×好き *











「あー、今日委員会じゃん!めんどくさー」


私の友達、はそう言った。
は図書委員に入っている。

「何言ってるの、自分で立候補したくせに」

私はくすくすと笑ってしまった。
はきっと視線を向けると、半泣きの状態で言った。

「だって、可愛い後輩が入るって聞いたんだもん!」

確かに可愛いんだけどさー、寧ろカッコイイんだけどさー、
生意気っていうかそれもまた可愛いんだけどー、
でもなんか違うんだよねー。

…とか、なんとかは愚痴っていた。

「ま、とりあえず頑張ろ!」
「いいよね、は前向きでさ」

机に寝そべったはそう言った。

「これから体育祭だし、そっちの委員会は忙しいでしょ?」
「んー、確かにそうだけど、でも楽しいよ!」
「あーあ。私もそっちの委員会にすれば良かったー」

めそめそ、と泣きまねをする
私は苦笑を返したけれど。

こんな私の入っている委員会は、察しているでしょうが体育委員会。

体育委員というと、毎年人気のある委員会。
大抵、クラスからスポーティーな人が
何人も立候補して、ジャンケンで決めたりする。
(去年なんか腕相撲で決めてた…さすが体育委員)

ところが。

今年は何故か、女子の立候補者が誰も居なかった。
毎年数人居るのが普通だったので、私はビックリ。
入ろうと思っていた保健委員は他の人が立候補したから、
上げようとしていた手は下げちゃったし。
言うなら私は無所属の状態。

早く誰か手を上げろよと、
なんだか空気がピリピリしている感じがする…。
私、こういうの苦手なんだよね…。

どうせだったら……えぇい!


「やります、体育委員…」


言い終わった後ちょーっぴり後悔したけど、
皆から拍手を貰えたから、まあいいか、なんて。


その時は、こんなことになるなんて予想もついていなかったのだから。



思い起こせば、事の始まりは二ヶ月前……。








――初の体育委員会。


とりあえず第一回ということで、自己紹介。

周りを見回す。
やっぱり、スポーティーな人が多い…。

女子はショートカットだったり、シャギー掛かってたり。
男子なんて刈上げまで居る…。
上履きのかかとを踏んづけてたり、
スカートなんて膝上何センチかしら、あれ。

その中で、膝まで掛かるスカートに、
眼鏡でオカッパストレートの私は、
随分浮いていたことだろう。

「(な、なんか居辛い……)」

だけど、一年間頑張って行かなきゃ。
一学期には体育祭もあるし!

そう自分を盛り立てていた。

すると、横から突然聞こえた大きな声。


「2年8組桃城武、宜しく!」


……ビックリした。
他の人も元気一杯だったけど、
この人は…更に、凄……。
まさに、スポーツバリバリ!
通信簿は体育だけ評価5です!みたいな。

あ、こんなこと考えてるのって失礼かな…。(※実はアタリ)

その雰囲気の通り、他の人からも人気があるらしく
「いいぞー!」などの声が上がっていた。
どうもどうも、と頭の後ろに手を回す動作も、らしかった。


そんなことをぼーっと考えてるうちに、
自分の順番が回ってきた。

焦って立ち上がって、
「3年8組のです、宜しくお願いします」
と言うと深くお辞儀をした。

淡白な拍手が響いた。

そんな短い自己紹介だけで顔が赤くなってしまうような、
極端なアガリ症の私。
凄く場違いな気もしながら腰を下ろすと、
予想もしないことに隣から声が掛かった。

「顔真っ赤」

振り向いた。
さっきの子……桃城くん、だった。

「いいっスね、純情系。嫌いじゃないっスよ」

そんな風に、冗談も言えちゃう人。
対して私は、からかわれてるだけと分かりながらも
余計に顔を赤くしてしまった。

「おいおい、先輩誘惑するなよ」「してねぇよ!」
なんていう会話が、余所耳に聞こえた。



「それでは、これで第一回体育委員会を終わります」

委員長の号令が掛かって、全員で礼をして終了。
ふぅ、と息を吐いてから帰ろうとしたら。

「先輩」
「――」

桃城くんだった。

にっと歯を見せて笑った。


「また明日っス!」
「あ、うん。また明日…」


咄嗟のことだったから、
戸惑ったような返事しか出来なかったけど。

桃城武くん、か……。
いい子だな、なんて思いながら帰った。


結局その翌日は委員会が無かったから会わなかった。
だけどそのまた翌日は、廊下で偶然擦れ違った。

わざわざ声を掛けるのも変かな、と思って
普通に通り過ぎようとしたんだけど。
「無視は良くないんじゃないスか?」なんて、
向こうから声を掛けられてしまった。

悪いことしちゃったな、と後悔する私に、
「冗談っスよ!」と笑ったその表情は、眩しかった。

こういう雰囲気になるとなんの会話もしないのも変かな。
そう判断した私は精一杯の話題を持ちかけた。

「えっと…桃城くんは次なんの授業?」
「え、授業?そりゃー体育っスよ体育!
 どかーんと一発ダンクシュートォ!ホームラァン!」

カキーン、と口で効果音を入れながら
バットを振る動作をして見せた。
それがなんだか面白かった。

すると、横に居た同じクラスと思われる子から野次が飛んだ。

「桃、そりゃお前の好きな授業だろ。次は理科だろ、理科」
「えっ?先輩ってオレに好きな授業訊いたんじゃなかったんスか!?」

外野3名に笑われていた。
可哀相……。
でも、実は私も笑いを堪えるのが必死だったりして。

ばつが悪そうに「お前らうるせぇぞ!」と言ってからこっちを向いた。

「ところで先輩、オレのことは桃って呼んでやってくださいよ。
 桃城なんて、長いっしょ?」
「え……?」

自分の呼び名を指定するなんて…。
強引にも感じられるけど、男らしくていいなぁ、なんて。

「じゃあ、えっと、桃……クン」

だけど結局、そう呼ぶことが出来なかったそんな私…。


「桃くん?ははっ、そんな呼ばれ方したの初めてっスよ」


そう言って、笑った。
眩しい笑顔だな、と思った。
それに対して自分ってなんて小さいんだろう、
なんて、なんだか自己嫌悪に陥ってしまった。

桃くんは…いい人、だな。

再度心にそう刻み込みながら、
次の教室へ向かうためにお互い別れた。







そんな日から、もう二ヶ月経つんです。
時が流れるのは、早いって言うのかな…。
(何これ。私おばあちゃんみたい)


その間にも、桃くんは私によく構ってくれて。
会話をすることとか、結構多い。

廊下で擦れ違うたびには挨拶してくれるし。
委員会が終わった後も「玄関まで一緒に行きましょー」とか言う。

こんなに消極的な私だけど、桃くんはそれでも話し掛けてくれる。
その度に、私は桃くんの笑顔の眩しさを感じる。

そして、それに対する自分が、たまに嫌になる。



「体育祭まであと一週間。忙しくなると思いますが、頑張りましょう」

委員長のそんな言葉で、今日も委員会は終わり。
話し合いは結構長かったから、時間は遅い。
さ、早く帰りましょうか。

「先輩!」

今日もまた、声が掛かる。

「先輩、一緒に帰りませんか?」
「え?部活は…」
「もう、今から行ってもどうせ大したこと出来ないし」

時計を見上げてそう言った。
一緒に帰る、だなんてそんなことは初めてで、ちょっとビックリした。

周りの皆は帰っていく。
委員長も、荷物も纏めると「消すわよ」と一言述べて電気も消して部屋を出た。

教室の中、私たちだけ。

心臓が、ドキドキ行ってる。
嬉しいから。
期待に向けて鼓動が脈打つの。

だけど、上手く笑顔、作れない。
強張ったままの、言葉。

「うん。一緒に、帰ろっか」

視線を逸らしたまま、そんな言葉。


本当は、正面を向いて微笑みたい。
でもね、視線があまりに真っ直ぐすぎて。
それが、怖く感じられることさえあったの。


そんな私、貴方は嫌い?


頭をガシガシと掻いた桃くんは、
正面向くととても不機嫌そうな声を出した。

「別に、嫌だったらそう言っていいんスよ」
「ご、ごめん…そういうわけじゃ……」

その時の桃くんの表情が、
真剣すぎて、怖くって。
思わず身を強張らせて謝ってしまったけど。

溜息を吐いた桃くんは、一言。


「そういうのがイヤなんスよ」

「―――」


瞬間、涙が出そうになって。
それほどまでに好きだったなんて、今更自覚した。

だけど、こんなところで泣いたら
それこそイヤな子だろうな、と思って堪えた。
目は少し潤んでいたかもしれないけど。


そんな私に桃くんは、
「ほら、またそういう表情する」と言った。

ごめんなさい、なんて謝ることも出来なくなって。
どうしようもなくただそこに立っていると。

桃くんが、一歩一歩、迫ってきた。
私は何故か、体の前で鞄を抱えるようにしたまま、後ずさりしていた。

視線が、真っ直ぐすぎて、怖かったの。

怯えた私に、桃くんは表情を変えて。
怖がらせるつもりじゃ、ないんスけど、と言った。

「謝るんじゃなくて…オレは、笑顔が見たいんスよ」
「え……?」

これからどうなるのかと思いきや。
降ってきたのは強か(したたか)な言葉。


「先輩の全ての感情を見たい。感じたい」


いつの間にやら壁際に追い詰められていた私は、
固く目を瞑り首を縮めたのだけれど。

降り注いだのは、額への優しいキス。

「……っ!」
「ま、オレもそんな先輩が好きなんだから、なんとも言えないんスけど」

そう言って桃くんは笑った。
私は、その場に立ち尽くしてぽーっとしているだけだった。


桃くんが、私にキス、した?
そして、私のこと、スキ、だって?

本当に、本当に?


「あ、でも…」
「?」

夢見心地だった私に向けて、
はにかんだ笑いを見せた桃くんは、一言。

「もうちょっとだけ、笑ってください」

申し訳なさそうに、顔を伏せ加減にすると
瞳だけを上目に向けこちらを見てきた。

視線が交わって。

私は漸く、心からの笑顔を向けることが出来た。



 「うん!」



これからは、貴方が一番好きな私で居られるように。






















桃ちゃんには年上ドリームが似合う。というかなりかけ敬語。
長太郎には負けるけどな!笑。あ、あとリョーマ。
というか年下でもいけるな。オールラウンダー桃ちん!

最後の一行は二つの意味に取れるんですが、分かるかしら?
(他にも二つの意味に取れる文章入れました。上記のと同じ意味の)

題名は『笑顔の私は貴方が好き』と読む。
これも、頑張れば二つの意味に取れる…でしょ?
(いや、無理矢理なら3つまでいけるかな…)


2003/11/16