「好きです!」

「悪いけど」




…散った。

私の儚い初恋。











  * オウム返し→どんでん返し *












「だぁーもう!!」



昼休み。
私は、弁当を口に掻き込んでいる。

ヤケ。
そう、ヤケ食いってやつです。

だって、そうでもしてなきゃやりきれない。

了承も得ずに、の弁当にも手を伸ばす。
ひょいぱく×2食べていく。


…太るよ」
「知らない!」

そうだ。
もう体重が10キロ増えようが構わない!
わざわざ伸ばした髪だって切ってやる!
ばっさりショートに逆戻りよ。
毎日何時間も掛けてネイルケアだのパックだの
ファッションのお勉強だのしてたのが馬鹿らしくなってきた。
これからは碌に肌の手入れもせずにTシャツジャージで出歩くような女になってやる。

…それって中3女子としてヤバイ?
でも知らないっ。

それほどまでに、生活の中心だったんだ、あの人は。


「大石秀一郎のアホー!!」


グサ。
エビさんご臨終。

「ちょっと、隣まで聞こえるよ?」
「いんや、テニス部は今昼練だから」

叫びつつフォークでぶっさしたエビフライを口に運ぶ。
3回噛んで飲み込んだ。

「…食い足りん…お代わりだ。購買行ってくる」

立ち上がった私。
はこんなことを言う。

「そのがさつさがいけなかったんじゃない?」
「ウルサイっ!」

ガルル、と牙を剥き出して。


私はズンズンと教室を出た。



文句を言ってるうちは、逆に大丈夫。
でも、一人になった途端に気持ちは弱くなる。

…初恋、だったんだ。

小学一年生の頃のとか、まああるけど。
あんなの数のうちに入らないとして。

本気で一人のことを、異性として、好きになった。
異性だって友達なことはある。
同性だって恋愛対象になることはある。
まあ、その話はさておき。


初恋でした。


同じクラスになって、その時はまだ何も知らなかった。
だけど、私が恋に落ちるのに、そう月日は要しなかった。




「大体、世話焼きなんだよあの人」


――沈んでる時、一番に気付いて心配してくれた。




「テニスだって、一人じゃ何も出来ないくせに」


――大石が居るから安心してプレイできる、と言った菊丸の顔が浮かんだ。




「学級委員だって、内申狙いのくせに」


――自分から手を上げた凛とした姿、今でも憶えてる。




「他にもかっこいい男なんて、そこら中に居るもんね」


――私には一番輝いて見えた。




「まず、いっつも笑顔だけど、作り笑いっぽいってか胡散臭いし」


――何度もその笑顔に助けられた。



何もかもに嫌気が差していたあの頃。
授業もサボりがちだった私。

しかし、あまりにその笑顔が眩しいもので、
一度、素直に微笑み返したことがある。

すると、大石君は一言。


『いつでも笑ってれば、可愛いのに』


照れた私は、「バカにすんな」なんて、言っちゃったけど。




その日以来、私は綺麗になる努力をし始めた。

授業だって真面目に受けるようになった。
最近明るくなったね、とに言われたのもこの頃だ。


「だけど、もう終わったんだね…」


胸一杯になったら、お腹も一杯になっちゃった。

屋上にでも行こ。
授業までには戻るし。





  **




『キーンコーンカーンコーン』

「………」


もう、あれから3回目のチャイム。
予鈴に5時間目始まりの本鈴、
つまり今のは5時間目の終わりの合図。


私は大の字に寝転がって、ぼーっと空を見上げている。
それだけ。
風に吹かれて雲が流れていく。
そんな感じ。

太陽が眩しい。
それが遮られて…人の顔。


「何やってんだ」

…こっちのセリフなんですケド。


「サボリとは、あんまり感心できないぞ」

アンタがそうさせたくせに。


ゴロンと寝返り。
顔が見れない方向を向いてやった。

ちゃんは怠惰モードに逆戻りしたんですぅ。
もうアンタなんか、冷めたんだから。
だから、無理に視線を合わそう何てしない。
…無理に視線を逸らしているといえば、そうだけど。

何だかんだいって意識しまくりの自分に嫌気が差す。


ふぅ、と溜息が聞こえた。

「教室、戻らないのか?」

無言でいることを、返事とした。
そこに居る人は、困った顔でもしてるのかな、
と思いつつ気に留めていないふり。


あ、そういえば1組の教室に弁当箱置きっ放し。
まあ、がなんとかしてくれてるでしょ。

なーんて呑気に考えてたら。


「じゃあ、俺もここに居るぞ」

「!?」


…本当に横に寝転んだ。
私は逃げるようにしてゴロンと寝返りをうつ。

何?
この人は何のつもりなの!?


「俺、前から決めてたことがあるんだ」

はい。さいですか。


「誰に告白されても、オーケーしないって」


―――……。


何?
それを伝えに来たワケ?

性格悪…。

私が散々傷付いたって分かってるんでしょうね。
今は冷めたけど、冷めたけど。

こんなやつと付き合わなくてすんで、逆に助かったわ。


なんて思ってたら。



「告白は、絶対自分からしようって」

「―――」


だからさ、という声に、
私は気付けば体を起こしていた。

向こうも同じだった。
真っ直ぐ視線が重なる。


「好きな子から告白されたのに、断っちゃったよ」


フォローを入れる前に、逃げられちゃうしさ、と。
はにかんだ笑い。

…え?

それってつまり…。
・・・ってことですか。


「さ、教室戻らないか。俺の所為で授業のサボリ癖が戻ったなんて、責任感じるしさ」


彼なりの照れ隠しが紛れたようなその言葉。
なんだか、くすぐったいというか、温かくて。

私やっぱり、大石秀一郎君のこと、好きです。

軽いと思われようが、それが事実なんです。
もう曲げられません。


告白の返事は、もう聞いた。
次は貴方からの言葉、待ってるから。




振り返って向けられた笑顔に、私は更に笑顔を返した。






















始まった瞬間に即行フラれるのが書きたくて。(鬼)
「好きです!」「悪いけど」←これを昔から使いたかった。

大石が自分勝手です。
自分を貫くってかっこいいけど、ちょっと自己中すぎです。(笑)
まあ、らしいといえばらしい。
そんな大石が好きなんだから仕方ないのです。惚れた弱みってやつだ。

題名にはTKさんの特技、オウム返しを入れてみた。
だけど、大石が一番得意なのは微笑み返しだと思います。


2003/11/15