告白されるのは、初めてじゃなかった。

いつもの決まり文句で、その場を切り抜けた。



…つもりだった。


だけど彼女は、今までの子たちとは違った。





今日も―――ほら。

木陰の下、今日もこっちを見てる。



優しい、笑顔。











  * 春日影 *












「本日9回目の溜息を観測〜」


俺の机の前、指でカメラの形を作った英二がそう言った。

いつからそこにいたのだろう。
疑問に思いながら瞬きを2回。

英二はぴょこんと立ち上がって俺の机に両手を置いた。
訊いてくる。

「大石、最近なんか悩み事ある?」
「…え?」

思わず口から出たのは間抜けな声。
今度は英二が溜息を吐いた。

「変。最近の大石、絶対ヘン!」

強く言い切ると、ビシっと指差してきた。

「大石ってばさ、人の相談は乗るくせに自分のことは全然話さないんだもん」
「別に俺は…」
「じゃあ何だって言うのさ!」

喚き出す英二。
教室中の視線が集まってきた。

頼むから静かにしてくれ、と言うと、英二は口を押さえた。
するとこしょこしょ声(そこまでしなくてもいいんだけどな…)で、言ってくる。

「なんかあったら、相談するんだぞー」
「ああ、分かったよ」

笑顔を返した。
英二は満足したのか、ピースサインを向けると教室から出て行った。


一人きりになって、考える。

…最近の俺、そんなに変だったか?
悩みらしいものはないんだけどな。

気になってることなら、まあ、あるけど…。



――あの告白を受けたのは、10日ほど前のこと。





  ***





「好きです」


呼び出された校舎の裏。
真っ直ぐな視線で受けた告白。

ふぅ、と深い息を無意識に吐いた。
人に好感を持たれるというのは、悪いことではない。
寧ろ嬉しいことだ。

しかし…真っ向から受け止められないとなると、凄く辛い。


『ごめん。でも、今は誰とも付き合うつもりはないんだ』


…それが俺の頭の中に準備された言葉で、
今までもそうして切り抜けてきた。しかし…。

俺が、「ごめ」まで言ったところで、彼女は首を横に振った。


「謝らないで。大石君は何も悪くない」


想いに応えられないから詫びるのは当然だと思っていた俺は、
肝を潰された気分だった。


「だけど…」


目の端に薄らと涙を浮かべて、
その子は微笑した。


「見ているだけでいいので、許してもらえますか?」


また、真っ直ぐな視線。

圧倒されて、俺はよく考えることもできないまま頷いていた。
深くお辞儀をすると、その子は走ってどこかへ消えた。

残された俺は、呆然と立ち尽くしているだけだった。





  ***





そして、言葉通りその子はテニス部の練習を毎日見に来る。
廊下で偶然擦れ違えば、笑顔を見せて会釈する。

今までに告白を受けて断った子だったら、
視線を逸らされていたところ。
そのようになってしまうのが嫌で、
応えることが出来ないのに告白されるのは、あまり好きではなかった。
言わば、あの子は俺の中の常識を覆した子であった。





――部活。


今日も、居る。
木陰の下。

優しい、笑顔―――。



いや、いけない。
テニスに集中しなきゃな。

そうだ。元はといえば、告白を断ったのだって、
テニスや勉強に集中できなくなるから、だろう?

気をとられなんてしていたら、それこそ――。


「大石!」

「――」


英二の声に反応する間も、無く。
俺の真横をボールが鮮やかに通り抜けた。


「あ……」


ガシャン、とフェンスへバウンドしたボールを、
俺は振り返って凝視するだけだった。

コロ、と転がる黄色いボール。


「ごめん…」
「謝るのはいいけどさ」

英二が駆け寄ってきた。


「本当に大丈夫?」


心配そうな顔をされる。

そんなに、俺、変だったか?
…まあ、集中力を削られているといえば、その通り。



開き直った。
にこりと笑顔を向ける。


「大丈夫じゃ、ないかもな」
「へにゃ???」

予想外の言葉が返ってきたからか、
俺の言葉と表情が合っていなかったからか。
英二は頭の周りに疑問符を沢山浮かべていたようだった。


風が、一筋吹き抜けた。


春の風に鼻を擽られた俺は、破顔一笑した。

「なんだかんだいって、乱されているわけだ」
「???」

相変わらず英二は何も分かっていないようだったけれど。
全てを振り切ると、心はとてもスカッとしていて爽快だ。

「さぁ、集中していくぞ」
「もちっ!」


かっこ悪いところは見せられないな、と。
逸れていた意識は、良い意味で俺を集中させる形へと変わった。



―――今日練習が終わったら、伝えよう。
いつも笑顔を向けてくれていた君に。

何にしろ、このままじゃあ他のことに集中できそうにもないのだから。

自分も心を開いていることを、
そろそろ認めていいころだろう。

吹き抜けた風は、どこまでも優しい。



少しくすぐったい、そんな、春の感情。






















大石がこっぱずいやつだ…!
てか、ヒロイン出番少なっ!主人公じゃねー。
その座を菊に奪われてるぞ、いいのか!?

大石は、沢山告白受けてるはずだ。
後輩からアイドル扱いされてることは
アニプリでも証明済みだぜ。(へへん)
なんでもありだぜ。

春日影の意味は、春の日の光、だそうです。
日による影と書いて光か。やるねー。


2003/11/15