* コチョウのユメ *












地下。

日の届かない世界。


一つの台を挟んで球のやり取り。




「それスマッシュ!」
「よっ」
「何をぅ…とりゃっ、げっ!」
「アーウト」

オレンジ色の小さい球は、
台に当たることなく地面で跳ねた。

カンカンと軽い音を立てて跳ね続けるそれを、
俺はパシっと片手でキャッチした。


「くっそ〜…連敗かよ」
「英二は、無理矢理がっつきすぎかな」
「うるさぁい!大石なんか、一回もスマッシュ打たずに
 俺が失敗するの待ってるばっかのくせに。意地汚いー!」

それも戦法だよ、と答えると英二は頬を膨らました。
赤い面を上にして人差し指の上でラケットをくるくると回すと、
こんなことを言い出した。

「オレ達が組んだらさ、きっと最強だよね。弱いところ補えるってゆーか」
「でも、この建物の中にオレ達の相手になる奴いるか?」
「いーんや。1対2だって勝てる自信がある」

第一、俺達より年下の子が多いからな、ここは。
相手にならなくとも仕方がないが…。

「あーあ。誰か強い奴と対戦したいな。ダブルスで」

「相手になろうか?」
「―――」

声の方向へ振り向く。

そこに居たものは、卓球ではなく
――テニスのラケットを持っていた。

「越前…」
「二人、卓球ばっかだけどテニスはやらないんスか?折角コートがあるのに」

確かに。
この建物の裏には、少々古臭いもののテニスコートがある。

「えー、でもオレ達テニスやったことないし」

英二はそう答えていたけど。


何故だろう。
出来る気がした。

自分はテニスを知っている。
英二と組めば、なんだって出来る気がした。

きっと気のせいなんだろうけど。




 『大石、オレ達って最強じゃん?』




ん?
今の声、英二?

だけど英二は何も喋ってない。

…幻聴か?


「宜しかったら、1対2でも相手になりますよ?」
「舐めやがっておチビのくせに!やるぞ、大石!」
「あ、ああ」

そう言って、オレ達は外へ飛び出した。


何故だろう。
理由は分からない。
根拠もない…けど。

出来る気がした。



――二人揃えば、怖いものなし。


そんなフレーズが頭に自然と浮かんだ。

何なのだろう。
よく分からない。

だけど出来る気がした。



野外コート。

もう7時半、外は結構に暗い。
ネットの存在は確認できるが、ラインが見えない。


「んー、もう暗くて危険だから、明日にしないか?」

…返事が無い。


「越前!…え?」


辺りを見回す。


居ない。

越前だけじゃない。
英二まで居ない。


ん、ネットも消えた?
違う、暗いだけだ。

太陽は沈んだ、そして新月だからだ。



あそこに居るのは、蝶?






 『 コチョウのユメ 』






今のは、声?

頭に直接響いた。



なんだ、この感覚。


夢?

そうか、きっとここは夢の中だ。


これは夢の中。




……どうして覚めない。






 ハタシテ コレハ ホントウニ 夢 ナノカ?







   ***







手を繋いで歩く帰り道。


オレンジ色の夕陽、が、霞む。



なんだ?

意識が、遠く――。



「えっ、大石!?」



体が前のめりに、倒れる。

英二がなんとか抱き留める。



意識が遠い。

意識が遠い。



なんだ、コレは?


どうしてこんなに客観視している?



これはユメ?



違う。

夢だったらこんな痛み感じない。



頭が痛い。

アタマがイタイ。


タスケテ。




「だ、誰かっ!救急車ー!!」



エイジ、モウイイヨ。


オレハネムルコトニスル。





……アレ?

ナニカガトンデル。



アレハ…




   蝶 ?








 ソウ。

 ソレハスベテツクリダサレタユメ。


 ユメノナカデハ、

 ゴラクヲタノシンダリ、トキニクルシンダリ。



 ソレデモショセン ソレハユメデシカナイ。









…―――オレハ夢ヲミツヅケル。






















いやーん、楽しかったーvvダークもたまにはいいね。
一回終わると見せかけて、実は続く。
こっちが本当のエンディングです。

私って、夢の中だと完全にそれが現実だと思い込んでます。
いくら矛盾してることがあっても、勝手に納得してる。
だけど、極稀にそれが変だということに気付く。
その辺を大石に代理して頂いて表現してみましたのさ。

胡蝶の夢→故事が元らしいですが、現実の夢の区別がつかないことだそうです。(by広辞苑)

結局は、どっちが現実なんでしょうね。
それはご想像にお任せです。ご意見お聞かせくださいねv
ソレトモ、リョウホウユメナノカモシレナイ…なんつって。


2003/10/22