* willpower sunflower *
暫く雨が降っていない河は、
いつもより水が少なく見える。
この前少し雨が降ったけれど、
その前に長く続いた渇いた天気は河の水をも干上がらた。
剥き出しになった瓦礫。
そこに、一本の向日葵が咲いていたことを思い出した。
細くって、弱々しくって。
でも太陽を求めて生えているその姿は、
地面にしっかり根を構えるものとなんら変わりはなかった。
もう、あれはひと月近く前のことになるのか。
まだまだ続く暑さを感じていたあの頃。
今は、散り行く黄色の葉の下を歩いている。
あの時見えた向日葵も、もう
なんの跡形も残していない。
枯草すら見せず、残っているのは瓦礫の山だけ。
波が、行ったり来たり、ゆらゆらしている。
波打ち際には泡が生まれて、
また消しながら流れ去っていく。
それの繰り返し。
「英二」
「あ、不二ぃ!」
呼ばれて振り返ると、
そこには仲の良いクラスメイト。
笑顔を向けると、近くに歩み寄ってきた。
「何やってるの、こんなところで」
「うんにゃ」
もう一度河の方へ視線を向けて。
それで説明した。
「水が減ってるなって思って」
「そうだね」
「この前なんか、あそこら辺にヒマワリ咲いてたんだぜ?」
記憶に当たる辺りを指差した。
へー、と不二は相槌を打った。
「なんかさ、凄いなーって思って」
「どうして?」
「だって、瓦礫の中だよ?それなのに、よく頑張ったよなーって」
手摺に肘を突いて顎を乗せた。
波打ち際を見る。
ゆらゆら、泡が生まれたり消えたりしてる。
「…それでも、今は何も残らないんだよね」
「うん、そだね」
ザァ……ザァ……。
波の音が聞こえる。
カモメが飛んでる。
「それで幸せだったのかな、ヒマワリは」
「―――」
不二がそんなこと言い出すなんて珍しいの、って思ってたら、
こんなこと言うなんて僕らしくないね、って笑った。
「ヒマワリの考えてることなんて、勿論分からないんだけどさ」
「うん……でも、オレもなんとなく分かるよ!その気持ち」
ぐるんと不二の方に顔を向けて同調の意を示した。
「瓦礫の中でもさ、頑張って咲いたのに。
それなのに…最後には全部消えちゃうなんて……」
悲しいね。
その言葉は心の中で呟いた。
きっと不二の心の中でも似たような言葉が唱えられてる。
「…だけど、結局生き物って全部そうなんだ」
「不二?」
「後世に功績を残すとか、歴史に名を刻むとか言ってもさ」
…なんだろ。
よく分からないけど…
不二、悲しそう。
「結局、最後には何も残らないんだよ」
口を開いた、けど、
何も言うことが浮かばなかったので閉じた。
波打ち際を見る。
泡が生まれたり消えたりしてる。
ゆらゆら、ゆらゆら揺れながら。
そういうことなのかな。
いくらその時頑張ったって、
最後には何も残らないのかな。
だけど…だけどさ。
「確かに、物は残らないかもしれない」
「―――」
「でもさ、ヒマワリがそこに咲いてたってこと、少なくともオレは知ってる」
不二がこっちを見てるのを知ってる。
だけどオレはそっちを向かなかった。
空を見上げた。
カモメが飛んでる。
太陽が眩しい。
「頑張れば、きっと誰かが見ていて、覚えていてくれるんだよ」
それだって、いつかは、消えてしまうかもしれないけど。
だけどオレは、永遠なんて要らない、知らないから。
だからそれでいいんだ。
「細くて弱々しかったんだけどね…でも、眩しかったよ、ヒマワリ」
そういって不二の方を見た。
不二は呆然としていたけど、
オレが笑うと、向こうも笑った。
揺れる波際 夢の様
瓦礫の向日葵 泡へと消える
その姿 もたらす物 全て
消えていく 然し 残っている
36は友情で。よっしゃ、ホモじゃない。(何)
半分実話。ライン河流域の瓦礫の中に一本だけ向日葵が咲いてて。
それが妙に印象に残ったので書いてみた。
最後の詩は英語にすると脚韻(ライム)踏んでます。
(stream,dream/rubble,bubble/looking,bring,everything/again,remain)
日本語にすると普通に普通なんだけどね。
2003/10/21