* チもナミダもアるザイニン *












「それじゃ、お疲れっス」
「バイバ〜イ」

「また明日な」
「うんにゃ、また明日っ」

「さようならー」
「ほいほーい」


いつもなら一番に飛び出すオレ。
今日は、何人見送っただろう。

それもこれも、今日は大石と約束してるからで。


『今日は手塚が用事があって遅くまで残れないみたいなんだ。
 変わりに英二、日誌書いたりするの手伝ってくれないか?』

とのこと。


これって…さ?
一応は、ちょびーっとだけでも、信頼されてるってわけでしょ?

それとも、ただ単に一人が嫌だったのかな?
ぷぷっ、大石って実は寂しがりやさん!

それともそれとも、オレと一緒に居たかったから、とか?
ってこれは思い上がりかにゃー。


「(だって別に部活後じゃなくったって普段一緒に居るもんねー)」


まあ結論から言っちゃうと、
一緒に居られて嬉しい、ってことなんだけどね。



ところでそんな大石はというと、
さっき竜崎先生のところに行ったかと思うとそのまま帰ってこない。
気付けば部室の中はオレだけだし。

何やってんだー。

なんて、心の中でいくら叫んだって
大石は帰って来な……


「英二、ごめん遅くなった!」


…来た。

……これって愛?


「どうした、英二。妙にご機嫌だな」
「へへっ、にゃんでもな〜い」

といいつつほっぺが綻んじゃう。
大石はそんなオレを見て微笑んだ。


幸せ。

だってオレ大石のこと大好きだもん。


「竜崎先生なんだって?」
「ああ、今月末のランキング戦についての話をちょっとな」

オレは大石の顔をじーっと見てた。

凄いよね、大石。
副部長としての責任感もばっちりだし。
他にもクラス委員とかもやっちゃうし。
後輩にも優しいし誰も敵を作らないっていうか。

それにカッコ良いし!

考えてたらまた頬が綻んだ。
まずい×2。

「ちょっとごめん、俺先に着替えちゃうから日誌で書き込めるところ先にに書き始めてくれるか?」
「了ー解っ!」

ビシって敬礼のポーズをすると、オレは日誌を開いた。
筆箱の中からシャーペン〜。
くるっと回してそれ書き込み。

日付……なんだっけ?
天気、心模様は晴模様。
活動目標?何、そんなの書くの?

「(全然分からん…)」

大石を待つことに決めた。

「で、そのランキング戦についてってどんなこと?」
「英二、話すのはいいけど書けてるのか?」
「全然。だから待ってるの」
「……まあ構わないけど」

大石はレギュラージャージを脱ぐと
丁寧にたたんで鞄の中に仕舞った。

「別に特別なことじゃないよ。また表を作らなきゃいけないっていうのを伝えられただけ」
「なーんだ」

オレは椅子を斜めに傾けて足をぶらぶらと揺らした。
大石はポロシャツのボタンを一つ一つ外し始めた。

なんか、色っぽー……。


「――」


何考えてんだオレ!
確かに最近オレと大石は“イイ関係”だけど
まさかそんな対象として……。

「それでな、これはまだ手塚と相談途中なんだけど…」

ボタンを外し終えて。
肌を包み隠しているそのポロシャツ……脱いだ。

「(ヤバ……勃ちそ…)」

咄嗟に大石から視線を逸らした。

ダメダメダメ。
何考えてるのオレ。
別のこと考えよ、そうしよ。

今日の宿題なんだったっけー。
あ、元々やる気ないから聞いてなかった…。
じゃあお弁当のおかずはなんだったかな?
うん、お昼のおかずは卵焼でしたー。
夜のオカズの方はいかがに致します?なんちゃって。

って悪い方に戻ってきてるよ!
あー、う〜……。


「……英二、聞いてるのか?」
「!」

突然無言になったオレを心配した大石が、
こっちに、来た。

白いワイシャツ羽織って。
ボタンはまだ全部は止まってない。
一番上のに今手を掛けたところ。

勿論そこより下は肌が見えているわけで
今は静かで落ち着いてるけど
さっきまでは大石だってコートでプレイしてたわけなんだから
そりゃあ熱くだってなるし汗だって掻くし
オレだってそんなの何度も見てるけどさ
例えば試合の合間で乱れた息を整えるために
深くて長い溜息をふーっと吐く時の横顔とか
それを見るたびにドキドキしてたこととか大石知ってるのかな
オレが大石のこと好きだって伝えたら
大石もオレのこと好きだって言ってくれたけど
本当に同じ気持ちなの
向こうにとってオレは所詮友達の延長とかじゃないの

ホントウニ オナジ キモチナノ?


「英二、顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか」
「っ!」


大石が
更に一歩
近付いて

鼻を
擽る
大石の香り

大石の手が
オレの額に
触れて

今度は
額同士を
合わせようとする


「大石…オレの気持ち気付いてる?」
「英二?」



もう 気持ちの 歯止め なんて 利かない

理性 なんて いう 言葉

オレの 頭の中 から すっぽ り  抜けて


知らな  い



――――。



それほどに君のことが欲しくて欲しくて愛しくて
耐えて堪えてだけどその気持ちだっていつかは絶えて
溢れてくるこの想いを押し留めるのできるかな無理だよ
そのことに気付いているの君は気付いているの?


「オレだって…ずっと我慢してたんだよ」
「英二……?んっ!」

気付いたら大石の胸元掴んで。
んで、無我夢中でキスしてた。
舌も思いっきり突っ込んでやって。
逃げようとする大石のを絡めとって。

大石は力が抜けたみたいで抵抗はしなかった。


「ん…っ、ぷはぁ!…ハァ、えい…じ……」

苦しそうに肩を上下させる大石。
そこで漸く意識がはっきりした気がした。

でも、理性はまだまだ帰ってこない。

「オレ、大石のコト好きだよ」
「英二…」
「好きだから…傷付けたくなかった。いつも大石優しいから…」


涙というものは精神感動や諸刺激によって分泌が盛んとなるそうです。
別に悲しければ出るものじゃないそうです。

だってオレ今別に悲しくなんてないけど。
だけど涙が溢れそう。
これは感情の昂ぶりが起こしたもの?


「オレが我儘言うと全部聞いてくれちゃってさ。優しすぎるんだ」
「どうしたんだ、英二…!」
「この前大石もオレのこと好きだって言ってくれたとき嬉しかったけど、
 それと同時に…すっごく不安だったんだよ」

きっと…こうなること、既に予想してたんだね。

「ヤなやつでしょ?オレ」
「そんな…」
「前では笑っててもさ、本当は大石のこと滅茶苦茶にしてやりたいってずっと考えてたんだよ」

知らないでしょ。
いつもさっさと帰っちゃうのは大石が着替えてるとこ見たくないから。
実はストレッチの時の痛がってる声聞いて欲情してる。

オレのそんなところ、知らなかったでしょ。

「でも大石…優しすぎるから。ダメだって。押し留めて……」

いつでも笑顔。
だからオレもたまに作り笑いをした。
大石、優しい。優しすぎ。


「大石…オレのこと、スキ?」
「英二、オレは……」
「うん、確かにこの前言ったよね。オレのこと好きだって。でも、それはこういう意味でも?」
「!」

オレは大石を床に押し倒して、そのまま馬乗りになった。

「食い違ってない?オレ達の想い。こんなことされても大石はまだオレのこと好き?」
「オレは…英二を……」
「ストップ!…大石のことだからさ、また優しさ使うんだよ。
 本当に思ってないこととか言う。優しいから。でもそんなの良くない」

いつもはどちらかというと見下ろされてるのに。

上から大石のこと見下ろす。いい眺め。
下で不思議そうな顔してこっちを見上げてくる。
うん、いい眼だね。その少し怯えた感じの。イイよ。

付けられていた上二つのボタンを外した。
そして思いっきり前を開いてやった。


理性 って  ナンデスカ。



意識はあったけど、ホントのオレじゃないみたいに勝手に体が動いた。
もう止まらなかった。
夢中になって大石の肌に吸い付いた。
その度に零れる、大石の声が堪らない。

「はぁ…ふっ、…エイ、ジ……!」
「大石、オレのこと、好き?」
「エージ…!」
「スキ?」

繰り返し訊く。
大石は視線を背けた。

「英二のことは…好きだよ。でも、こんなの…!」


やっぱりね。 食い違ってた。

分かってたけどさ。



「両想いなのに一方通行だったんだね……」


なんだか、切なくなって。
一瞬冷静になりかけた。

軽く、大石の額にキスをした。

大石はぎゅっと固く目を瞑ってた。
綺麗で澄んだ瞳、閉ざされてる。

「大石…目、開けて」
「英二…」
「ゴメンネ、怖がらせて」

…オレ、やっぱりイジワルだ。
ゴメンなんて言いながら
怯える大石のことみてゾクゾクしてたんだから。


「だけど…オレはずっと、大石のことそういう風に、見てたんだ…」
「英二……」


もう、絶交かな?

恋人同士どころか
築き上げた友情も
ダブルスのパートナーとしての絆も
部活仲間としても
そもそも同じ人類であること自体
全て否定されてしまうかな?


この際、力尽くで手に入れてしまおうか。




その時。


『コンコン』


ノック。


「……ハイ?」
「その声は菊丸か」

……竜崎先生。

「大石も、そこか?」
「はい…居ます」
「いや、ならいいんだが。随分遅いから気になってな」
「あ、すみません…」
「日誌が終わらないようだったら明日でもいいから。暗くならないうちに帰りな」
「はい……」

ドア越しの会話。
終えると、遠ざかっていく足音が聞こえた。


それが消えると、完全な沈黙。


そのまま音を立てずにオレは立ち上がった。
鍵を掛けなかったのは無用心だったかなとかそんなこと考えながら。

大石は床に寝たまま唖然としてる。
上から声を降らすように。


「…ごめん」
「………」

返事は来ない。


「だけど……スキ」



返事が来る前に逃げた。




鞄を掴んで、オレは部室から走って飛び出した。


そのまま校舎の横を抜けて校門も駆け抜けて
学校が見えなくなるほどまで遠くに
曲がり角も無意味に曲がって
ここはどこかも分からなくなるほどに走って。


「………ハァ…っ!」


溜息にも似た一つの深い呼吸。
だけどこれは走ったから息が乱れただけ。

それだけ…のはずなのに胸が苦しい。



大石………。




明日、どんな顔をするかな。
そもそも顔を合わせてくれるかな。

大切な宝物。
好きすぎて好きすぎて
それだけが溢れて
最後は粉々に壊してしまった。


「…………」


涙というものは精神感動や諸刺激によって分泌が盛んとなるそうです。
別に悲しければ出るものじゃないそうです。

だから、今は感情が少し昂ぶっているだけなのです。
涙が流れていれば悲しいだけかというとそうじゃないのです。




良かった。
あの時竜崎先生が来てくれて。

そうでなかったら、オレは大石をどうしていただろう。





――ねぇカミサマ。


ダレかをスきでアるというコトは

ツミなのですかザイなのですか

そうでもナければどうして

こんなにイタいこんなにツラい


ワタシはザイニンになるしかナいのですか。








―――……雫が一滴、地面に落ちた。






















ごめん、続きません。(即行謝り)
尻切れトンボと言えばそれまで。

狂った感じでポエム調にやる部分、
凄く楽しくってどうしてくれよう。
どうも菊大というと菊が黒くなりがち。
私の不二観に近い菊であった。黒くても傷付きやすく繊細。
とにかく楽しかった。ヾ(@゚▽゚@)ノあはは。(壊)

CPの裏々物久方振りに書いた。
リハビリ作がこんな病んでるのでいいのか。苦笑。


2003/10/20