* 献上弔花 *












「泣いてる?」

「ウルサイ」


「……ま、仕方ないとは思うけどね」




首をうな垂れて座り込んでいたオレ。

不二が横に来て座った。



ここには毎日通ってる。

まだここにはアイツはいないけど。




毎日、毎日。






「英二、学校にはいつから来るの」

「そのうち」


「もう新学期始まってから一ヶ月経つよ」

「知らない」



こんな返事したって、不二は困るだけって知ってる。


いや、だから言ってるのかな。






学校に行ったって、アイツの笑顔は見れない。

そう思うとさ、行く気だって起きないよ。



ただ、ここに居れば

なんだか近くに居られる気がする。


だからオレはここに居る。





「来週の土曜日…来るんだよ、ここに」

「……うん」



墓石。

それはそこにあっても、まだ地中には居ない。


四十九日まで、あと一週間と少し。




「そういえばさ、英二知ってる」

「何を」


「一昨日まで、お彼岸だったんだよ」



不二に顔を向けた。


戻す。




「…なんで終わってから言うのさ」

「だって英二泣きそうだもん」




そんなことないもん。



呟きながら、地面の草を毟って投げた。


繰り返す。



こらこら、と止めに入る不二。

素直にオレは手を止めた。




静かだ。


空は青い。


雲は悔しいくらいに白い。





「なんで…」

「ん?」



「不二は今日来たの」



訊くと、ああ、と不二は軽く苦笑いをして。

そういえば説明してなかったや、と。




「秋分の日とさ、四十九日から辿ると…今日が丁度真ん中」




「――――」







不二の横顔から視線を逸らした。




空は青い。


雲は白い。






「あ、英二見て」

「……?」




指差す先。


一本の白い花。




「あの花、何か見覚えない?」



考えた。


分からない。



「いや…全然」


「形とかさ、よく見てみてよ」

「…………」




言われて、その花を凝視した。


長い間じっと見ているうちに、

残像みたいなものが出来て色彩感覚が狂った。


何かと重なった。



頭の中にあった、秋彼岸という言葉と結び付いた。




「……ヒガンバナ?」

「そ。よく分かったね」



でも、何か変。


彼岸花と言えば…燃えるような赤が印象的で。

彼岸の頃に咲くことから、死者の血を吸ってるんじゃないかとまで言われる。



なのに…真っ白。




「彼岸花の別称を曼珠沙華っていうんだけどさ」


「うん」



「そこにあるのは、シロバナマンジュシャゲって言うんだ」





初めて聞く名前。


だけどなんだかしっくりと来た。



「実際はショウキズイセンとの雑種らしいけどさ」



不二はどうしてこんなに詳しいんだろ…というのはさておき。




「彼岸花なのに白いなんて…なんか、不思議だよね」




ふっと笑った。




オレは俯いた。




「アイツ…好きな色、白だった」


「そうだっけ?」


「うん。だから白い花が咲いてるのかも知れない」





不二は微笑した。





オレの好きな色は赤。


だから、オレの時は真っ赤な彼岸花が咲くと思う。




でも、アイツは白が好きだったから。



だからきっと白い花が咲いたんだ。







「…さ、僕は帰るけど」


「オレも」



「…今から行けば部活の最後に間に合うけど?」


「ん、行かない」




断った。



でも。




「明日は多分、学校行くよ」



「分かった。でも無理はしないでね」




「もち」







立ち上がった。

花を振り返った。


余りに寂しそうだった。




その姿はまるで徒花。

儚く散っていってしまいそうで。




だけど、きっとこれは弔花なんだ。


捧げられるための、献花なんだ。







だけど場違いにも見えるその白さは、


やっぱり徒花ゆえだと思ってしまうんだ。






















『哀傷葬歌』の前に繋がる作品。
大石君が亡くなってから一ヶ月ほどのある日です。
この設定気に入ってるのか、自分。
二回も使うなんて…。(滝汗)

まあ、自分にも当てはまるってことで。
そんな意味でも書きやすかった。

心安らかに。行くことは出来ないけどここから見てます。


2003/10/02