* 空にお絵描き *












――平成××年5月13日 月曜日

お互い部活がない日の放課後。



「今日も空が綺麗だー!」


思いっきり叫んだ。

学校という建物から抜けると、

突然開ける世界は明るい。


後ろを歩いているシュウにくるりと振り返って、訊いた。


「ね、こういう日はあそこに行きたくならない?」

「あそこって…どこだ?」

「あそこに決まってるでしょ!」


訊き返してくるシュウに、私はさも当然かのように答える。

といっても、これは私だけの常識かもしれないけど。


「あの公園ですよ、この前の」

「…ああ、あそこか」

「そう、あそこです」


同意して、私たちは歩き始めた。

ぽかぽか陽気は気持ち良い。

お喋りしている時はあっという間に過ぎて、

一人で歩くより早く着いた気がした。


「ぶらんこぶらんこ〜」

「やっぱりそこに行くのか?」

「うん!」


またもや当然ぶった口振りで答えた。

やっぱり、これも私の常識かな?

そのうちすぐ、二人の常識にしてやる。

「あそこ」って言うだけで全て通じちゃうような。


「いい天気の日だとね、一人でも前からよく来てたんだ」

「そうか。でも、一人でブランコ乗ってるのって…なんか…」

「うん。友達居ないっぽいよね」


けろっと答えて、私はぶらんこに飛び乗った。

磨り減っている古臭い木の座席に座った。

そして大きく漕ぎはじめる。


「こら、スカートであんまり…」

「ダイジョウブっ!スパッツ着用だもんね」

「そういう問題か…?」


苦笑しながら、シュウは横に座った。

子供用のブランコは、非常に低い。

シュウは足を持て余しているようだった。

私は、地面に当たらぬよう足を極端に曲げながら漕いだ。


こうやって、大きく漕いでいるうちには、

揺れはどんどん大きくなっていく。

上から下へ、下から上へ。

その時の勢いも、どんどん鋭くなっていく。

そして、極限時に自分が達する位置は、

どこまでも高くなっていく。


「こうやってね、高く漕ぐとね」

「ん?」

「前に上がった瞬間、空以外何も見えなくなるんだ!」


向かってくる風圧に負けないよう、大きな声で言った。


勢いを付けて、後ろへ高く。

地面にぶつかるかのように下り、

今度は、前へ高く―――…。



「――――」



その時、自分は飛んだ気分になる。

青い空の中、自分だけ。

白い雲と、自分だけ。


「シュウもやってごらんよ」

「いや、俺が勢い付けたら壊れそうだよ」

「えー、それはないでしょう!」


だけど結局シュウはやらなかった。

まあ、楽しくブランコ漕ぐ年でもないかね。

……私はなんなんだ?

まあいいや。


好きなのは、ブランコに乗っていること自体ではなく、

空に大きく開け放たれる瞬間だから。



だだっぴろい空の中、描かれるのは雲に紛れる私だけ。






















私はブランコ大好きっ子です。この年になって…。


2003/09/28