* 泊まってく? *












――平成××年5月6日 夕刻

二人で話していたらドアの開けられる音。



「ただいまー」


「あ、母さんが帰ってきた」

「うぇっ!?オカアサマっ!?」


思わず指がラブマークになって驚く私。

(まあ要するに、中指と薬指を曲げて残りを伸ばした状態)


「ご、ごごごごあついさじゃない、ご挨拶しなくてわ…っ!」

「そんな挙動不審にならなくても…」


わー。わー。

なんだかんだいってお会いすることになるのね!

緊張してきましたよ…うわー。


パニックした状態の中、時計が目に入った。


「あ…もしかしてそろそろ帰るべき時間?」

「そうかもな」

「それじゃあ、ご挨拶してそのまま帰宅します」


そう言って、私は立ち上がった。

荷物を拾い上げる。


「俺も一緒に行くよ」

「さいですか?」


どうしようもなく緊張してます。

心臓が口から出そうですよっ!


階段を下りる時、足が浮いてるみたいに感じられた。

でも踏み外さないように一歩一歩確認して下りた。


台所を覗く。居た。


「こんにちはー…」

「あら、こんにちは」


随分と怯えて小声だった私だけど…。


あら。

随分と優しそうなお母さま。

シュウは母似なのね、と思った。


「見覚えのない女の子の靴があるから誰かと思ってたのよ」

「どうも初めまして。ですっ」


深々と頭を下げた。

上から優しい声が聞こえる。


「秀一郎と同じクラスの子かしら?」

「はい!いつもお世話になってます」

「そうだったの」


……。

鬼婆みたいな人じゃなくて良かった。

心からそう思った。


「今日はどうもお邪魔しました。そろそろ帰りますので」

「あら、そうなの?どうせなら泊まっていけばいいのに」

「「!?」」


固まる私とシュウ。

そりゃあ…だって、ねぇ?

さっきまであんな話してたから余計か。


でも……泊まる、だなんてそんな恐れ多い!


「いえ、明日は学校もありますし帰ります」

「そう。残念だわ。今度是非また遊びに来てね」

「はい!」


私は心から笑顔を向けることが出来た。


しかし…そうか。

優しげな性格や顔だけでなく、

シュウの微天然なところも母譲りだったか…。

覚えておこう……。


とりあえず、私も大石家デビューは成功に終わったようです…多分。






















大石は母似だと思う。なんとなく。


2003/09/27