* 一言でいいよ *
――平成×△年4月30日 4:16
通話ボタンを押すと携帯を耳に宛てる私。
電波の届かぬ学校から出て、
私は携帯を弄り始める。
歩きながら、電話帳に登録された番号を選択。
鳴っている間は、少しの緊張。
起きてるかな、誰が出るかな、
どんな声を聞かせてくれるかな。
『…もしもし』
聞こえてきた声は、
間違いなく、
その人の声だった。
大きく息を吸う。
「シュウ、お誕生日おめでとうー!!」
欧州のこの地で、異国の言葉を叫ぶ我。
通話口に思い切り叫んだ声は、
貴方の耳にはどのように届いたでしょう。
「…驚いた?」
『ああ、その言葉自体より…声の大きさにな……』
圧倒されてるシュウの声。
あれ?やりすぎだったかな?
まあとりあえず、ドッキリは成功です。
「てか、もうすぐ終わりなんだけどね」
『そうだな。あと1時間もないな』
「こっちではあと8時間。あたしがシュウの分も祝っといてあげるよ」
『それは嬉しいな』
思ってたより自然に出来る会話。
よかった。
「本当はプレゼントとかもあげたいんだけど」
『いや』
否定の言葉が入った。
シュウは言う。
『祝ってくれたその一言だけで、嬉しかったよ』
………。
私に言わせれば、
貴方のその声だけで、幸せなんですけどね。
「じゃあ、平和に解決ってことだ」
『そうだな』
「それじゃあ、これからはあたしの年上として頑張ってくれ!」
『何言ってるんだ、一週間もないだろ』
「そっか」
あはは、と笑って。
なんともいえない感傷に浸って。
笑顔から溜息に似た吐息が零れた。
「それじゃあ、またね」
『ああ、またな』
ぴっ、と切られた電話。
まだ幸せな私は笑顔のまま歩いた。
だけど道行く人は、
涙を流している私を不思議な目で見た。
でも大丈夫。
これは嬉し涙だから。
貴方の声を、その一言を聞くだけで。
私は幸せなんです。
誕生日、許したってください。飽く迄もこれは大稲なんデス。
2003/09/26