* 飼い犬を噛む *












――平成××年7月19日 終業式当日

本当は忘れた方がいいのかもと思ったりしてる帰り道。



もうすぐお別れ。

それは、こっちも向こうもよく分かっている。


住む場所は、離れる。

だけど、私たちの関係の意味で、

別れるってことは、ないよね?


「シュウ」

「ん?」

「あたしは、シュウにとっては良い彼女でしたか?」


訊くと、向こうは曖昧な笑いをした。


「過去形、なのか?」

「いや、そういう意味でなくて!」


私は焦って否定した。

縋り付いていたいのかも知れない。

この関係に。


「今のところ、どうでした?英語で言うならHave I been a good girlfriend of yours so far?」

「うーん、そうだな」


最近猛烈に勉強してるお陰で英語が飛び出す。

しかし…考え込むんですか秀一郎サン。

と思ったら、向こうはにこっと笑った。


「良い彼女かどうかは分からないけど」

「なにぃ!」

「でも」


ぽん、と頭に手を乗せられた。


と一緒に居る時が一番楽しかった」

「―――」


見上げる。

視線が搗ち合う。


「そんな返事で満足、かな?」


にこりと笑うシュウ。

私もそれを返す。


「満足で御座います!I'm satisfied!」


まあ、ようするに良い彼女だったわけだな、私。

うん。よく頑張ったぞ!


なんて、これからも続くんだけどね。


忘れた方がいいのかもしれないけど、

それを言い出すのが怖いから。

そんなずるい私だけど、まだ良い彼女だと呼んでくれますか?


恩恵を与えたものに逆襲されることを、

飼い犬に手を噛まれると言うのなら、

恩恵を与えたことを理由に縋り付いている私は、

言わば飼い犬に噛み付いた飼い主、ってところかね。

それとも、ご主人様にべた惚れの忠犬かな?


分からないけど、離れるのは怖いから。

だから今日も咬み付きます。






















かみかみしたい。あぐあぐ。


2003/09/26