* ミルクの甘さ *












――平成××年6月9日 喫茶店

映画鑑賞の後はお茶で優雅な午後のひと時。



「シュウっていつもコーヒー飲むよね」


そんな私は、コーヒーと紅茶で訊かれると紅茶で答える派。

…本当の所はココアが一番好き。


「美味しいの?」

「不味いと思ったら飲まないよ、それは」

「だけど苦いじゃん」


シュウは、その苦味がいいんだよ、と言った。

……私にはそれが分からない。

なんだか自分が随分子供に感じられた。



「よし!今日はあたしもコーヒーに挑戦だ」

「えっ、がか?」

「おうよ。やると決めたらあたしはやるぜ」


そう言って、シュウと同じくコーヒーを頼んだ。

暫くして、テーブルにそれが運ばれてくる。


やはり、ここはやるからには本気で行くぜ。


「女は黙ってブラックコーヒー!」


違うだろ、とシュウに突っ込ませる暇も与えず、

私は半分ほどを一気飲みした。

しかし……。


「苦ぁっ!」

「無理するから…」

「ぐへ、砂糖だ砂糖だ!!」


糖分を求める私。

しかし…シュウが差し出してくるのはミルクだった。


「なにさ、これ」

「ココアが好きな人には、これが合うと思うな」

「そう……?」


言われて、私はミルクをコーヒーに注いだ。

液体は濃い茶色から斑なカルメ焼き色に変わった。

スプーンで掻き混ぜる。


「それじゃあ、頂きます…」

「どーぞ」


今度は落ち着いて、一口だけをそっと啜った。

ふわっと、微かだけど甘い香りが、口内に広がった。


「わ、これだけで全然違う…」

「だろ?」

「うん!」


嬉しくなってもう一口飲む私だったが、

今度はやっぱり苦く感じられた。

苦味に慣らされてた舌が、正常に戻ってしまったらしい。


「やっぱり砂糖かな」

「そうなるのか…」


そういって砂糖を二杯も三杯も入れる私だったけど。


あの時のミルクの甘さは、忘れられない味になりそう。





















ブラックコーヒーは飲めません、私。


2003/09/25