* 一つの飴玉を *












――平成××年6月10日 公園帰り

先ほどファーストキスを終えた私ですが。



「…思ったんだけどさ」


歩いている足を、ぴたっと止める。

シュウは一歩分遅れて、止まった。


「どうした?」

「あのさ、さっきファーストキスしちゃったけどさっ」


私が余りにストレートな言葉で言うもので、

シュウは少し照れた風に視線を逸らした。


「それが…何なんだ?」

「あたしね、思うんだけど」


そう。これは私の恋愛観。

向こうがどう思ってるかなんて、知らないけど。


「あれは一方的だったじゃん」

「……かもな」


シュウは先ほど自分が起こした行為を思い出したのか、軽く頬を染めた。

逸らした顔の正面に来るように、私は回り込んで言った。


「やっぱ、キスってのはせーのでやるもんでしょが!」

「せ、せーのかどうかは分からないけど…」

「いいからいいから、ね?もう一回!」


戸惑うシュウを、私は急かす。

シュウは辺りを見回して誰も居ないのを確認すると、咳払いをした。


「それじゃあ、行くぞ」

「アイアイサー」


私の両肩を掴むシュウ。

顔が近付いてくる。

私はそっと目を伏せた。


頭の中は色々なことが巡る。

やっぱりせーのは変だな、とか。

だって喋ってたら口が動いちゃうし。

それにやっぱり、動くのは両方同時ではなく向こうの方が…。



「……おりょ?」



余りに間が長いので、そっと目を開いてみた。

そこには…顔を赤くして固まってるシュウが。


「な、何事!?」

「ごめん、!でも…なんかこういうの…」


思わず釣られて赤くなる私。

うわ、なんか恥ずかしいぞ…!

向こうは向こうで照れてるしよぅ!


そうか。

シュウって改まるとダメなタイプね?

やると決めたら一気に勢いつけて勝負かけるタイプだ。

告白された時もそれっぽかったぞ…かなり唐突。

それとも…普段はかなりな奥手の癖に、

一度盛りがつくと止まらなくなるタイプか?


まあ、そんなこと今はどうでもいい。


「うーん、やっぱりせーのかな?」

「えっ…」


戸惑ってるシュウもお構い無しに。



「せーの!」



私は首の後ろに腕を回して、

少し背伸びをして。

向こうは少し屈んで、

背中に手を回して。


妙に焦ったように起こした行動だったけれど、

合わさった後の時間は、


ゆっくりと



長く。




「……ぷはぁ!」


口を離した。

結構長い時間合わさっていたようで、空気が美味しい。


「やっぱこうでなくっちゃ」

「そういうものなのか…?」


横で苦悩するシュウを他所に。

私はスキップのような足取りで歩き始めた。



合わさっている時間。

それはまるで二人で一つの飴玉を分け合っているかのように。


甘くて優しくて、幸せな瞬間だった。






















瞬間と書いてトキと読んでください。笑。


2003/09/22