* 価値観のずれ *












――平成××年7月16日 下校中

まだまだ明るい夏の空に、沈黙走る不平の地。



会話は少ない。

部活どうだった?とお互い質問を交わして。

へぇ、という納得の言葉で、

終了。


それ以来受け答えはない。



さすがに居辛くなって、私から口を開いた。


「…ねぇシュウ」

「ん?」


向こうがこっちを見てきたのは分かったけど、

私は空を見上げたまま、話す。


「今日…さ、あたしが引っ越すこと…クラスで発表されたじゃん」

「……ああ」

「どう思った?」


訊きながらそっちを向く。

搗ち合った目をシュウは逸らした。

だけどすぐにこっちに視線を戻して、訊き返してきた。


「どう思うって…どういう意味だ?」

「うんと、だからね」


無意識に人差し指を宙に浮かせながら、私は説明を始めた。


「昨日、あたしは事前にそのこと伝えておいた」

「……うん」

「それでさ、個人的に伝えられるのと、全体で話されて知るのと…どっちがいいかなって」


ちょっと分かりにくい説明だったかな?

と思ったけどシュウは分かってくれたようだった。

顎に手を当てて暫し唸ってたけど、

結論が出たようでこっちを向いた。


「敢えて言うなら…」

「言うなら?」


ふ、と微笑を零して。

シュウは言った。



「伝えられたくなかった、かな」



……何も言えなかった。


その時のシュウの表情は、

笑顔だったけどどこか寂しげで。

たまに見せる曖昧な笑み。


なんか、淋しいな。



「我儘だとは分かってるけどな。…ごめん、気にしなくていいぞ!」

「ん…」


沈んだ場を盛り立てようとしてくれてるシュウ。

普段の私なら、簡単に乗って明るくなるところだけど。


でもね、今日はそれが出来ないの。

だって、私も同じ気持ちだから。



出来ればさ、伝えなくていいように過ごしたかったな、なんて。


無理だってわかってるけど。

仕方ないのだけれど。

我儘だって分かってるけど。



これはきっと、価値観がずれても、一緒だね。






















考え方は違えど結論は同じ。


2003/09/21