* 料理は愛情で *












――平成××年5月3日 4時間目

家庭科の授業で女子は調理実習。



「クッキー食べたい人ー!」


なぎが声を張り上げると、数人の男子がそこに向かった。

男子が技術をやってる間は、女子が家庭科。

そして今日は調理実習だったというわけだ。


クラスの中では、女子が男子に作ったものを分けているシーンが多く見られる。

どさくさに紛れて告白するような人は居ないのかしら。


そんな私は、勿論本命にしか食べさせないのだけれど。



「シューウっ!」

「ん、なんだ?」


白々しい爽やかな笑顔で振り返るその姿。

私は軽く肘鉄を突いた。


「分かってるんでしょ?調理実習のクッキー!余ったからあげる」

「ありがとう。嬉しいよ」


…本当に爽やか。

目が眩しいですよ。

今時こんなセリフを真顔で吐ける中学生男子はそう居るか?


「食べてみて。自信作なんだっ」

「それじゃあ、頂きます」

「どーぞ」


礼儀正しく手を合わせてから一つ手に取るシュウ。

クッキー食べるのに手を合わせるなんてなんかヘン。面白いのっ。


「……どう?」


食べている間は、沈黙。

飲み込むと、シュウは笑った。


「うん、美味しいよ」

「ホント?良かったぁー」


胸を撫で下ろす。


「実は、砂糖と塩間違って入れちゃったんだよね」

「え、そうだったのか?てっきりそういう味なのかと…」

「まあ、美味しく感じたのならそれでよし!」


良かった良かった。

なんていうか、これは“愛”ですか?

隠し味に愛。料理の最高のスパイスは愛。

よく聞くフレーズじゃないですか。


「……

「う?」

「み、水…」

「ありゃりゃ?」


やっぱりしょっぱかったかな?

あはは。

でも、一度は美味しいと言って頂けたのでそれでよし。


「食べた瞬間は平気だったけど…時間が経ったら、突然しょっぱく……」


水呑場でげそっとするシュウ。

私は軽く背中を叩いて笑った。


「次は絶対間違えないから。楽しみにしててね!」


ちなみに隠し味は2倍にしましょう、なんちゃってね。



そして第二回調理実習。

アップルパイにシナモンと間違えてコショウを入れたのは、

クラスで私だけだったという。完。






















大石の命危うし。


2003/09/20