* 髪を切ったら *












――平成××年6月3日 登校中

前に愛しい人の背中を見つけて走りよる。



「シュウ、おはよっ」

「ああ、おは……っ!?」


振り返った貴方は、言葉の途中で固まる。


「やっほい」


瞬きを繰り返して固まっているその眼前で、私は笑顔を作る。

なんだよ、そこまで驚くことないのにね。


、髪っ?」

「うん。切った」


けろっとした態度で答える私。

向こうはまるで豆鉄砲を食った鳩。


まあ、確かにばっさりと切ったけどね。

シュウはそんなこと知らないだろうけど、

5年ぐらい同じ髪型で来てたもんな。

ちょびちょび揃えつつだけど、こんなに切ったのは久方ぶり。


「土曜日だから…一昨日?」

「…随分ばっさりといったな」

「トレードマークのポニーテールを消してさっぱりしてみた」


何度も私の顔を見直すシュウ。

なんだかちょっと心配になってきて、私は訊いた。


「ね、前の方が良かった?」


すると、向こうは軽く微笑んで。



「両方好きだよ。だけどとりあえず、今が一番かな」



朝からよくこんな恥ずかしいセリフを爽やかに吐けるなこの人は!

と思ったけど、そのまま黙っていた。

言われた言葉が、純粋に嬉しかったから。


「これからは馬のシッポじゃなくてオカッパ娘と呼んでくれ」

「いや、元々そんな呼び方したことないぞ…」

「いーの」


髪は切ったけど、失恋なんてことは全くあらず。

寧ろ余計ラブラブです。センキュウ。


「シュウは髪、切らないの?結構楽しみにしてるんだけど」

「……何を期待してるんだ」


一風変わった私だけれど、

今まで通り宜しくね。




















切った後2日間ぐらい廊下を歩くのが怖かった…マジで。


2003/09/20