* 昨日に戻って *












――平成××年7月26日 旅立ちの朝

昨日最後に見たシュウの顔を思い出す。



パーティーを終えた帰り道。

繋がれていた手が、最後に離れた時。


出発の時間を聞こうとする貴方に、私は一言。


『部活はないの?』


向こうは一瞬固まって。

それが解けたかと思うと、こう言う。


『部活はあるけど、でも…』


でも送りに行くよ。

言葉の続きはもう読めた。


聞く必要はナシ。


『いいよ、来なくて』

『え?』


不思議そうな顔で訊き返してくる貴方に、

もう一度笑顔で。



『今生の別れじゃないんだから、シュウはテニスの練習しててよ』




あの時。

どうしてその言葉を発してしまったのかが、今では不思議で。

後悔しているわけじゃない。

だけどどうしてあんなにもすんなりと口から出たのか、分からないだけ。


その言葉に対して、シュウは何かを言い返そうとしていたみたいだったけど。

それを飲み込むと、「じゃあここでお別れだな」と言った。


その瞬間は、ちょっとだけ後悔した。


だけど、遅かれ早かれ別れは来るんだから。

綺麗さっぱり終えることにした。



最後の挨拶の言葉。


また明日。…違う。

またね。…いつ。

また……また?


考えたけど、良く分からない。


またって何。

次はいつなの。

分からないよ。



「…それじゃ、ね」

「ああ……」


にこりと笑って、私は。



 「バイバイ!」




その声は自分でも驚くほど明るくて。

でも口の端が思うより上がらなかったのと

視界が何かで霞んだのは覚えている。


背中を向けようと、したのに。


腕を掴まれて、抱き締められた。

涙が一筋だけ、流れた。


そのまま身を任せたい衝動に駆られる。

だけど私は体を離した。


「お別れ、だね」


向こうは無言のままで居た。

私は頬を拭いて、頑張って笑った。



「次帰ってくるときは、155になってる予定だから」



何のことかすぐに理解したシュウは、

にこっと微笑んだ。

曖昧な笑みであることは、確かだったけれど。




もしも昨日に戻れるとしたら、

私はもう一度シュウの顔を見たい。

あんな曖昧な笑いじゃなくて、

もっと心から笑って欲しかった。


それを言ったら、自分もそうなのかな。


考えてから、溜息を落とした。



、出発するわよ」

「はーい」


荷物を取って、もう一度辺りをぐるりと見回して。

暫く見納めになるであろうそこを目に焼き付けて。



大好きな貴方だから、

いつも通りに居て欲しい。


テニスをしている貴方が好きだったから、

テニスをやっていて欲しい。



だけどさ。

もしも昨日に戻れたらな、なんて。

やっぱり考えちゃうんだ。






















二つの想いが交差して擦れ違って矛盾する。(スペサン*ピノ様)


2003/09/18