* 1つだけの嘘 *












――平成××年4月30日 夕陽が赤い

くすぐったくてぎこちない空間を歩く。



何故かお互い無言だし。

そりゃあ喋るのもなんだか気まずいってものだ。

だからといって沈黙もなんだか居辛いし。

じゃあ話題はあるのかというとあんまりないわけで。


結局無言。

足音だけ。


視界は、真っ赤な夕陽と伸びる二本の影で、

なかなかゴージャスな印象を残していますが。



「…帰り道、こっちだっけ」

「うん、こっち」

「それじゃ、俺こっちだから」

「あ、分かった」


曲がり角へ来て漸く会話。

そしてお別れと致します。


と、その前に。


「さっきした約束、守ってよ」

「名前で呼ぶってことか?」

「それもそうだけど…学校では」

「ああ、秘密なのな」


向こうは微笑んだ。

なんて爽やかな笑顔なんだ…と倒れそうになる。

途端に閃いた。


「あ、でもさ」

「?」


なんでだろ。

さっきまではあんなに喋れなかったのに、

別れとなると突然話題が浮かんでくる。


別れが嫌なのかな。

それとも単に、緊張感から抜け出せたからかな。



「あたしたち二人の間に、秘密はなしね」

「…了解」


「嘘もなしね。あたしも絶対吐かないからっ」

「ああ、分かった」


もしかしたら、この時点で既に約束破りだったかな、

と思うと苦笑してしまう。



それでも、私たち二人の間はいつも真実を通していたいと思ったの。






















「おれって嘘吐いたこと一回もないんだぜ!」←絶対これが嘘なんです。


2003/09/18