* 雲が晴れてた *












――平成××年6月12日 外は夕立

学校帰りに公園で遊んでいたらずぶ濡れになった私。



「ほぁー!いい湯じゃった」


頭をタオルで拭きながら、私はお風呂から出た。

といっても、実際はシャワーを浴びただけなのだけれど。


ハーフパンツにTシャツという簡単な格好で。

全身に湯気を立たせながら、冷蔵庫を開けた。


さて牛乳は〜っと、とか鼻歌を歌っていると、

そこに立っていたのは真面目な顔をしたお母さん。


…」

「ん、何?そんな思いつめた顔しちゃって。お父さんがリストラにでもあった?」


なんて気楽に言っちゃったけど、

本当にそうだったらどうしよ、と冷汗を掻き掛けたとき。


「まあ、それよりはマシかもしれないけど…」


……どういうことですか。

つまり、それと同じ程度の衝撃が私に降りかかるわけですか?


「ね、何があったの…!?」


手に取りかけた牛乳を元に戻して、私は声を張り上げた。

お母さんは、視線を逸らして事実を述べた。


私は、その言葉を受け止めることが出来なかった。




『転勤が決まったんだよ』



『海外に』





―――――……。





「ウソ、だ…」

「本当よ」



ウソだ。

嘘だ。


嘘だといって。



「家族全員…引っ越す、んだよね?」

「それはこれから話し合うよ」

「ん。分かった」


開きっ放しだった冷蔵庫を閉めて。

空のグラスをそのままテーブルに置いて。

静かに階段を上った。

自室に来て、ベッドにボスンと飛び込んで。


そこで初めて涙が出た。



「うっそだぁーん……」



誰かが言ってた言葉を物真似して。

そんな余裕が自分にあったのかなんて苦笑して。


まだはっきりとはしてないけど。

これから色々と決めていくみたいだけれど。



「もしかして………サヨナラ?」



ゴロンと反転させた体の向こう。

窓から見える空は、既に青かった。


雲は、もう晴れてたことを知った。




















アイロニー。ここで事態が一変する。


2003/09/17