* 雨音を聞こう *












――平成××年6月12日 空は青

遠くに黒い雲が見えるけど、大丈夫かしら。



「シュウー」

「ん?」

「なんか一雨来そうな気がしない?」


私の言葉に、シュウも空を見上げた。

青い空の向こうに見える、黒くて厚い雲。

低い位置にあるそれは、なんだかどんより。


「そうだな。これは夕立が来るかもな」

「じゃ、そろそろ帰った方がいいかもね」


言いつつ、どちらも動く気配なし。

正直帰る気もあまりない。


「夕立雲って動くの速いよね。サッときてサッと去ってく」

「…シャレか?」

「違う」


ひとたびの疑問を解決したシュウは、空を見上げた。

そして、もう一度こっちを見ながら、訊いてくる。


「雲の種類と仕組み、この前理科で習ったよな。覚えてるか?」

「モチのロンよ!理数系なめないでくれる?」


考えること30秒。


「…分かんない」

「理数系なんじゃないのか?」

「授業聞いてないんだから分かるわけもない!」


余りに堂々と言い切る私に、シュウは首をうな垂れて。


「全く、お前ってヤツは…」

「えへへっ」


苦笑いにも取れる微笑に、私は満面の笑み。

向こうも、優しく笑った。


その時。



「……ありゃ?」

「あ」


ほぼ同時に呟き。


「今……来た、よね?」

「ああ。来たな」


ついに来襲。


「い、いつの間に雨雲くんが真上にぃ!」

「言ってないで、行くぞ!」

「うひゃぁわわ」


どんどん増えてく雨粒の数。

それは数え切れないほど増えて増えて今じゃ無数。

全身を濡らす雨は冷たい。


だけどなんだか面白い。


一生懸命走るシュウ。

後ろ姿を見ると、なんだか笑ってしまう。


「……ははっ!」

「なにやってんだ、

「いや、なんか必死さが面白い」

「…何言ってんだ、お前」


私の笑い声で、私たちは走るのを止めた。


「あーあ。全くびしょ濡れだよ」

「本当に速いな、雨雲って」

「うん」


もう既にずぶ濡れの私たちは、諦めてゆっくりと歩き出した。



「ま、すぐに晴れるってことさね」



きっと、そのうちすぐに空が見えてくる。

さっきみたいな、青い空。


いや、それよりも、もっと澄んだ――。



「それじゃあ、風邪ひかないように早く乾かせよ」

「うん。そっちこそ」

「じゃあな」

「バイバイ」


曲がり角に来て、極自然に別れた。

そしてその瞬間、私は傘を持っていたことに気付いた。

でも面倒くさいから、濡れて帰ることにした。


「あめ あめ ふれ ふれ かあさんがぁ〜」


歌いながら、それと同時に雨音を聞きながら。

夕立の中を一人で歩いた。






















ジャノメの意味を今知った。蛇の目傘のことだったのね。


2003/09/17