* 繋がる手と手 *
――平成××年5月28日 天候:曇
気温は高くもなく低くもなく。
微妙な距離を保って歩かれると、なんだか息苦しい。
だからといって無理に離れるのも変だし、
ぴったりと付かれるのはもっと苦しい。
無言の帰り道。
家に向かっていないことぐらい、お互い承知。
了承も取らずに公園に着くと、暗黙でブランコへ。
貴方はゆっくりと腰掛けて。
私はわざと反対向きになるように座って。
一ヶ月前のことを思い出す。
呼び出したのは私で、先に声を出したのは貴方で。
今回は、どっちが先だったかな?
『今日の帰り…』
『あそこね』
どっちが先になるのかな。
そういえば、今日交わした会話は、あれだけだったなと気付く。
昨日のことが響いてる。
それはお互い承知のはず。
先に口を開いたのは貴方。
「あの、…」
「ん、」
声色から戸惑っている貴方が窺える。
あたしはブランコを後ろに引いて、
笑顔を向かわせて、言った。
「そんなに心配しないでよ、昨日のはあたしが悪かった」
微笑む私に対して、向こうは強張った顔で。
足を地面から離した。
ブランコが揺れ始める。
「でも、いっこだけ言わせて?」
「………」
何も言ってこない貴方に。
向かってくる風に負けないように、言った。
「あんまり、無理、しないでね?」
行って、返って。
進んで、戻って。
前後運動を繰り返すブランコ。
後ろへ来るたびに、見える貴方の顔。
ね?と小さく問い掛けた。
貴方は漸く、微笑を浮かべた。
「それだけ。はい!喧嘩終わりっ!!」
足で無理矢理速度を落として、飛び降りた。
くるりと振り返ると、貴方も立ち上がるところだった。
「…帰ろうか」
「うん!」
先に歩き始める貴方を、私は追う。
すると、貴方は一瞬振り返って――。
「……ほぇ?」
突然引かれた、左手。
それが温かくて、温かくて。
ああ。
貴方は手と同じように、心も温かいのかなと。
貴方は手と同じように、顔も今赤いのかなと。
考えながら、引かれるがままに歩いた。
斜め後ろから。
顔は合わせることはなく。
それでも歩き続けた。
初めて手を繋いだ日の設定で。(スペシャルサンクス*日野レン様)
2003/09/17