* 宝物は一方通行 *












「あ」
「ん、どうした?」

放課後。
雑談しながら二人でテニスコートへやってきたとき。

突然小走りになった桜井は、何かを見つけた。


「小鳥が……死んでる」


しゃがんだ足元には、動かなくなった小さな鳥が。
また今すぐにでも飛び立ちそうな、温かい姿のまま。
だけど動かない。

「どうしたんだろ…ここに当たったのかな」
「かもな」

斜め上を見上げるそこには、体育倉庫の窓。
あまり掃除されていなく、お世辞にも綺麗とは言えないそれだったが。
それでも、きっと鳥は気付かず飛び込もうとしてしまったのだ。

「どうしよう…このままここに置いておくわけにはいかないよな」
「…どこか、埋めてやるか?」
「そうしようぜ」

言ってから少し戸惑って、桜井は鳥にそっと手を伸ばした。
そして、持ち上げる。

「すっげ…鳥って、軽……」
「空を飛べるんだからな」

思わず洩らしていた感嘆の声に、相槌を打つ。
だけど、両手で小さなものを包む背中は、
どこか淋しそうに見えた。

「…行こうぜ」

桜井も立ち上がって、俺達は学校の裏へ向かった。



歩きながら、桜井は言う。

「学校の裏ってよ、他にも今まで学校で飼ってた動物とか埋まってんだぜ」

笑顔でそう言っていた。
だけど、いつもと表情が違った。

「…大丈夫だよ」
「何がだよ。オレ別にビビってねーぞ」

口を尖らせてそう言う。
俺は笑顔を返した。


大丈夫だよ。

埋めてやれば、

きっと心は安らかだから。



「じゃ、この辺で良いよな」

適当な場所を決めて、桜井は立ち止まった。
俺は借りてきたシャベルで地面を掘る。

深く掘った穴に、桜井がそっと小鳥を下ろした。
そして土を被せる。
なんだか、複雑な気持ちだ。

「…よし。これでいいだろ」

立ち上がって後ろを見た。
桜井が呆然と掘り返して色の変わった地面を見てた。

名前を、呼んでやりたくなった。
だけど出来なかった。

大切なものほど、触れてしまうと壊れてしまいそうで怖い。


小鳥を救い上げたときの崩れそうなあの横顔。
震えているようにさえ見えた寂しそうな背中。

守ってやりたいと、思うときがある。


俺は桜井のことが、好き、なんだ。



思っていると、桜井は言った。

「お前ってさ、動物愛護精神に富んでるよな!」
「……え?」

無理に作ったように見える笑顔から出てくるその言葉。
俺はとりあえず黙って聴くしかない。

「前に大会前にタクシーで事故ったときもさ、轢いた猫のこと気にしてたし」
「………」
「あの時は、この大事な時に猫のことなんて…とか思ったけどよ」

笑った。


「オレ、お前のそう言うところ結構、好きだぜ」

「―――」



一瞬戸惑って、後に思わず苦笑を零したけど。

俺は笑顔を返した。


「さ、早く部活行くぞ」
「おうよ」

くるりと方向を転換した。
後ろから着いてくる桜井。


好き。
口から出てきたその言葉。

俺が心の中で浮かべたそれと、同じ。
だけど、きっと二人が持つ意味は違うから。


これぐらいの距離が、丁度いい。
一方通行でいいから。

これ以上近付かずに、でも離れずにいたいと。


そう思った。






















片想い風味なのは譲れないながらも、
桜井君をべた褒めできるから、という理由で石田視点の石桜を気に入った我。(爆)
わーい。ほのぼの片想い万歳!

実話交じり。
窓に当たって小鳥さんが死んでました。悲しい;
安らかに眠ってくださいネ。

そんなわけで石桜真ん中BD記念でした。


2003/09/15