* piece of peculiar liar *












「ハァ…ハァ…ハァ……」






また…ダメだった……。






…抜くぞ?」

「んっ」



私の体の中から、秀のモノが抜かれた。

ゴポリと音を立てて、白い液体がどろりと流れ出す。


額に腕を翳した。

息がまだ少し切れている所為で、肩が上下する。



「……どうだった?」


「だめ、全然…」

「そうか……」




秀は、世間体でいう“早漏”に部類されてしまうのだろうか。


いや…本当は秀は全く悪くない。

悪いのは私だけ…。

私があまりに遅すぎる…ううん、それすらやってこない。




私は、秀とのセックスでイったことがない。




私だって人並みに、オナニーしたりだってする。

手を当てれば落ち着くし、強く刺激すれば興奮する。

頭の中では、一人のことを考えて。

秀を想って。


そのまま私は、最後まで達する。

いつでもそこには秀が居る。


なのに。


実際向かい合うと、駄目になる。

クリトリスを刺激されてるときなんか、
それはもう、意識が飛ぶぐらい気持ちよくて。

少し恥ずかしいけど、舌で弄られるのも好き。

そのときは幸せの絶頂で、何度もイっちゃう。



なのに――。



「秀、もう一回」

「大丈夫なのか…体は?」


「大丈夫」



真っ直ぐ見据えると、秀は動いた。

少し気だるそうに、幸せの余韻を残しながら。



「それじゃあ…入れるよ?」

「うん…きて」


そうして、ゆっくりと挿入される。


「ふっ……あ、ぁ…」


先ほど既に一度入れていたせいか、
痛みはそれほどになかった。

その代わりに快感も全く無かった。


圧迫感に身を捩じらす。

そこに確かにあるのだと、感じさせられる。



幸せ。


幸せなはずなのに。




なのにどうして?




「……しゅ、う…」




私の目から流れた涙は、
痛みからのものでも快感からのものでもなくて。


空虚感を埋めるため。


虚しいと言えば、それだけのこと。

それでも私は落涙するしかない。




貴方と一緒に堕ちていきたい。






「……あっ」

「………」

、ごめ…」



謝られても困る。

私は首を横に振る。


快感に溺れた貴方は、切なそうに眉間に皺を寄せて。

聞こえる息遣いは荒く、苦しみさえも感じそうになる。



繋がっている部分はどこまでも熱い。



…」



呼ばれた名前に、間を置いてから答えた。




「いいよ…我慢しないで」

「……ゴメンっ」



再び、体内に熱いものが注がれる感触。

こんなの慣れたものだ。



抜かれたときのやるせない気持ちにも、もう慣れた。



「ごめん…また……」

「ううん。大丈夫」



謝らないでよ。

悪いのは全部私。

貴方は悪くない。


悪いのは、元々全部私なんだから――。



「絶対に、俺が治してやるからな」

「うん…ありがと」


抱き合った体はお互い熱くて、
先ほどまでの行為を思わせるものだった。


それとは逆に、キスは触れ合うだけの軽いものだった。





幸せ、だけど、やっぱり淋しい。










休日の暮れはあんなだったりする私たちだけど。

平日昼間となれば自他認めるラブラブカップルである。




テニス部の朝練を終えた秀を、私が迎えに行く。
二人揃って校舎へと足を運ぶ。


少し遠回りをして、私たちは12組側の階段を上って3階へ向かう。
その分、多く話せるし。
6組で私が鞄を下ろして、そのまま二人で2組に向かう…
というのが流れになっている。


しかし。

たまにはハプニングというものもある。


「げっ!秀、ヤバイ!宿題忘れた!」

鞄を開けた私はそんなことに気付いた。
普段なら置き勉している数学の教科書とノート。
ご丁寧に鞄を開けて一番上に出てきた。

「今日、日直の居る列じゃないか。当たるぞ」
「うわぁ、まずぅ!!」

黒板をちらりと見た秀がそう言った。
毎日通っている所為で、秀は結構うちのクラス事情を理解しているらしい。


くるりと振り返って、ずいを顔を近付けた。
驚いたように秀は少し顔を退ける。

私は手を合わせた。


「お願い!見せて!この通ーりっっ!」
「それじゃあの力にならないだろ」


負けない。


「本当に頼むって!お願いお願い!ジャムパンアンパンメロンパン〜!!」


何でも奢るから、と必死で頼んだ結果、秀は鞄を下ろした。
そして溜息混じりに「何ページ目だ」と訊いてきた。(やったv)


遠くで不二君と英二が「またやってるよあの二人」「だね」
なんて言ってたことは勿論気付いてない。


「えっとね…69ページの問5と6」
「あ、うちのクラスはまだ67ページまでしか進んでないよ」
「えぇ!?遅い〜!!」
「俺に言われても困るよ…」


ギャーギャーとやり取りすること約5分。
こんなことをしている暇があったらやったほうがいい、
という結論に達して私は諦めて椅子に腰を下ろした。
秀はそのまま2組に向けて消えた。


…ちぇっ。
折角一緒に居られる貴重な時間だったのにな。


「今日もお楽しみのようだったね、
「不二君!」
「ホントホント、見てるこっちがあっちっち〜、だよ」
「何よ英二、その言い方!」

クラスの中でも、私たち3人は仲が良い。
秀が2人と同じテニス部だから結び付いた、ってこともあって。
比較的一緒に居ることが多い。


女子に人気がある2人。

苛めやそんなものはないか…というと大丈夫。
クラスのみんなはそんな人たちじゃないし。
(寧ろ、「今日のお昼不二君たちと一緒に食べたいから誘ってぇ〜」とか使われる。)
一度別のクラスと思われる女子に上履きに画鋲入れられたけど。
(なんとか犯人を突き止めて、お返しに机の中にヤモリを入れてやったわ。
 そうしたら向こうから謝ってきた。やりすぎたかな…。)


とりあえず、そんな感じで上手くやってます。この二人とは。


「ところでさ」
「?」

英二が私の耳に口を寄せた。

「今日の朝練さ、大石疲れ気味だったけど、昨日なんかあった?」
「!」


私はばっと体を話す。
自分の顔がかっと赤くなるのを感じた。

「何もないない!」
「えー、大石ってば休日の翌日は必ず疲れた顔してるけど」

ニヤニヤと英二が言ってくる。


「ホントに何にもないんだって!」


私は全力で否定。

すると不二君。


「本当に?僕大石本人から聞いたんだけど」
「うげっ!?秀のバカ!!」

何やってんの秀!?
確かにあの人…騙されやすいし。
さては鎌かけられて見事に引っ掛かったな!?

にこりと笑う不二君。


「やっぱり本当だった」
「え……ぁ」
「やりぃ不二!」


飛び上がる英二を見て私は漸く悟った。

もしかして……。


「私、鎌かけられてた?」
「うん。ばっちりね」


こんなに上手く引っ掛かってくれると嬉しいよ、だって。
……笑い事じゃないよ!


「何それ!私ってば凄い恥ずかしい人じゃん!イヤー!!」
「にゃはは、後で大石もからかいに行ってやろ」
「やめて、私が話しちゃったことがバレる!」
「いや、みんな感づいてると思うけど」

こんなに大声で騒いでる時点でクラス全員に広まってる感じがするけど。
(多分平気だとは思うけど…多分)

また英二が顔を近づけて言ってくる。


「どう、大石インポじゃなかった?」
「え、イン……って何言ってんの英二!」
って面白ぇー」


カラカラと笑う英二。
何よ。馬鹿にして…。


まあさ、中学生男子といえばそのような話に一番興味がある時期かもしれないけどさ、
こっちだって遊びでそのような行為に陥っているわけではないわけで。


そうだよ。いつだって真剣なんだ。

英二が考えてるほど、簡単なものじゃないんだ…。



「それじゃあさ、
「…ゴメン英二。この話は終わりね」
「え、にゃんだよそれー」
「英二」


文句を言って続けたがる英二の肩に、不二君が手を乗せた。

アリガト。


鋭いけど心配しているような眼でこっちを見てきたので、
軽く微笑みを返した。
眉はなんとなく下がっていたけれど。






幸せになりたい。









金曜日。

特になんの変化もないまま、一週間が過ぎ去ろうとしていた。
また、週末がやってくる。



日曜の夕方、秀はうちにやってくる。
私の両親は共に日曜日に仕事があるもんだから、家にはいない。

そこでまた、行為に溺れる。

そんなことが毎週起こるようになって、どれくらい経っただろう。
だけど、何も変わらない。



「何?」


こんな会話だって、いつもと変わりのないものだと思っていた。

だけど。


「今日の放課後、残ってくれない?」
「分かった」

呼び出しなんて、珍しいの。

あんな話やこんな話だって、
耳打で小声ならいいと思って教室のど真ん中だろうがところ構わずする英二が。


…なんでしょ。

ま、いっか。






「秀ー!」

3年2組の教室へ行って廊下から手を振る。
入っていいぞ、というサインを受けて私は半ばスキップのように机へ向かう。
こんなの慣れたもので、周りの人たちも何も言ってこない。
(初めは冷やかしもあったものだが、今じゃ日常化しているためそれもない。恐るべし、習慣。)


「何してるの?」
「テニス部のスケジュールの組み立てだよ」
「へぇ…大変だね」
「まあ、大したことはないさ」


一週間ごとに割り当てられたカレンダーにペンを走らせる秀。
私は机の横にしゃがんでその横顔を見た。

真剣な横顔が、好き。

にへら、と表情が崩れるのを感じた。
何だかんだいっても、私は秀のこと好きなんだもん。
なんたってカッコいいし。全部好きー。

真正面の真剣な表情は、毎週末に見れてますけどね。なんつって。
笑えないか。



「あ、そういえば今日の放課後、3年6組で何かやるのか?」
「え…何もないと思ったけど。なんで?」

何もない…よね?
忘れてたんだったらどうしよ。
何かあったような…あ、英二に呼び出されたんだ。
でもクラス全体でなんてそんな…。

「いや、さっき英二と不二が来てさ。今日の放課後は教室に残らないといけないから
 部活には多分来れない、ってさ」
「ふーん。追試ってことはないよね。英二はともかく不二君が」
「だよな」


なんて、微妙に失礼な会話も交わしてみたりして。



そんなうちに休み時間は終わった。
私は教室に帰る。

友達に今日の放課後何かあるか聞いてみたけど、
何も知らないといった。




英二と不二君と私だけ?

なんだろ…。

何かどっきりかもしれない…それだ!
用心することにしよう。







そんなわけで放課後。
掃除も終わって日直も帰った。
他のクラスもそれは同じなようで、
廊下は薄暗く、明かりが灯っているのはうちの教室だけ。

「…で、なんで呼び出したの?」

椅子に座る私は足をぶらぶらと揺する。

英二は机の上。
不二君は窓際に寄り掛かってる。

訊いても、二人は返事をしない。


「ねぇってば」


声を張り上げると、不二君が歩み寄ってきた。
何だろ…この目。

「君と大石のことは…全部聞いたよ」
「?」
「この前はあんな話したけど…何か問題があるんでしょ?」


問題。

心当たりは、大有り。


「なに、また鎌かけようったって…」
「いんや、これは大石から聞いた。本当だよ」


多分、嘘じゃない。
理由や根拠はないけれど、そんな感じがする。


「だから…何よ。私は別に、それだって…」
「まだ強がるの?」


不二君が私の机に手を置いた。




「本当は、物足りてないんじゃない?」




言葉に詰まった。

だって、そうなんだもん。


図星。だから言い返せない。

何だかんだいって、私はあの行為に満足しきれて、ナイ。


「もしそうだったら…なんなの?」

「…僕たちが、それを直してあげようかって」


「……え?」



意味が分からなかった。

無意識に体を守るように手が動いた。


不二君が、私の顎を持ち上げた。

覗き込まれる。



「綺麗な眼。本当に、大石が羨ましいよ…」

「ちょっと…待って……」


持ち上げられた顎は喋り難い。
息が詰まりそうな言葉。

英二が机から滑り降りて地に立った。


「もう待たない」


何だろ、この目。


普段穏やかな不二君の目は釣り上がっていて。
いつもなら元気に笑っている英二の目が冷たくて。



「どういうこ……んっ!」

「気付かなかったの」


突然塞がれた唇。
離すと、不二君は言う。



「僕たち二人とも、ずっと君のことを見てたんだよ」



……嘘だ。

本当だって言われても信じない。


だって、私たちずっと仲の良い友達で。
でもそれは友情で、愛なんていう感情はどこにも持ち合わせていないと思ってた。



 そう思っていたのは私だけだとしたら―――?




「やだ……不二君、エイジ…っ!」

「スキ。、大好き」



言葉も聞かずに押しかけてくる。

それはまるで捕らえた獲物を貪る獣のよう。



狂ってる。

この人たち狂ってる。




「いやぁぁぁぁっ!!」




力じゃ勿論抵抗できない。
一人でも無理なのに二人で押さえつけてくる。



脳内も掻き混ぜるような舌も絡まるキス。

脊髄の奥まで侵されるような甘ったるい愛撫。


全身が熱い。




「こんな、こ、と…したく……な…」
「大石とはしてるくせに」

「だって、それ、は……やぁぅっ!」



ビクビク震える身体。

打ち上げられた魚をも思わせる。



溢れる涙は全身を濡らす。

濡れた身体は熱を求める。




「いや、は……ぁんっ」


「何だかんだいって感度上々じゃん。さすがだね」

「大石もやり手だったってわけだ」


くすくすと笑う二人にも、言い返す余裕がない。




狂ってる私。

私、狂ってる。


もっと狂わせて。




「ねぇ不二、下はオレが先で良い?」

「いいよ。それじゃあ上は僕が貰おうかな」

「そっちもなかなかいいね」



話の意味が分からない。

狂ってるから分からない。

私は狂人なんです。



…すぐに分かることになった。




「…ぁ、あああぁっ!」


「やっぱり、慣らさないとキツイ、かな…」

「やり過ぎると逆効果だよ、英二」




痛い。


突然訪れた鈍痛。




いたい。


壊されそうになる激痛。






イタイ。




狂わされる鋭い苦痛。








「やめ、ヤメテ……いたっ、痛い!!」

「大丈夫、直ぐに良くなる」


「ちょっと英二、血が出てるよ。服に付かないようにしてあげてよ」

「分かってるって」



余分なところで気遣い。

一度抜かれて、服は全て取り払われて全裸。

タオルの上に四つん這いにされる。


今度は後ろから、差し込まれた。



「あああぁ!あっっ!」


「ほら不二、折角こっち向きにしてやったんだから」

「そうだね」



泣き叫ぶ私のことなんてお構いなし。

腰は動かしたいように動かされる。


その度に蠢く痛み。

見え隠れする感覚。




開かない目。

痛みと共に押し寄せる何かに瞑られた目。


だけど何か熱いものに、薄目を開いた。



焦点が合わないほど近くにあった熱いもの。

鼻を突く生臭い匂い。





「できる、よね?」




その先には笑顔の人がいた。





「あ……は、はぅ…うぐっ」

「歯は立てないでよ」



後ろから犯されて、前からも犯される。

咥えこんだ熱いものに噛み付かないようにするので必死だった。



「ほら、もっと舌も使って…」

「ん、んん……っ!」


「不二ってケッコー鬼畜気質〜」

「なに。英二だって慣らさないまま入れたくせに」

「だって我慢できなくってサ」




手が震える。

腕が崩れ落ちそう。


腰はとうの昔に砕けた。もう立っちゃいない。

完全に体重を預ける。

揺すぶられる。



狂っていく。




「…もう、出すよ」

「んぐっ!」



喉の奥に注がれた汚物。

…嫌だ。変な味がする。

噎せ込みそうになったけど、髪を引っ張って顔を持ち上げられた。




「全部飲んでよ」

「っく、……ぅぐっ」



飲み干した。

…嫌な味。


だけど、そっちに集中している間も、ほとんど無い。




「こっち、もっと動いていいかな?」

「ふっ、あ、あぁ……」


「歯立てたら痛いと思って緩めにしといてやったんだぞ。感謝しろよー不二」

「ありがと、英二。僕の時もそうするからね」




冗談じゃない。

まだ続くの、これは?


もう限界。





完全に狂うまでのタイムリミットまで、後一歩。








「……やぁっ!」

「なに、ここがいいの?」

「や、あん、あ……英、二………!」

「気持ちイイ?



返事は一つ。





「キモチ…イイ……っ!」










――二人の考えた作戦。


それは、私を無理矢理犯すこと。

他に何も考えられないぐらい滅茶苦茶に汚すこと。



狂わすこと。






「エイジ、も、駄…目……」


、オレも…っ」




「ぁ、やぁぁぁっ!!!」








一線を超えた。






微かな理性も消えた。

意識なんてバラバラに飛び散った。


正気じゃなくなった。














それからの私は、ただひたすらに泣き叫ぶだけで。

代わる代わるに差し込まれて、乱されて。


何度も絶頂に達した。



幸せを感じる余裕も無いくらいの快感の波が、全身を凌駕した。








溢れる涙は、快感からのものか、痛みからのものか。


少なくとも空虚感は、そこには無かった。
















『ピンポーン』

「……はい」


日曜の夕方。
この時間に来る人は、決まっている。
毎週同じだもの。

「……上がって」
「お邪魔します」

扉を開けると顔も確認せずに背中を向けた。
後ろから付いてくる足音だけを、確かめて。

少しおかしい私の様子に、秀は直ぐ気付いたようだった。

…今日なんかおかしいけど、何かあった?」
「え?いや、まあ…なんといいますか」
「無理するなよ。なんだったら今日は…」
「いや、大丈夫大丈夫」

笑顔を返した。
向こうは心配そうだったけれど。


確かに私はいつもとは違う。
でも元気だよ。



「ねぇ、秀」
「…どうした?」
「一つ提案があるんだけど」


言葉を聞いた秀は、固まっていた。







 『SM、興味ない?』








いつもと同じ時に行われる行為。
だけど、やっぱりいつもと違う。



「本当に…これでいいのか?」
「うん。どうせだったら足も縛り付けちゃってよ」
「そんな……」


ベッドの上。
下着だけの状態の私は、

目隠しをして手を後ろで縛られている。



、なんで突然…」
「いいから!私の不感症治してくれるんでしょ?」
「まあ、そうだけど…まさかこんなので…」

躊躇する秀。
元々優しくて人が良い性格だから、まあ仕方ないか。


でも、私だってたまには幸せが欲しい。




 「私のこと……狂わせて下サイ」





秀だって男だ。


その一言で、火が点いた。






いつも以上に激しく全身をたぶられて。


熱い。

燃えるように熱い。




少しは邪険に扱われたって構わない。





もっと私のことをアイシテ。







、指…入れるよ…」


「いらない」

「え?」




戸惑う貴方に私は一言。








「早く……秀のを、チョウダイ」









貴方の顔は見れないけれど。

どんな顔をしてるんだろ。


分からない。真っ暗。



いつもみたいな真剣な顔?

申し訳なさそうな顔?

切なそうに眉を潜めたあんな顔?




「……ふっ、う……あ、あんっ」

「本当に…大丈夫、か?」

「訊かないで…私、壊されても…いいから……」





プチン。



そんな音が、秀の頭の中ではしていたかもしれない。






激しくなる腰の動き。

這いずり回る痛み。


快感はまだ無い。


痛いだけ。痛いだけ。




だけど…シアワセ。






「あ、秀、ふぁ、あ……あっ!」






ビクン、と自分の身体が震えた。

そこからは、快楽のみの世界。




痛かった。

痛くて痛くて仕方が無かった。

意識が飛びそうになるのを、引き止めるのに必死なくらい。


それなのに、痛いのに…痛いから?




 キモチイイ ト カンジタ 。





「秀……あっ!あ、あんっ、ん!」

……っ!」





気付いたこと。






私は極端なMだったんだ。




M、即ちマゾ。

身体的・精神的な虐待・苦痛を受けることによって快感を得る異常性欲。






思えば、私の処女が奪われたのは、わずか7歳の時。


お母さんのお友達だよ、と知らない男に言われて、
車に乗せられどこか遠い場所へ。

その頃流行っていた誘拐だった。

暗くて狭くて湿った空気の部屋に連れてこられた私。
お母さんはどこ?と訊くとその男はニヤッと笑って。


強姦された。


意味が分からなかった。
自分が何をしているのか、されているのか。
そこの男が何を考えているのか。
ひたすらに痛いだけだった。
ビックリしたらおしっこの代わりに血を出しちゃった、
なんて思ったのを憶えている。

怖かった。
恐かった。


私は途中で意識を失ってしまったみたいだけれど、
目が覚めるとだぼだぼのワイシャツを着て、
初めに声を掛けられた公園に一人で居たんだ。
時間はもう夜中で、周りは真っ暗。
一人でわんわん鳴いていると、近所のおばさんが出てきた。
暫くしたら、懐中電灯を持った警察の人とお母さんとお父さんが走ってきた。



忘れられない苦い記憶。








きっと、それでだ。
私が今まで秀とセックスしたって、イクことが出来なかったのが。

辛い記憶が、それとも染み付いた恐怖が、
無意識のうちに快感に溺れることを制御していたんだ。


もしくは…

そうでしか、快感を感じられぬようにさせた?







「あっ!秀、やっぁ……っん!」



全身が強張ってきて。

一点に熱と力が集中して。

快楽に落ちかける、その直前。





「――…秀?」

「ごめん、やっぱり、俺には…」



動きが止まって、

身体を…離された。



「どう…して?どうして秀!?もうすぐ私…っ」

「俺にはこれ以上無理だ!」



珍しく声を張り上げる秀。


目隠しが取られた。

腕を拘束していたものも。



そうして気付いた。

私の秘奥から零れる大量の血液。


ビックリしたから出てきちゃった、なんてね。

冗談言ってる場合じゃないか。




「ごめん。だけど、これ以上は出来ない…っ」

「どうして!?」

「こんな…繋がってるのに一方的みたいで、血も…沢山出てるし」


申し訳なさそうな秀の顔。

そして、気付いた。



秀は極端にSっ気がない男であった。




そういうことですか。



「だから、普通に…」
「イヤ」
……」

珍しく反発。
だって、こんなの酷いよ。


「だって、いっつも秀ばっかりいい思いしてるじゃん!
 そりゃあさ、こんな体の私が悪いんだけど…でもさ、
 今だって、折角…イキかけてた、のに。
 私だって秀と一緒に気持ちよくなりたかったのに……」


思いが爆発した。

止まらない。


「でも、俺はあんなことしたって…」
「秀のことはどうでもいいの!」



ヤダ。

バカ、私。

こんなこと言ったって、何の解決にもならないのに。

秀は私のこと思ってくれてるって、
痛いほどに分かってるのに……。


でも口からどんどん言葉が飛び出してくるよ!




「ねぇ、秀…」
「…なんだ」

言っていいの?
ってもう一人の自分が語りかけてる。

うん、もういいの。
もう一方がそう答えた。


「私、この前英二と不二君とヤっちゃった」

「!!」


不敵な笑みを浮かべてそう言ったつもり。
皮肉をありったけ込めて。

声が震えてたけど。



「秀、私の体に欠陥があること、二人に話したでしょ」
「あ…あれは……」
「隠さなくてもいいの。どうせ鎌でもかけられたんでしょ」

黙った。やっぱりね。
二人のやることなんて、どうせワンパターンなんだから。

引っ掛かっちゃう私たちは、似た者同士?


「二人がね、私の不感症治してくれたの」
「え……っ?」
「っていうかね、無理矢理ヤられたってのが本当なんだけど」


なんだろ、この気持ち。
喋りたくない言葉がどんどん出てくる。

こんなこと言ったって秀との仲が悪くなるだけ。
なのにどうして動くのこの口は。
黒い感情がドロドロ渦巻いてる。


止まらない。止まらない。



「何回もイっちゃった。気持ち良かったな…」
、お前…!」
「何よ。自分が怖くなって最後までやってくれなかったくせに」
「………っ」

…そんな顔しないでよ。
怒った風なのに、泣きそうみたいな。

私まで泣きたくなっちゃうじゃんよ。




「そんなに良かったんなら…二人とヤってればいいだろ」

「うん、そうする」


何言ってんの。


「じゃあ、別れるのか?」

「そうしよ」



やめなよ。




「どっちにしろ、私たち長く続かなかったよ」






ウソツキ。


















―――――……。















いつもより随分と早い時間。
身なりを整えると秀は家を出た。
「じゃあな」と一言だけ残して。


暫くぼーっとしていた私。

今更になって、事態の深刻さに気付いた。



「……秀」



別れたの、私たち?

別れたんだね、私たち。



もう元に戻れないの?

あんなに幸せだったのに。


モドリタイ。


ううん、どっちにしろ長く続かなかったんだ。

若気の至りってやつだ。



初めて付き合った人と結婚までいけるなんて思ってません。

初めて体を合わせた人、でもないしね。







「……バイバイ」









吐き捨てた言葉は、涙を呼んだ。








  **








一人きりの朝。

今日はテニス部は朝練はないはず。
なのに、誰も迎えに来なかった。


一人で歩く学校までの道は、
長く感じられた。






下駄箱。
靴を履き替えながら考える。

どうしよう。
秀のことだからきっともう教室に居る。
謝ろうか?
今すぐにだったら、まだ間に合うんじゃない?
これ以上、遅くなる前に……。


「おはよ、
「…不二君」
「何ぼーっと立ってるの。一緒に教室、行こう」
「え……あ、うん」


…やっぱり謝るなんて、無理かな。

そうだ、何より私は、
やっぱりあの放課後のことを忘れられない。

「どう、あの後体は大丈夫?」
「あ、全然平気です…」
「意識を失っちゃうからさ。僕たちもやりすぎたなって反省してるよ」

理性が飛ぶと性格まで変わっちゃってね、と不二君は笑う。
(結構まんまだったよ、なんて言ったら怒るかな)

しかし、廊下を歩きながら堂々とこんな話をしちゃうなんて。
恐るべし、不二君。
(内容が何に対してか分からないようにしているからいいけれど)
(小声で耳打ちするけどストレートな内容で言ってくる英二とどっちが危険かな)



「…で、大石とはその後どう?」
「ぁ、………」


黙り込んだ私を、不二君は不審と取ったらしい。


「…何かあったの?」
「ん…実は、ね。別れた」
「えっ……?」
「別れたんだ、私たち」

驚きのあまり目を大きく見開いてる不二君に繰り返し言う。

すると、向こうは笑った。

「じゃあ、僕が貰ってもいいのかな?」
「えっ?」


訊き返しても笑っている不二君。
聞き間違いではないらしい。

私は、頷いた。



「じゃあ、決まりだね」



なんか、放課後遊びに行く約束をしているみたいな軽い感じがした。
なーにやってんだろ。

でも、いいじゃん。
私が誰と付き合おうと、何をしようと、
私の勝手だもん。でしょ?






秀とは廊下でも一度も擦れ違わないまま。
私が向こうに行くことも向こうがこっちに来ることもなかった。
(クラスメイトで数人不審に思ってる人がいる。鋭い。)

そのまま一日が終えようとしていた。





「わー、雨だー」


放課後のHRが始まる少し前。
窓の外を見ていた英二がそう言った。

ぽつぽつと降り注いできた雨は、
一瞬にして大降りになり辺りを灰色の世界にした。

「これは部活中止だね」
「だにゃ〜…」

不二君と英二はそんな話をしてた。

すると、何かを閃いたらしく不二君が笑った。


「そうだ、英二。今日の放課後」
「………?」


なんとなく、予想はついた。









放課後。
私たちは再び3人だけで居る。

「もう、予想はついてるよね?」
「うん。ばっちり」

私は、不二君と付き合うって言ったのにね。
まあ、英二が先に言ってきてたら英二と付き合ってたかな?
どっちでも良かったんだ。

空虚感を埋めてくれれば。



「それじゃあ、いいよね?」
「うん……」


頷くと、制服のリボンが解かれていく。
身体中に、手を這わされる。


「……あっ」
「ここ、感じるんだよね?」


始めは、少し温和な愛撫。



だけど、すぐに激しさが牙を剥く。




「……いやぁぁっ!」




下着も取られ、敏感な部分を舐められる。

間もなく、指も差し込まれていく。



「お、一気に3本とも飲み込んじゃったじゃん。やっぱ慣らす必要ない?」
「日頃の行為で慣らされちゃったんじゃない」
「かもね」


くすくすと笑う二人。
羞恥心で一杯になる。

だけどそんな精神的苦痛もまた、私にとっては快感なのかもしれない。


「逆に緩すぎるんじゃない?後ろ使ってみる?」
「それいいかも」

「やだ、そっちは止め……やぁっ!!」


初めて差し込まれた不快感。
不快感……だけど、何故か満足してる自分が居る。



「あっ、やめ、あぁぁっ!」

「なんだかんだいって感じてるじゃない」
「さっさとホンモノ入れちゃう?」


指だけで随分な圧迫感。
今までは味わったことの無い感触。


気持ち悪い、のに

キモチイイ………。



矛盾してるけど、素直な感情。





「どう、

「エイ、ジ…不二…クン……っ!」

「凄いヌルヌルだよ。両方とも。そんなに気持ち良い?」




首を横に振ることが出来ない。

だって、気持ち良いから。



でも、何かが間違ってる気が、してしまった。






空虚感は埋まった、だけど、何かが足りない気がする。


何か…何かって何?



分からないよ。






私は本当に今、幸せなの――――…っ?





「ま…待って!」
「ん、どうしたの?」
「やっぱり…やめ、て……」



そうだよ。

やっぱり私は秀が好きだ。


体の相性は良くないかもしれない。
偏った性癖を持ってしまっているかもしれない。



それでも、私は秀が好きなんだ。



「ごめん、やっぱり私…」
「やめないよ」


……え?


「どういう、こ…」
「ここまで来て、止められるわけ無いでしょ」
「…き、キャアア!」
「英二、足押さえて」
「了解」


抵抗できない。

ヤダ。

待ってよ。

やめて。

タスケテ。





助けて…………







 「や………秀っ!!」












 「!」


















――――――……。




















「え……?」





まさか…え?

本当に、本物の……?



…!」
「しゅ、う……?」

不二君の腕の中から、私は秀の腕の中へ奪われた。


胸の中、私は涙を流す。


「秀…どうしてぇ……っ?」
「委員会で残ってたら…声が、聞こえたんだよ」


あの長い廊下を教室4つ分吹っ飛ばして?

………。


「ウソツキ」
「本当だよ」


眉を顰める秀。

勿論、私だって本気で嘘吐きだなんて思っちゃいない。
向こうも、きっとそれは承知の上。


笑顔は、同時に零れた。



そんな私たちを見て、英二が溜息混じりに言う。


「全く、最後はくっつくってわけ?」
「―――」
「まーオレが入り込める有余ないなんて分かってたけどっ」


英二がつまらなさそうだった。
不二君も言う。


「やっぱり、戻ったわけだ」
「……」

冷たく光る眼。
表情を、崩して。



「お似合いだよ、君たち」



行こう、英二。と言うと、不二君は荷物を持って英二と消えた。




教室の中、私たちは二人きりになった。


なんとも気まずい空気。



「…大丈夫か?」
「うん、平気……」


秀は私の乱れた制服を整えてくれようとした。
だけど、手を押さえた。

「…?」
「どう、秀。このまま」

私がにっと笑うと、秀は顔を微かに染めた。

「何言ってんだ、お前。こんな、学校で…!」
「いいじゃん。ね?お願い」


秀は微笑むと、整えかけた制服のリボンをまた解いた。



「本当に、それでいいのか?」

「うん。望みどおりでございます」




おでこを、こつんと合わせた。

戻って来れたね、私たち。







  **






いつも通りの愛撫。


丁寧で、優しくて。



重ねられる身体は、熱い。




「……んっ」

「大丈夫か、



訊かれた言葉に、私は笑顔で返せた。




「大丈夫、だよ」




嘘偽りないその気持ち。

今は、思えるから。



別にいいじゃない、イケなくたって。

そりゃあ、もしそうなれればもっと嬉しいけれど。



でも、今のままでも、私満足だもん。





快楽を同時に感じることが出来なくってもさ、

そこに居るのは、秀だから。



それだけでいいんだ。





「あ…」
「?」


動きを止める秀。
少し顔を下に傾かせながら、言う。


「もし、がやりたいんだったらこの前みたいな…」

「ううん、それはいいの」


首に腕を回した。

ああ、人肌って触れ合うとこんなにも温かい。




私は、ひとつの言葉を忘れていた。

伝えられないままずっと居た。



まだまだ問題は解決しないけど。

一つの快楽を二人で味わうことは出来ていないけど。


だけどさ。






 「私、幸せだよ」








…――唇を合わせた後、私たちはまた行為に溺れた。






















やっぱり大石好きだー!と思った。書いてて。

裏小説っていうと、こういう行為に陥ったとき、
なんだか結構簡単に最後まで行ってしまうのが多い気がして。
現実ではそんなに簡単にいくとは限らないぞー、ってことで書いてみた。(何)
お陰で、部分的に微妙にリアル?そうでもない?たは。
てか直接的な単語多いですねごめんなさい。(土下座)

ちなみに、不二様はずっと主人公を大石とくっ付けようとしてました。
そうでなかったら、英二誘わないで一人でやってるはずだもん。笑。
気付かせるために、それだけのためにずっとやってたんです。いい人。
だけど最後は大石が来なかったらそのままやり通すつもりでした。笑。

その後二人はどうなったんでしょうねー。
それは、ご想像にお任せします、ってことで。


2003/09/13