もう、嫌になった。
何もかも。
学校も友達も勉強も。
もう、終わりにしよ。
* unpleasant suicide *
「ー」
の声。
私は笑顔で振り返る。
「どうしたの、」
「ね、ライブのチケット当たっちゃった、一緒に行かない?」
手に持っているのは、今人気のグループのライブチケット。
席は前列の真ん中からちょっと右寄り。
なかなかのくじ運じゃないですか?
「きゃー、凄い!私も行きたい!!」
嘘。
「それじゃ、約束ね」
「うん。楽しみにしてる!」
嘘。
「金曜の夜だから。開けておいてね」
「オッケー、ばっちり!」
金曜ノ夜マデ、生キテルカナ、私。
「最近、自殺をする中高生が増えてます」
「………」
HRで話をする担任。
全然聴いちゃいない。
自分と関係ないから?ううん。
もう関係なくなることだから。
「君たちが授かったのは、たった一つの命です。
両親が力を合わせて育ててきた…」
「体を合わせて、じゃないんですかー?」
「そこ、五月蝿い!」
男子のふざけた言葉。
笑うクラスメイトたち。
その中私は一人だけ、肘を突いてぼーっとしてた。
なんか、疲れた。
生きていて先に何がある?
いずれ終わりはやってくる。
それなのに何で生きるの?
苦しみばかりのこの世界で。
早く死んじゃった方が、楽なんじゃないの――?
そんなことに気付いた、今日この頃。
毎日単調なことばかりを繰り返して無意味に感じられてきたし。
興味もない芸能の話に合わせて笑顔を作ることにも飽き飽き。
進路とかいったって、一流大学になんて行ったところで将来が保証されるとも限らず。
反抗して髪を染めてみた。
校則違反と知っていながらピアスもあけた。
一回だけ、体を売ったこともある。
世間は私を、不良娘と呼ぶ。
友達はを除いてみんな離れていった。
逆に教師が寄ってくるようになった。
そんなのは別に構わない。
どうでもいいから、モヤモヤとした気持ちを吹き飛ばしたかった。
末路はみんな、同じなんだから。
どうせなら早く苦しみから抜け出した方が、幸せじゃない?
考えれば考えるほどそう思えてくる。
楽しいことなんて、なにも、ナイ。
終わりに、しましょ。
いつが良いかな。
もう、今日決行しちゃいますか。
善は急げ。いや、悪を急ぐのか?
良く分かんないけど。
「さん」
「…大石君?」
掛けられた声に振り返る。
クラスの学級委員。
信頼感があって人望が厚い人。
でも、私は少し苦手だ。
「なんか元気無いけど、どうかしたのかい」
…どうして分かるんだろ。
本当に、みんなのこと気に掛けてるんだね。
いい人、なんだね。
だけどやっぱ苦手。
一番触れてほしくないことに触れる。
なんでそんなに心配するの。
私はみんなが離れていく不良女。
なんで自ら寄ってくるの。
なんでそんなに優しくするの。
「ううん、なんにもないよ」
「そうか…何かあったら、言ってくれよ。相談乗るから」
優しい言葉。
好意には応える。
「ありがと」
…今作った笑顔も、全部ウソ。
窓の外を見た。
空が綺麗だな、と思った。
方法はもう考えてあるんだ。
屋上から、私は飛ぶ。
インターネットで見た。
飛び降り自殺って、気持ち良いんだって。
一瞬、自分は空を飛んでるって錯覚に陥って。
そうしたら突然全身に衝撃。
それ以降の意識は消える…って。
それを実体験した人は今、車椅子の生活をしてるけど。
打ち所が悪かったのね。ん、良かったの?
よく分かんないや。
とりあえず、今は生きてる。失敗したんだ。
私は失敗しない。
「あれ、どこ行くの」
「ちょっと、気分悪いから保健室」
「マジ?着いてこっか?」
「ううん、大丈夫」
着いてこられたら、作戦も全てオシャカじゃんね。
一階にある保健室。
私は、階段を上った。
チャイムが鳴る。
気にしない。
上から降りてくる人と擦れ違う。
不思議そうな顔でこっちを見てくるけど。
でも、私が授業サボるなんて珍しいことじゃないもの。
何も声を掛けられることなく、上に辿り着いた。
屋上に出た。
世界が開けた。
やっぱり空は青かった。
私はこれから、ここを飛ぶんだ。
「………」
靴を脱ぐ。
自殺する人って、必ず靴を揃えてくんだってね。
なんか、分かるかも。
柵を掴む。
空がどこまでも青い。
白い雲がはっきりと見える。
さあ、行きますか。
「…………」
なんでフェンスを越えられないんだろ、私。
何か心残りがあるの?
そんなまさか。
私には何も残ってない。
じゃあどうして戸惑うの?
誰か止めてくれるのを待ってるの?
モシカシテ、ワタシハサビシカッタダケナノ?
違う。
違う違う。
そんなことない。
今、行くよ。
今逝くよ。
フェンスから身を乗り出した。
私は今、空を、飛―――。
「!」
「―――」
走ってきた誰か。
掴まれた腕。
思い切り抱き締められた体。
大石秀一郎。
「な、何で止める!離せ!!」
もがいた。
言い訳なんて何も無いし。
愛想笑いを作る元気も無いし。
そうしたら。
「好きだよ」
「――っ」
「君のことが、好きだ」
…意味が分からない。
「そんな格好をしてるけど、優しい心と明るい笑顔、俺は知ってる」
どうして、そんなことを言う。
「たまに寂しそうな顔をするのが、凄く気になった」
どうして、どうして?
「好きなんだ、…!」
どうして涙が滲んでくるの――…?
体は離された。
肩は掴まれたままだけど。
情けないこの顔も見られた。
と思ったら、向こうもそんな顔だった。
男の癖に、なんだよ…。
どうせ今の言葉だって、私を止めるだけの癖に。
人が死ぬのは嫌だから。
どうせそんな偽善の上に成り立ってるんだ。
自分がいい人で居たいから。
どうせそんな理由だ。
大石は口を開く。
「……別に、止めようとはしないよ」
え……?
「だけど、伝えずに終わるのは嫌だったから。それだけだ」
ちょっと、待って……。
「ほら」
体を裏返されると、背中をぽんと押された。
何よ、これ。
どういうことよ……!
「見られたくないんだって言うなら、俺は教室に戻るから…っ?」
気付けば、私は去ろうとする大石の背中に抱きついていた。
目から溢れる涙。
しゃくり上げる肺。
もう止まりません。
「……?」
「……バカっ!」
何故かそう叫んでしまった自分。
大石は優しく笑って、私の背中に肩を回した。
「ありがとう」
大石がなんでそう言ったのかいまいち分からなかったけど。
それでも、私の気持ちを汲んでくれてる気がした。
よく分からないけど。
アリガトウ。
やっぱり私は待ってたんだね。
生きる理由を探してたんだ。
やっと見つけた。
「やめたの?」
「うん」
「良かった」
「…うん」
「間に合ってよかった」
「うん」
「好きだよ」
ワタシモ―――……。
なんか書いちゃったけど…没にしようかなぁ、と悩んだ作品。
終わり方もお陰で微妙。
系統的にどれになるか分からず裏に放り込んだ。
好きだから死んでほしくない、じゃなくて、
好きだよ、という言葉で最終的に止めてしまう大石君が書きたかったのさ。
出来としてはいまいちだなぁ…。
私の嫌いな死にネタ(まあ、死なないけどさ)書きたかっただけの作品みたいになっちゃったし。
そして主人公が大石のことを好きになっちゃった理由が分からない。
うー。納得いかない。
まあ、窮地に追い詰められると人間の心理効果はなんてらかんてら、ってあるしね。
自分的にはいまいちな出来なこの作品ですが。
気に入ってくださる方が居ましたら幸いです。
2003/09/13