* only me *












「森ー、数学の宿題やったか?」
「僕?全然まだ」
「じゃあ一緒にやろうぜ」
「あ、俺も俺も」

ちょっとした会話に人が集る。
内村から森へ、森から桜井へ。
今日も不動峰中テニス部は元気一杯活動中。

そんな時、遠くから声が。

「森くん!」
「あ、今行く」

呼ばれて、森は輪から抜け離れていった。
残された2名は不満そうにその行く末を見守る。

「…誰だあの女」
「知らね」
「あれはうちのクラスの美化委員だろ」
「「石田!」」

こしょこしょと話していた二人は、
後ろから現れた大きな影に振り返る。

「そういえば森って美化委員だったな…」
「仲良いのかな、あの二人」

3人は睨むような視線を
楽しそうに会話する二人を当てた。

暫くそうして唸っていると、神尾がやってきた。

「よう、何やってんだ?」
「いや、別に…」

はぐらかそうとする内村だったが、
神尾自ら話をそっちの方向に進めた。
(天然やられ役の実力発揮)


「そういえば…今森から面白い言葉が聞けたぜ」
「何がだ?」

気付くと伊武も擦り寄ってきていることはさておき。
(顔は向けていないがどうやら話は聞きたいらしい)

神尾は気迫に押されながらも言った。


「森が…自分のこと“俺”って……」

「「何ぃ!?!?」」


その瞬間、その日一番の叫び声が木霊したとか。


「ちょっと待てよ、それって凄い似合わないだろ!」
「森が…俺……」
「聞き間違いじゃないのか、アキラ」
「オレは絶対に聞いた」

動揺のあまりに騒ぐもの、
大きなショックにふら付くものなど様々だったが。

つまり、みんな辰徳くんが大好きなんです。

「へぇ…女子の前だと喋り方変わるとか……」
「そんなことはない!クラスの女子には僕って喋る」
「ってことは、あの子だけにってことか…!?」
「同じ美化委員だし…」

「「も、もしかして!?」」


論争を繰り広げていると、
そこには橘の姿。

「何やってるんだ、練習始めるぞ…」
「「橘さん!!」」

全員に詰め寄られ、橘は少々焦り気味である。

「落ち着け、何があったんだ」
「実は…森が……っ」


事情を説明すること15秒。
一瞬の沈黙。
そして、口が開かれる。


「――…それはマズイな」
「でしょう!?」


橘の真面目な一言で、
更に会話に火が付いた。
(それでいいのか、部長よ…)


「石田、あの子の名前は!?」
「えっと、確か…」
「他に弱点とか!」
「いや、電話番号だろ。イタ電掛けてやる」
「ちょ、ちょっと落ち着け」
「だぁーちっくしょう!」


騒ぐこと暫し。


「すみません、橘さん。委員会のことで話が…」


来た。



詰め寄る。



「森、さっきの女誰だ」
「誰って、同じ委員会の子…」
「どういう関係だ」
「だから、同じ委員会…」

内村がびしっと指を指し、言った。


「伝えとけ。命には注意しろってな」
「え、あ、あぁ……?」


頭の上には疑問符が浮かんでいるようだったが。


「それじゃあ、練習始めるぞ」
「「はい!!」」


いつもより何故か気迫が篭っている不動峰中テニス部だった。





 その後少女とテニス部の間で何が起こったかというのは、別の話。






















森君の一人称が“僕”だと知って大喜びして書いた逸品。
でも、好きな女の子の前だと“俺”になるとかいう
勝手なドリムっ娘設定より。

続編書く予定有り。


2003/09/04