* 哀傷葬歌 *












記念日と呼ぶには相応しくない


でも特別な日。






今日は





忌日。







「英二」


「……不二」




振り返ると、顔馴染の姿。


毎年同じ日、同じ場所。



ここで会うのは…もう飽きた。





「来てたんだね」



「当たり前だ。忘れるわけ無いだろ」






視線を墓石にずらす。



そこに刻まれた、一人の人の名前。





「今年で何回目?」


「5回目」


「へぇ…もうそんなになるんだ」





揺ら揺らと揺れる線香の煙を二人で眺めた。


細く立ち上っていくそれは、空気に紛れて消える。





「大石……」





ぼそりと呟いた名前。

それは向こうに聞こえたみたいで、視線を当てられた。



「まだ、忘れられない?」



皮肉混じりな笑顔が一瞬目に入ったけど、直ぐに逸らした。


空を見上げながら、言う。





「忘れられるわけ、ないだろ」



「……だよね」






あれから、もう5年の月日が流れたといっても。

何も変わらない。


ここに来たときの空虚感は。




本当だったら、アイツはオレたちより一足先に成人して。

今頃は同じ大学に行って一緒のテニスのサークル入って。


少なくとも、あの頃はそう考えていた。








15歳。


命を失うにしては、早すぎた。



前日まで笑顔を振り撒いていた彼は翌日

心を持たない肉の塊になっていた。






「轢かれそうな子供助けてなんてさ」

「うん」


「…らしいよな」

「うん」





今でも忘れられない。


冷たくなっていたアイツの体。

自分の頬を流れた温かな液体。



今でも忘れられない。





忘れたいとは思わないけれど、

忘れたくないとも強くは思わない。



だけど。






「……ねぇ、不二」


「なに」




しゃがんでいたオレは立ち上がる。


少しだけ、空が高くなった。





「…歌、歌おう」



「歌?」





向こうは不思議そうな顔をしたけど、

にこりと笑ってオレの横に立った。



「何を歌うの?」

「あの頃の思い出を綴りたいよな。それで二人とも歌える歌」


考えるために一瞬の間。


「3年の合唱コンの歌とか?」

「メロディーラインが居ないじゃない」


「…校歌とか?」

「うーん、ちょっとやりすぎじゃない」



お互いちょっと考え込んで。

結論は結構早く出た。




「蛍の光でいこう」


「うん、それはいいね」




いつの間にかほとんど変わらなくなった身長。


肩を並べて、口から紡ぎ出した。











  ほたるのひかり まどのゆき











歌えなかった彼。


共に過ごした3年間、

祝わずに終えてしまった彼。


笑い涙も愁い涙も。

何一つ流さぬまま終わってしまった。



だから、今ここで。




















―――――――――――……。



















……ああ。













どうして、ここまで沁みるのだろう。


卒業式のときでさえ涙なんて出やしなかったのに。





悲しくて切なくて寂しくて。



そんな時に聞く歌は、余計しめやかになると思ったのに。




流れるものも気にせず歌い続けると、

やけに明るい歌に聞こえてきた。




それが悔しかった。












これは葬歌。


死者に向ける弔い歌。











はたまたこれは哀傷歌。


人の死を悲しみ悼む歌。












忘れないように。


心に刻み付けるために。













決して、君に届ける為じゃない。












だから、心にそっと留めておいて。



それが最後のお願い。






















すみません。大石君始まった瞬間に居なかった。(滝汗)
CP的に菊→大←不二だったのかな。
菊と不二は取り合いの最中だった…みたいな。

最近は歌を小説に絡めるのが好きです。
歌詞創作とはちょっと違って、歌の種類を使うというか…。(謎)

矛盾した言葉にも意味は有り。

今まで有り難う御座いました。幸せになってください。
ちょっとしんみりとした気分で終わります。


2003/08/23