* 魔法のコトバは諸刃のツルギ *
「………」
「どうした、頬膨らませて」
「大石君…」
休み時間、いつもなら一番に飛び出していく私。
今日は自分の席について、今朝起こったことを思い返している。
膨らんでいたという頬は、無意識だったけれど。
「実は…今友達と喧嘩、っていうかなんていうか…」
「揉め事か?相談だったら乗るけど」
「う〜ん…」
思わず曖昧な返事。
だって、本当に喧嘩とは言い切れないから。
でも、ちょっとしたことで意見の食い違いがあったことは確か。
「私の友達…昨日失恋したんだって」
「それはお気の毒」
「だからね、私は『元気出してね』って言ったの」
「うん」
私にしてみれば、極当たり前の行動。
失恋した。
落ち込んだ。
沈んでる。
…だったら励ましてやろうと思うじゃない。
「なのに向こうはね、『沈んでるときにそう言われると余計沈むからやめて』って」
「…そうか」
「分かんないなー。私だったら励ましてもらえば頑張ろうって気になるけどな」
これは人それぞれの価値観、っていうのかな、の問題だから、
どうしようもないとは思うのだけど。
とにかく、それで私は“立ち直るまで話し掛けないで”令を出されてしまった。
話し掛けるのまで禁止ってヒドイ…。
でも、私の言葉が余計傷付けちゃったのなら、仕方ないかな。
「ま、もし私が落ち込んでたら、励ましてやってね」
「…分かった」
大石君が微笑んだので、私は微笑返しを喰らわした。
大石君の笑う顔が大好き。
喧嘩は嫌だけど、大石君と話せたことはラッキーだったかな、なんちゃって。
冗談です。勿論ですとも。
――放課後。
「…なあ知ってるか」
「何を」
「2組の大石」
「――」
大石君の名前を聞きつけて、私は無意識に足を留めた。
何々?
何か面白い話でも?
「アイツ真面目で優等生に見えるけどよ」
「うん」
失礼ね…見えるんじゃなくて実際そうなのよ。
続く言葉は何?
場合によってはその眼前に飛び出して殴り込み…。
「実はさ、付き合ってるやついるらしいぜ」
「―――」
…何?
何て言った?
ねぇ、よく聞こえなかった。
もう一回言ってよ。
…ねぇったら!!
――――――――………。
意識が戻ったとき、私は雨の中に居た。
花壇の石垣に腰を下ろして、
膝を抱えて顔を埋めて。
――声を押し殺して、泣いていた。
「…ん?あ、おい!何してるんだこんなところで」
掛けられた声にも返事できない。
誰よりも愛しくて、誰よりも話し掛けて欲しくない人。
「こんなにずぶ濡れで…風邪引くぞ!?」
「大石…く、ん……」
顔を持ち上げても、雨が私の涙を隠してくれると思ったのだけれど。
表情で分かっちゃったのかな。
こんなところに居る時点でバレバレかな。
今、最高に沈んでること。
それはもう、立ち直れないくらいに。
「…何があったのかは知らないけど」
頭の上で傘を打つ雨の音が五月蝿い。
なんて、考えてる場合じゃなかったかな。
「元気、出せよ」
「―――」
…ああ。
そうか。
そうだったんだ。
ごめん。
ごめんなさい。
やっぱり私は何も分かっていなかったんだ。
プラスの力を、よりポジティブに。
マイナスの力は、よりネガティブに。
魔法の言葉は諸刃の剣。
…元気出せよ、なんて。
一番言って欲しくなかったのに。
…悲恋?表に持ってきちゃったよ。(笑)
いや、結論からいうとあんまり悲恋じゃないから。
実のところ、大石君の意中の人は主人公。(エヘv)
付き合ってるっていうのは、失恋したという友人のこと。
二人、ひょんなことで一緒に下校したらしいです。
それを誰かが目撃して、噂がどんどんずれてって、付き合ってるってことに。
友人さんはその帰り道の会話の中で、
大石君の好きな人がどこか別の場所に居ることを知って、よって失恋。
主人公さんは友人さんの好きな人を知らない、向こうも同じく。
二人とも大石君が好きなのは誰か知らない、という。
そんなオチ。…冷める?(汗)
続きは書かないと思われ。敢えてここで終えとく。微悲恋。
とある体験談から来てるんですけど。
私は基本的に、励まされると嬉しいですよ。
でも敢えて、励ましてくれ、というのはやめておこ。笑顔。
名前が出てないね。
文体もいつもと少々変えてみた。改行多目でリズム重視。
2003/08/20