* approximate approach *












「ねぇ、宍戸くんって怖くない?」


クラス替えしてもうすぐ一ヶ月。
私は早速できた新しい友達に、そんな話題を持ち上げた。
(クラス替えも間もなくまだ共通の話題が少ないものにとって、
 どの男子が良いだの悪いだの、その手のものは重要な話のネタなのだ)

「そう?そんなことないよ」

はそう言った。
予想外の返事に、私は眉間に皺を寄せてしまう。
だって、その宍戸君と言ったら。

背は高い。(まぁ、少なくとも私よりは)
無表情。(笑ってるの見たことない)
ぶっきらぼう。(ぶつかった時文句こそ言ってこなかったものの、謝りもしない)
それに、髪長い。(私の中で長髪の男といったら不良と相場は決まっている)

これだけの条件を揃えていて、怖くないはず、ナイ。
(とりあえず私の中ではそうなのだ。他の人がなんていおうと、そうなの!)

「じゃあは何でそうやって言い切れるの?」
「だって、一年のとき同じクラスだったもん」

…なるほど。
それは納得だ。
聞いているうちに、自然と興味が湧いてきた。

「で。実際のところどんな人なの?」
「なに、あんた宍戸のこと好きなの」
「それは話を聞き終えた後で決めます!」
「何それ」

は曖昧な笑いをした。
話を聞いて好きかどうか決めるといった私の発言が可笑しかったらしい。

まあ、少なからずと気になる人ってことには間違いないけど。
でも、恋とか。好きな人、とか。
そういうの…まだはっきり分かんないやっ。


は宍戸くんにまつわる色々な話を聞かせてくれた。
話を聞いたところで宍戸君の性格を纏めてみると。

明るく無邪気。(そ、想像つかない…!)
よく笑う。(ホントか…?)
運動神経良い。(まあ、ポイント高いよね)
成績はそこそこ。(同じだ…)

それから、優しい…って。

これは思わず声に出して疑わずにはいられなかった。
だって、宍戸くんだよ?あの。
目付き悪くって。全身傷だらけで。無愛想で。長髪の…!
理解しがたい…。

「それって本当に同一人物?ドッペルゲンガーでなくて?
 同姓同名でなくて?ソックリさんとか、影武者とか、落ち武者とか…」
「違うって」

私の言葉に割りいるように入ってきた。
(最後のほうはなんだか言っている意味すら違ったことには突っ込んでこなかったけど)
それ以上は、何も言えない。

…ふーん。
優しい、ねぇ。

「あ、でも…」
「?」
「確かに最近はぶっきらぼうだよね。髪を伸ばしたし。傷だらけだし…」

顎に手を当てながら考える
私は手をばたつかせて応戦した。

「やっぱり不良なんだよぅ!」
「えー…」

そんな話をしていると、チャイムが鳴った。
どこからか帰ってくる宍戸くんも見えて、
私は焦って自分の席に戻った。







夕方。
というか夜に近いその時間。

私は家の外へ出ていた。
なんだかプリンでも食べたい気分だったのでコンビニにいって帰るところだった。
学校の横を通りかかる。
(そう、私は私立では数少ない徒歩組のうちの一人なのだ)

すると、ライトアップされているテニスコートが見えた。
そういえば宍戸くんってテニス部だっけ。
そんなことを思いながらちらりとコートを覗いてみる。

そして、目を見やった。

そこに居たのは、宍戸亮本人だったからだ。


「(凄い…こんな時間にまだ練習してるんだ)」

最初は、純粋にそう思った。
でも…よく見てみると何かがおかしい。
宍戸くんは…ラケットを持っていない。
反対側のコートからは、宍戸くんよりずっと背の高い人がサーブを打ちおろしている。
当然宍戸君は体でそれを受けるしかない。
軽くよろめくのが見えた。
二球目。そのまま体ごと吹っ飛んだ。

これって…ヤバイでしょう!?
先生に…ああもう、きっとほとんどの人が帰っちゃってる時間だ。
でも誰かしらいるはず…。
でもでも、逆に宍戸くんも事件に巻き込まれちゃったら…!

「…ごめんね」

結局決心がつかず、私は家にそのまま帰った。
少し、後悔したけれど。







「…は〜ぁ」
「どうしたの、溜息なんか吐いちゃって。いつもの元気はどうした?」
〜!」

事情を説明しようとして…やめた。
もし噂にでもなったらそれこそ大変だもの。
(別にのこと疑ってるわけじゃないんだけど、ちょっとだけ口が軽いから、ね)

「どうしたの、
「…やっぱなんでもなぁ〜い!」

ジャンプしながら笑顔を見せると、も落ち着いてくれたみたいだった。


ー」
「あ、はいはい」

別のクラスの子に廊下から呼ばれて、
は私から離れた。

ふむ。
ヒマ。

その時…教室の隅でズボンのポケットに手を突っ込んでぶすっと椅子に座ってる、
宍戸くんの姿が目に入った。

う〜む…これは。
…決めた。

私は走り寄ると極力明るい声で話し掛けた。

「宍戸くんっ」
「…何だお前」
「えっ、まだ覚えてくれてないの!?私は…」
「名前じゃねぇ。それぐらい分ぁってるよ…ったく」

…あ、そうか。
話し掛けた理由ね!
はんはん。そりゃそうだよね。
“誰だ”なんて言ってないもんね。
“何だ”って訊いてきたんだもんね。
これは一本とられたね。

「…用がないなら離れろ」
「あ、待って。待ってってって…」

動揺して語尾が重なる私。
それを聞いて宍戸くんは…笑った。

「あ、あの…」
「はは、お前って変なやつ」
「…どうも」
「誉めてねぇよ、ったく」

その口調は厳しかったけど、声は優しかった。

「で、なんの用だ?」
「あ、えーっとね。…テニスって楽しい?」

直接的に聞くのはまずい。
さり気なく掠る部分から攻める。
これ一般常識、コモンセンスなり。

質問に対して、宍戸くんは眉を顰めた。
これはビンゴ?

でも…すぐに屈託のない笑みに変わった。
今日は笑顔サービスデーですか?

「何、お前これからやるのか、テニス?」
「えっ、あ、どうしようかなーって」

曖昧に答えると、向こうは強く言ってきた。

「楽しいぜ、テニスは」

そのときの表情は笑顔のはずだったけれど、どこか鋭くて。
でも裏のない素直な感情に見えた。

宍戸くんは続けた。


「楽しいし…好きだ。テニスが。だからもっと強くならなきゃいけない」


こんなことまで話してくれるなんて意外だな、っていうのはさておき。

強くなりたい、ではなくならなきゃいけない、という言い回しが少し気になった。
(スポ根展開としては、「強くなりたい…!」っていう展開でしょうが。
 あ、別にスポ根ってわけじゃないのか、そうだった)


だけど…宍戸くんは好きなんだ、テニスを。それで満足。



「…って何俺喋ってんだろな」
「私の話術」

冗談交じりにそう言った。
そうしたら…「かもな」だって。そしてまた笑った。



『キーンコーンカーンコーン…』

チャイムが鳴って、私はオートマーターのように、
考えることのないまま席に着いていた。

全身の血液が脳まで回ってくる音が聞こえる。


ヤバイ。
これって、やっぱり…。

・・・・・・。

私って、宍戸くんのこと―――。








はっきりと結論の出ないまま、週末。
そして、月曜日。

そこで私が見たものは、果たしてなんだったのか。


「……誰」


思わず独り言。

だって…宍戸くん…髪…。

「ばっさり切ったねぇ…」
「あぁ?」

眼前での呟き。
今度は本人にもばっちり聞こえていた模様。

どうやら、私は宍戸くんの頭に気を取られて、
その場にボーっと突っ立ってたらしい。
おまけに、本人が接近していることにも気付いていない。

「邪魔だ。どけ」
「あ、ごめん」

ぶぅ。何だ、今の態度。
この前ので少しは仲良くなれたと思ったのに…。
それは私の自惚れ?

ってそれはさておき。


髪切ったぁ〜〜〜!!



ってか、何ていうの?これ。
ぶっちゃけた話、いや、あの、本心で。


モロ好み…!



人間外見が全てとは言わないけど。
内面重視なつもりの私だけど。

…なんかカッコ良くなった。
一目見たとき、そう思った。
(一瞬誰か分からなかったのはまあ置いておいて)


完全に、心奪われました。


「どうしようね」


そう言ったとき、私の口は無意識に笑っていた。


そうか。
やっぱりそうなんだ。
表面的な態度とか、ちょっと怖いように感じる外見にだまされてたけど…そうなんだ。

私、宍戸君のこと好きなんだ。


どうしたら近付けるかな。
また話し掛けてみようかな。
テニスを始めたら、笑顔の理由も分かるかな?

あ、この前の夜のことも聞きたいな…でも、それは後×2!


とりあえず、もっと近くに行かなくちゃ。



今なら分かる。
一見怖いけど、明るくて。
無愛想だけど、たまに無邪気な笑顔を見せたりして。

そして、きっと、本当は…


凄く、優しい。


その真相を突き止めるため、私は教室の端の机まで走った。





 もっと近付きたい。

  その思いだけを抱えて―――。






















180000HITのリクは宍戸さんドリームでした。
主人公は元気娘ということを心がけたんですが…なってる;?
というかその前に宍戸さんのキャラ感勘違いしてないか心配ですが。

なんか長太郎が悪役です。ごめんなさい。あはv
原作に沿ってるつもりですが、時間的に設定可笑しかったりしたらすみません。
ってかなんか謝ってばっかのあとがきだな;

でも比較的楽しく書かせていただきました!
リクしてくださった凛さん、有難う御座いましたv


2003/08/08